忘れられた遺跡 8


 シロネは、うーんと言いながら。


『その様子だと、銃は殆ど扱ったことは無いですよね。』


「うぇ!?なんで分かったの?」


 そう、俺はこうやって一丁前に、銃、カッコいい〜と思いながらも。

 その実触ったことのある銃といえば、お祭りのくじ引きで手に入れたおもちゃの銃とかくらいで。

 BB弾を発射して遊んだことはあっても、ナントカミリ弾を入れた実銃なんて、触った事も見た事もないはずだ。


『まあ、それは単に、経験者なら絶対にそうはしないような持ち方をしているからですが…そうですね。初心者という事であれば、最低限身につけて欲しい事を説明しておきましょうか。』


 シロネはそう言うと、では、心して聞いてくださいね、と続ける。


『銃を取り扱う上で最も大事なこと。それは、“安全管理”です。』


「安全管理?」


『はい、そうです。銃の撃ち方だとか言う前に、何よりもまずそれだけは押さえておいて欲しいわけです。』


 今からいう事は、本当に絶対に守ってくださいね、とシロネは念を押してから、説明を始める。


『まず第一に。必要な時以外で、この銃を外に出してはいけません。』


 つまり、今こうやって銃を取り出した訳ですが。危険な場所から脱したりした場合など、銃を持つ必要が無くなった場合は、“テイクオフtake off”と私に指示してください。そうすれば、銃を虚空にパッとしまう事が出来ます。


 なるほど。彼女が言うには、銃を持っているだけで周りの人にも不安感を与えるし、何より何かあって事故が起こっても困る、という事らしい。


 確かに、言われてみればそうかもしれない。

 そんな街中で銃をぷらぷらぶら下げているような人間がいたら、普通に怖くて近寄れないだろう。


 …って、ちょっと待て。今、虚空にしまうって言わなかったか。完全にスルーしそうになったが、実はとんでもないことを言っていなかったか。


『ああ。それについては、Kl-08-aの機能の一つなのですが…説明が難しいので気にしないでください。まあ、アイテムボックスの一種みたいなものだと思って頂ければ。』


 とはいえ、今は最低限の武器とかを入れるのがやっとなので、何か持って帰れる訳じゃあないですから、と言って。

 残念。地面に落ちてる白い結晶とか、少し気になるから持って帰りたいなと思っていたんだけど。無理なら仕方がない。


『話を戻しましょう。これだけは覚えておいて欲しい事二つ目。実際に銃を“撃たなければいけない状況”にならない限り、銃弾を銃の中に入れないで下さい。』


 貴方が今手に持っているMPsG-1は、魔力を込めるとその分実弾が装填されていく、魔力型半自動小銃の一種なのですが。つまり、実際にそれを撃つ状況になるまでは、銃に魔力をこめたりしないで下さい、ということです。


 シロネはそう言うと、こうする事によって銃の暴発により事故を起こす可能性をグッと減らせるので、絶対に守ってくださいね、と念押しをする。


『そして3つ目。銃口の先にあるものを、常に確認して下さい。』


 特に、人に向けていたりなんかしたら、その相手に無駄に恐怖感を与えてしまうものですし。何かあった場合は大変な事になるので、本当に注意してくださいね、と続けて。


『そして四つめ。実際に撃つその瞬間まで、引き金に指をかけないでください。』


 これらを徹底に守る事で、意図しない銃の暴発は防げるでしょう。

 シロネはそして、では最後になります、と言って。


『五つめ。実際に撃つときは、その射線上…すなわち、銃口から相手との間、そしてその相手の奥も含めて。もし仮にそこに銃弾が当たったとしても、問題がないものしか無い事をよく確認してください。』


 相手を狙っていると、集中してしまい周りが見えなくなるものです。横から人が横切ったり、敵に当たった銃弾が突き抜けて奥にいた味方に当たったりなどしたら大変なので、打つ前は一呼吸置いて、本当に撃っても大丈夫なのか、きちんと周りを確認して下さい。

 もし、その自信が無いのであれば撃ってはいけませんよ。


 そう締めくくったシロネは、では、とりあえず、と続けて。


 長くなって退屈でしょうから─── 一発、撃っちゃいましょうか!

 今まで真面目トーンで喋っていた彼女は、雰囲気を変えるためか声を明るくしてそう言うと。


『では早速、銃に魔力をこめてみてください。』


 先程まで、言われてきた内容を心の中に刻もうと何度も反芻して思い返していた俺は、急に訪れたその実践の機会によっしゃあ、っと喜び。

 やってやるぞと心に決めて、早速と。手に持っている銃に、言われた通りに魔力をこめてみると。


 銃に描かれた、白い模様が仄かに光ると同時、カチリと何かが装填されたような音が銃から聞こえてくる。


 おお…。なんかドキドキしてくるな。


『装填数は5発。銃弾が無くなった場合は、同様に魔力を込めるだけで、再び装填されます。』


 そう言うと、では、十字の道の先にある土壁を狙ってください、と指示をする。


 なるほど理解した。そう心の中で返事をしながら、MPsG-1をヒョイっと持ち上げて、その土壁の方に、何となく狙いを定める。

 すると、そこの所に赤い光点のようなもの───魔力で形成されたポインターが表示されているのが見える。


『それは、着弾予想地点を示すものになります。屋外ならともかく、こういった屋内で、しかも近距離で撃つ分には、かなり正確なものになっているはずです。』


 なるほど、それはつまり。要するに、あの場所に銃弾が打ち込まれると、そう思っていいという事で?

