忘れられた遺跡 2
廊下部分も棺の部屋と同じくして、白く光る見たことの無い石が天井に等間隔に取り付けられており。ほの明るい、というくらいではあるが、遠くまでを見渡すには充分な明るさが担保されていた。
そしてそれ故に、この謎の石造りの通路も棺のあった部屋と同様。
幾つかの扉と突き当たりに見える下に続く階段以外には、基本的に何もないことが直ぐに分かった。
ただ、本当にそれだけなら別になんともなかったのだが。
「うへぇ…。なんか足がペタペタする…。」
この謎の石で造られた場所───仮に遺跡とでも呼称しよう───が、おそらく地中深くに埋もれているためか。
空間全体がどこかジメジメとしており、空気が相当悪いように感じられるのである。
言うなれば、まるで洞窟の内部にいるような。湿度100パーセントのむわっとした感覚が体にまとわりついて、かなり気持ち悪い。
まあ仕方ない。ここは、我慢するしかないだろう。
さて。
そんなことを考えていると、初めにいた部屋から最も近い場所にある、2番目の扉の前までやって来た。
「よーし。…開けるぞ…。」
今度こそは慎重に、と。先程の部屋よりはひと回り小さいその扉に手をかけて、それを開く───
バキッ!ガラガラ…。
───ことはできず。扉は刺激を与えたその瞬間に完全に崩れ去り、砂埃が舞い上がる。
「ケホッケホッ」
そのせいで、細かな粒が気管支に入ったのか。喉が詰まって咳が込み上げる。
しかし、それもじきに収まり。ふぅ、と息を整え終わった頃には視界の塵も晴れ、目の前の部屋の様子が見えてくる。
そこは───ただの空間と言っても差し支えないだろう、何もない部屋であった。
強いて言えば、天井についている光る石以外には目につくものもなく。最初の部屋に置いてある、俺が入っていたであろう棺のようなものもなく、本当にただ何もないという結果だけがそこにはあった。
「ええ…」
これには流石の俺もガックリする。こうしてやっとの思いでここまで歩いて来て、砂にも塗れたのにこの仕打ち。
せめて、宝箱とまではいかなくても、木箱や壺、紙なんかが落ちていてくれれば、面白いのに。
…まあ、現実なんてこんなものといえば、そうなのだが。
それと同時に、しかし、と思う。
まだ、これは最初の部屋を除けば一つ目の部屋だ。この遺跡には何もないと悲観するにはまだ早いだろう。
他の部屋を見れば、もしかしたら何かあるかもしれないし。
よし!
俺は心の中で気合いを入れ直す。
ここは要するに、ハズレの部屋だったって訳だ。他にもまだまだ部屋は沢山あるし、奥には階段だってある。
探索ポイントはまだまだ残っているのだから、悲観的になるのは、それらを全て調べ終えてからでも遅くないはずだ。
そうと決まれば、何もないここで立ち止まっている訳にもいかない。早く、次の所を見てみないと。
◇ ◇ ◇
こうして俺の、この世界で初めての冒険が始まった。
「えい!」
どうせ壊れるので、初めから扉を殴って壊して部屋の内部を見回す。何もない。
「よし次!」
頭では、もう少し慎重に進んだ方が安全面でも良いんじゃあないか、というのは分かっているのだが。
「そいや!」
今度は扉を蹴り壊して部屋の内部を見回す。何もない。
「よし、次だ次だ。」
やはり、どんなに環境が最悪で、命の危険があったとしても。こんな未知を目の前に、ゲームの中のような心踊る「冒険」をを止められる訳もなく。
「てい!」
扉をタックルでそのまま吹き飛ばす。土で部屋が埋もれていて、何かあるとかそういう次元の部屋ではなかった。
「うーむ。次!」
物語の中の錬金術師の一人は、閉ざされている壁は破壊するものだと言っていたのを思い出して。
「せやっ!」
扉に向かって手を突き出して、壁ドンによって破壊する。何もなかった。
「これで残りあと二つ。」
それを真似してみると思いの外、破壊活動が楽しくなってきてしまい。
「とりゃあ!」
扉に向かってドロップキックをして破壊する。扉を突き破った目の前が土壁で、そのままぼてっと体がそれに突き刺さって落ちた。
「ここもダメ。」
