忘れられた遺跡 7


『おめでとうございます。これで、魔法を使う最低限の技術を習得する事ができましたね。』


 では、続いて実際に魔法を使ってみましょう、とシロネは再び説明モードに入る。


『基本的には、貴方の体に備わっているプリセットの魔法を使っていただく事になります。』


 プリセットの魔法?そう疑問に思うと、彼女は、はいと言って。


『つまり、自分で想像しながら魔法を発動するのではなく。予め、どんな魔法を発現させるのか決めておいて、指定した量の魔力を込める事で、発現するような魔法、と言う事です。』


 分かりやすい例を挙げるなら、ゲームとかでキャラクターが使うような魔法、というと良いでしょうか。


 そう言いながら、それとは対照的に、と言って。


『そういった、あらかじめ全てを決めておくのではなく。その場その場で、火力や消費魔力量などを決めて魔法を使うやり方を、マニュアルで魔法を使う、と言ったりもします。』


 もし、貴方が錬金術師ではなく、魔法使いを目指すのであればそれも良いかもしれませんが。そうでないなら、プリセットの魔法で十分だと思います、と付け加えて。


『では、早速魔法を使ってみましょう。』


 そう言うと、使い方は簡単です!といって説明を続ける。


『使いたい魔法を口に出すか心の中で叫ぶかして私に指示して頂ければ、魔法を発動する“待機状態”に移行することが出来ます。』


 例えば、“キュアcure”と言ってみてください、と言われ。

 素直にその言葉を口に出すと───体を中心として、その周りに見るからにゲームやアニメの中でしか見ないような、魔法陣が展開される。


 おお…すごい…。なんか全然実感ないけど、魔法を使っているような感じがする…!


 青色に輝いて見えるそれは、完全に魔力で構築されていて、現実の物質として顕現している訳ではないためか。いつ弾けて無くなってもおかしくないような、そんな不安定さが垣間見える。


『はい。この待機状態においては、魔法陣が何らかの形で維持が出来なくなったりした場合───つまり、敵から一定以上の妨害を受けたりすると、待機状態が解除されてしまいます。』


 そう言うと、デモンストレーション代わりにか。展開していた魔法陣がパリンッと砕け、空中に霧散する。


『ですのでこうなってしまう前に、指定量の魔力を、魔法陣の中心付近に集めてください。』


 どれだけ必要なのかは、都度こちらで確認いたします、と言って。再びキュアと指示してみてくださいと言われる。


 俺はそれにそのまま従って、“キュア”と言うと。


 先ほど見た魔法陣と同じような魔法陣が、俺の周りを再び取り囲むように展開され。シロネが、残りの魔力のうち、1/6程度で足りますよ、と言うことで。

 体の中にある魔力のうちそれくらいをもぎ取って、確か、中心側に魔力を乗せるんだったかな、と、グググっとそこに魔力を移動させると。


 その瞬間、魔法陣がキラキラと静電気のような小さい青い雷を発しながら、ピカッと光り。

 ───俺の体に付いている汚れが片っ端から消えていくのと同時、元々着ていたであろう服が中心側から再生していって。


 学校の女子制服を元にしたような、可愛いブレザーとスカートという服装に、白色のリボンで結ばれた小さいツインテールの黒髪。

 太ももあたりまで長く伸びている黒い靴下に、焦茶色の動きやすさを重視したロングブーツという、本来あるべき健康的な少女の姿に。

 魔法一つで戻ってしまったのである。


 お、おお…。すごい。なんか、魔力を突っ込んだら、服までオマケで復元してくれるなんて。魔法ってすげー…。

 そう考えていると、シロネは、ああ、それは単純な話です、といい。


 Kl-08-aの体は、服装も体の一部として認識しているので、回復キュアをしたらそれまで回復した、という訳らしい。


 ふうん、なるほど…。まあ、何にせよ、魔法一つで服の汚れまで落ちて、この今着ている服のように新鮮になるなら。それはなんて素晴らしいのだろうか。


『あまり、連発はしないでくださいね。魔力はじきに回復するとはいえ、無限という訳ではないので。』


 あ、はい。


『ちなみに、指定量よりも多い魔力を乗せたからといって、火力が上がったりする訳ではないので注意してください。今回の魔法は自分の体の中に“基点”、すなわち魔力を乗せる部分があったので関係ないですが。自分の体の外に基点があるような魔法を使う時は、その場で霧散して消えてしまうので。』


 細かいところから節約です!そう言って彼女は燃え上がる。

 なるほど…。彼女のことについてはまだ良く分からない事も多いけど、何となく、もし人間としての体を持っていたのなら、血液型はAだろうな、と。

 そんなくだらない事を考えていると。


『では、続いて攻撃手段についてです。』


 “エクイップequip”と言ってみてください、と言われ。

 その通りに発音すると、今度は自分のちょうど右半身近くの前方あたりに白い魔法陣が何重か重なって展開される。


『どうぞ、それぞれに魔力を込めてみてください。』


 送る魔力はそんなに必要は無いですよ、と付け加えて。

 よし、じゃあ早速魔力をそれぞれの基点に込めようとした所で。


「あれ?空中に魔法陣の基点があるけど、その場合どうしたら?」


 先ほど、魔力を自分の外に切り離したその時の感覚を思い出す。確か、そうなってしまうと自分の制御下からは離れてしまい、もう自分の思うように移動させる事は出来なかった筈だ。

 もしかして、それを事前に予測して、魔力を基点に向かって打ち出すとかするのだろうか。


 そう疑問に思ったその時───ピアノ線よりも細い、魔力で構成されたような糸が、自分の体とその基点をそれぞれ繋ぐように伸びているのに気付く。

 あ、もしかして。


『はい、そうです。その魔力の糸───正確には、“アンカー”と呼ばれるそれを辿って、魔力を送る事になります。』


 結構頑丈なので、あまり恐れずに魔力を送って大丈夫ですよ、と言い添えた彼女の声に従って。

 よし、それじゃあ早速と、それを辿って、いくつかに分かれている魔法陣それぞれに魔力を送ると。


 その全てが必要な魔力を受け取ったと認識したのか、それぞれが白く光り輝き。

 ───その中心の魔法陣から外側の魔法陣に向かって、3Dプリントがされるように何かが生成されていき。


 そして、それはある種のスナイパーライフルのような見た目をとって。白い発光が終えると同時、空中から落下しそうになったその銃を慌ててキャッチする。


『それが、貴方に使ってもらうKl-08-aが持つ固有武器の一つ、MPsG-1です。』


え、えむぴー…え?なに?動画か音楽の拡張子?ちょっと聞き逃してしまった。


『…MPsG-1です。とにかく、その銃が貴方の使う攻撃手段となる物です。』


 そう言われ、この銃───MPsG-1をよくみてみると。

 黒色を基調とした見た目をしていながら、側面には白い幾何学的な複雑な模様が入れられており。

 材質も、プラスチックのように見えて、よく見るとそうではない良く分からないもので出来ていて、なんというか、すごくカッコ良く。

 忘れそうになっていた男心をくすぐらせる、素晴らしいものである事が分かった。


「この銃、すごくカッコいい。」


 気に入った。ものすごく。


『では、ここから本当に最後のレクチャーです。』


 あ、はい。がんばります。

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