風見の森 2


「ぎゃぁぁあああ!!」


 森の中に響くその声の下へ、急いで駆ける。

 幸にして、発生源はそこまで遠くなかったのか。

 道なき道を走り抜けることになると思っていたら、突然開けた場所に出て───その現場に遭遇することになる。


 その場所には、二人の16歳くらいに見える少女たちが───青色や赤色といったスライムっぽい見た目の存在10匹に囲まれており。


「てい!」


 赤い髪にピクピクと動く猫っぽいケモミミが頭の上に付いている少女が、その手に持っている剣を振り下ろすと。

 目の前のスライムを、ベチャッと両断した───かに思えた次の瞬間。それは二つに分かれて、それぞれがまた再びウニョウニョと動き出す。

 それをみて、うぎゃぁぁぁ!!気持ちわるいぃぃ!!と叫びつつ。

 そうして増えたスライムからの触手攻撃を、綺麗に剣で弾き返す。


 またもう一人の少女は、黄色い髪にとんがった耳という、まるでエルフのような容姿をしており。

 右手に持った杖を少し上に掲げて、ぶつぶつと何事かを言うと───その杖の先に水色の多重魔法陣が生成され。


「ウォーターカッター!」


 その叫び声と共に、杖の先から4つ程に分かれた鋭利な水で構成されたカッターが生み出されると。

 それが、それぞれ別のスライムに当たると同時。

 まるで弱点を突かれたかのようにプルプルっと震え上がると、その場でパァンッと破裂し。

 小さい石のようなものを落として、それは消滅する。


 しかし、今の攻撃で───というよりも、これまでの戦闘で蓄積した疲労からか。

 その攻撃の後に、手に持っていた杖を地面に突くと、はぁ、はぁっと浅い呼吸を繰り返して。

 ごめん、魔力切れた!回復するまでもう少し耐えて!と叫ぶように言い。


 ケモミミ少女の方は、相性悪過ぎる!と言いながらも、そのオーダーに返事をして。

向かってくる触手を切り落としつつ、本体が近付いて襲ってきそうになれば、剣のお腹の部分で叩き潰すように攻撃して。

 どうしても対処が出来なさそうであれば、文字通り切り飛ばすように剣を振るう事で、スライムとの間に強制的に間合いを取らせており。

 当人達は、それぞれ目の前の戦闘にいっぱいいっぱいになっているが、それは決して彼女達が弱いから、という訳ではなく。

 単に、戦闘経験の不足からくる余裕のなさが現れているだけで、そこには素人目線ではあるが、確かな技術があるように見える


「ぬわあぁぁぁん!!斬っても斬っても分裂するぅ!!」


 そう言いながら、ケモミミ剣士は切ったり叩き潰したりしつつ、時間を稼ぎ。

 エルフ少女は、魔力を回復するためか、何度も深呼吸を繰り返している。


 もしかしたら、彼女達はまだ力を残していて、この状況を脱する手段を残しているのかもしれないが。

 このまま敵の増援が無いとも限らないし、そもそも助けたくてここにやって来たんだ。加勢しよう。


「大丈夫ですか!!!」


 そう言いながら、彼女達へ向いているスライムの注意ヘイトを引くべく、自分の横の地面に向けて一発撃つ。


 すると、その音に反応したのか。スライム達も少女達もピクッと一瞬止まって、コチラを認識すると。

 その内の4匹程が釣られてコチラにやって来て、少女達の元を離れることになる。


 よし、上手くいった。

 これくらい彼女達と離れてくれたなら、角度を考えれば誤射は無くなるだろう。幸にして、地面は柔らかい土の上に低い草がサラサラと生えているというコンディション。

 いわゆる跳弾なんかは、気にしなくても良いはずだ。


「あ、危ない!!!」


 スライムが気付くと同様に、彼女達もコチラに当然気付き。再びスライムに自分たちが襲われながらも、一部のスライムがこちらへと向かっているのを確認したからか。

 猫耳少女が驚いた表情を浮かべながら、そうコチラに向けて言うが、俺は大丈夫だと返事をして。


 その言葉を全然信じていないのか、コチラをチラチラと伺いながら、逃げて!と何度も言う彼女に対して。

 そう言えばこの体、どう考えても幼女のそれにしか見えないし、心配されるのも当たり前かと思い直す。


 よし、決めた。

 それなら行動で示すかと、銃を構える。


 スライムはその触手をそんなに長く伸ばせる訳では無いのか。ノソノソと這いずりながらコチラにゆっくりと近付いてきており、先ほどの狼よりも何倍も狙いやすい的だ。


 唯一の懸念点は、ケモミミ少女の剣の攻撃によって、スライムが半分に分裂した点か。

 銃を撃って、小さいチビスライムみたいな感じに大量に分裂する、ということだけは、本当にやめて欲しい所だ。


 まあ、そんな想像をしていても仕方がない。とりあえず、撃ってみてから考えよう。


 そう思い、コチラに近付いてくるスライムを狙って───発砲。


 相変わらず、スナイパーライフルの本領を発揮しないくらいに近距離であり、赤いポインターが示す所と全く同じ所に銃弾が突き刺さると。

 それはスライムの体に超局所的な高圧力を作り出し───それが解放されたその瞬間。


 青色の体液が、間欠泉を吹き出すように体内から弾け出る。


 そしてそれは許容量を超えたのか。だんだんと、スライムとしての形がしぼんで失われていき。

 ふっと体が消滅すると同時、そこに小さい石が落ちる。


 うむ、どうやらしっかり効きそうだな。


 それを確認した後、コチラに向かってくる残り2匹にも発砲して。それらも同様に、体液をぶち撒いて石を残して消滅するのを確認する。


 よし、あと一匹。

 スライムに意思があるのかは全く分からないが。横で体液をぶち撒いて死んでいるにも関わらず、コチラに近付いてくるスライムに対して、何を思って生きているのだろうと考えながら。


 照準を合わせて引き金を引こうとしたその時───スカッ。


 あ、やば…弾切れだ。そういえば狼の時に撃った時から弾丸を装填し直してなかった…!


 それを認識した瞬間…目の前のスライムにとって、コチラが射程範囲に収まったのか。

 その体から、細かい触手をニョキニョキっと手を伸ばしてきて。


「あ、危ない!!」


 そんな、二人の少女の叫び声も虚しく。

 俺の体に触れようとしたその時───


 ええい!!!ままよ!!!俺は思いっきりその触手をブン殴ると…ブチブチブチッ!!とそれが先っぽから消し飛んでいき。


 お、おお!よく分からないけど、すごい力…!

 何度、最終奥義と言いながら、近付いてきた野生動物とこの拳で戦ってきたか分からないが───まさかスライムにも通じるとは。


 その最後の足掻きに、ピクッとスライムは驚いたのか、一瞬動きを止めると。

 その隙に後ろに後退して───銃に魔力を込めて、再び弾丸を装填する。


 そして。

「そんな触手、脅しにもならないんだよ…!」


 そんな事を口走りながら、そのスライムに向けて発砲。


 すると、気合を入れて撃ったからか。

 これまでのスライムの破裂よりも、かなり派手に爆散したかと思えば。

 その体から粉々になった石が落ちてきて、消滅する。


 お、おお?なんかクリティカルヒットした?


 そんな事を思いつつ。ああ、少女達を残しているんだったと、そちらを見てみれば。


 戦う敵の量が残り3,4体と少なかったからか。

 ケモミミ少女が触手を跳ね返して、エルフ少女が魔法を撃つという連携プレイにより、危うげなく残りのスライムを倒していた。


 戦闘終了だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る