今回はフィジカルでの破壊ではあったものの、次回がもしあるなら、その時は自分の錬金術で作った爆弾で破壊したいなーとか思いながら。
「ここが、最後…!」
片足をついて、上段蹴りで扉を破壊する。しかしやはり何も無い。
「うぐぐ。この階の調査ポイントを全て潰してしまった…!」
この階層の、今自分が調べられる所は全て調べ終え。得た成果はまさかのゼロ。
贅沢は言わないから、布の一枚でもあってくれと願ってはいたが、残念ながらそれが成就する事なく。
最後のこの部屋も当てが外れて、残るは階段のみを残す事になった。
◇ ◇ ◇
「埋もれてる…。」
こうして階段の近くに来た事で初めて分かったが、どうやら下に行く階段の隣に上に行く階段も設置されているようで。
そっちもどうなってるか気になるなぁ、と、階段の奥を見上げると、なんとびっくり。
完全に土で埋もれており、先に進むことが出来ないようになっていた。
そうなると、だ。
「こりゃあ、当初の予定通り階段を降りて行くしか無いね。」
そう呟いて俺は、下に続く階段の奥を見下ろす。
天井の発光する石が存在しないのか、もしくはうまく機能していないのか。その先はかなり真っ暗になっていて見通すことが出来ないようになっており。
ここを通り抜けるためには、かなり風化してボロボロの階段の不安定さに恐怖を感じながら、闇の中を進む必要があるように思えた。
頼むから、階段だけは風化して崩れないようになっていてくれ。
そうやって、心の中で天に祈りながら。
おっかなびっくり、丁寧に慎重に。階段を一段ずつ降りていくのだった。
◇ ◇ ◇
そうして、どれだけ階段を降りた事だろうか。
幸にして、土でこの先が埋まっているから階段の先が真っ暗に見えた、という訳ではなかったようで。
ゆっくりではあるが闇の中、足を踏み外さないように一歩ずつ、深い深い闇の底、地底の奥へと進むことができた。
「それにしても、この階段長すぎないか…?」
俺は、真っ暗闇の中でそう呟く。
その音が絶妙な反響をしたのか。キュォォォオ…と謎の生物が泣いているような声が返って来て、ひょぇっと涙目になりながらも。
ペタペタと足で地面を鳴らしながら、一歩ずつ一歩ずつ、階段を降りていく。
すると。
「ん?」
ずっと真っ暗闇の中を降りていっていたからか、それに直ぐ気がつくことが出来た。
仄かな、それでいて白っぽい光。
薄いながらも、階段の闇の中に差し込んでいるそれは、ずっとこのまま暗闇が続くんじゃあないかと、少し恐怖に怯えていた俺に、安心感を与え。
それと同時に、なにか空気がガラリと変わるのを感じた。
この先、絶対何かある、と。どこか予感めいた確信を心の中で持ちながら。
やっと待ち望んでいた光だと、少し足早に降りていくと───それは、突然現れた。
ビル一つが入る程の巨大な空間。
視界めいいっぱいに広がるそこには、無数の白く光る結晶が、天井から壁から“空中”から、様々な形態で生えており。
この広さ故に、そこまで光の明るさは届かないものの。この遺跡の天井に埋め込まれていた白く光る石を何万倍と巨大化したようなものが満遍なく存在しており、その空間を白色でありながらも立体的に彩っていた。
しかし、それだけではない。
空間の中央部には───白い渦を描きながら光っている土星のようなものが浮かび上がっており。
それは、幾つかの非ユークリッド幾何学的な光線や光曲面を発しながら、ゆっくりと天体のように自転して動いていた。
ビル一つ丸々入る程の大きさの空間を幻想的に光で彩って、静謐さと深淵、そして神秘性を秘めているそれに。
なんだ、あれは、と。
心のどこかを熱く震わせながら、初めて見るファンタジーの中でしか有り得ないだろう幻想的な景色を前に。その美しさからか、それともその神秘性からか。
それを目の前にして、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
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