 そう聞くと、はい、とシロネが答える。


『では、早速撃ってみてください。』


 あ、最初に説明した、安全管理は怠らないようにお願いしますね。


 そう付け加えた彼女に、ハイ、とすっかり忘れそうになっていたそれを思い出しながら返事をして。

 そして、それを思い出しながら、言われた安全管理をモタモタとこなしつつも、しっかりと狙いを定めて。


 そして───パァンッ!!!!


 鼓膜を大きく震わせながら打ち出された銃弾は、次の瞬間には土壁に着弾し…そして、かなり奥まで貫いて止まる。


 お、おおお。これが銃…。


 撃ったときの銃から来る、ドシンとした重い反動と、鼓膜が破れてしまいそうになる程に大きい音を打ち鳴らす発砲音。

 ああ、この音と振動…なんだか、クセになっちゃうかも。

 そんな事を考えながら、一人気持ちよくなっていると。


『どうですか、銃の威力は。』


 そう言われて、俺は興奮しながら。


「やばいよこれ、本当に!すごい!強い!」


 語彙力が消滅したその感動の感想に、シロネは確かにそうですが、と同調しながらも。


『これが銃なんです。先程、安全管理について口酸っぱく言ったのも、このように、銃という武器が“強すぎる故”なんです。』


 そう言われて───確かに、とふと冷静になって気づく。

 こんな威力が出るようなもの、人に向けて撃った時には、どうなってしまうんだと考えると…。

 そんな想像をして、少し顔を青くすると。シロネはフォローのためか、気遣って言う。


『まあ、そういう想像が出来るのなら大丈夫でしょう。銃は安全に使えば素晴らしい道具なのです。決して、使い方を誤らないように。』


 そう言われて、俺は、ハイと返事をするほかなく。改めて、先程習った安全管理について、しっかりと守らなければならないんだなと思った。


『では、最後に弾丸を取り除く方法です。』


 シロネは、その少ししんみりとした空気を変えるためか、声を明るくして話題転換を行う。


『普通の銃であれば色々とあるのですが…これは特別製でして。

 “リムーブremove”と指示してくだされば、弾を全て取り除く事が出来ます。』


 では、やってみてください。その言葉に従って、“リムーブ”と口に出すと。


 ガチャンッと音がして、同時。銃から魔力が霧散する感覚がする。どうやらこれで銃弾が取り除かれたのだろうと察する。


『これで、銃から弾を取り除くことが出来ます。』


 魔力が勿体ない、と感じるのも分かりますが。銃弾を銃にセットする時に必要な魔力量は、“そういうふうに”調整されているので、かなりの少量で済みます。

 なので、安全管理のためにも、必要が無くなったらこまめに弾を取り除いておいてくださいね。


 そう締めくくると、彼女は、これで全ての説明を終わりたいと思います、と続けて。


『もし何かあれば、気軽にお呼びください。私は貴方のサポートAI、シロネですから。』


 そう言うと、彼女は静かになり。

 あ、そんなに突然スンッてすぐにフェードアウトするものなのねと感じながら。

 俺も、よし、と気合を入れて。さあ、探索再開だと、動こうとしたところで。


『あ、言い忘れていました。』


 突然、ニョキっとシロネが話し出して、先ほどの別れは何だったのかと言わんばかりにずっこける。


『話はガラリと変わるのですが。このステラ・ハートでは、一度だけ出来るレベルアップの他に、共鳴する事で何度でも魔力の回復ができます。冒険の間やボス戦の前など、回復したい時には積極的に活用すると良いでしょう。』


 共鳴したい場合は、私に言ってくだされば出来ますので、いつでもお呼びください。それでは。


 そう言い残して、彼女は再び消えると。

 何か締まらないなぁと思いつつも…あれ。

 共鳴すると魔力を回復できるって言ってたけど。ここでもう一回彼女を呼んだら、更に締まらないのでは。


 そんな事を思いながら彼女をもう一度呼び出して、再び共鳴して白い魔力を自身にグォォッと取り込んだ後。改めて、別れることとなった。


 さ、さあ。気を取り直して、再出発だ。


 そうして、一つだけ土で埋もれていないアーチの先を目指して十字の地面を歩いて進み。

 この、ステラ・ハートのある空間を後にした。

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