三等星

 どうか、どうか、私の太陽でいてください。


 幼い頃に見た、貴方の眩しい笑顔がずっと私の中に焼きついています。私の一等柔らかな部分にしまった宝物のような輝きでした。臆病だった私の手を引いて、外の世界へ連れ出してくれた貴方の後ろ姿が、私の道導となったのです。いつだって貴方という光を追いかけて生きてきたのです。貴方の話す言葉が何よりも尊いものでした。貴方が私に与えて下さった全てが私を形作っています。この世に貴方より眩いものはないとそう思ってここまで来たのです。

 だというのに私は出会ってしまいました。幼い私の中にある鮮烈な光すら翳むほどの強烈な輝きに。

 一目見て、分かりました。信じられないほど眩い光でした。人はこれを太陽と呼ぶのだと、そう思いました。視界が白むほどの光です。目の焼けるような輝きを放っていました。私がこれまで太陽だと、そう信じてきた貴方が仄かに輝く星であったのだと突きつけるような眩さでした。

 私の世界がぐらりと傾くような衝撃でした。私は、私を照らし導いてくれた貴方を──太陽を愛していました。けれどこの輝きが、全て焼き尽くすような光が、それを否定するのです。今まで歩んできた道程も見えぬほどに強い光で私を照らすのです。近づけば焼けてしまうような光です。真夏の太陽のようにジリジリと、私を焦がしてゆくのです。その痛みすら気にならぬほど強烈な眩しさでもって私を導こうとするのです。それでも、それでも、私にとっての太陽は貴方でした。私の唯一でした。

 この世で一番に大切で、愛おしくて、憧れていました。貴方こそが太陽なのだと、私の太陽なのだと、そう信じて生きてきました。私を形成する、幼い頃の柔らかな記憶は貴方の光の記憶です。それほどに貴方は私の全てだったのです。だというのに、あの眩い人は私の中の一等柔らかな部分にいつの間にか勝手に居座っているのです。無遠慮に私を照らすのです。太陽は己だと言わんばかりの苛烈な輝きです。息ができぬほどの光です。

 それでも、私はその光に惹かれてしまうのです。篝火に自ら飛び入ってしまう羽虫が如く手を伸ばしてしまうのです。もはやそこに私の意思などありません。太陽の輝きが私を勝手にそうさせるのです。肌を焦がし肉を焼き骨の髄まで燃やし尽くすような人です。触れればただではすみません。近づくだけでも息苦しいのです。けれど、気づけば私は手を伸ばしているのです。

 嫌なのです。貴方以外を太陽だと思うことも、その光に焼かれることも。手を伸ばすことが裏切りに思えてならないのに、無意識に触れようとしてしまうのです。それが酷く耐え難く、私の心を蝕むのです。

 どうか、どうか、私の太陽でいてください。貴方の輝きだけを唯一尊いものだと思っていたいのです。この世に貴方より眩いものはないのだと、そう信じて生きてゆきたいのです。この先にどんなに眩しい光と出逢っても、貴方の他に太陽などないと、私の人生を照らし出すものは貴方でしかあり得ないと、そう言いたいのです。

 私を照らすものは貴方でしかあり得ないのだと嘘偽りなく言いたいのです。幼い頃に見た光は太陽のそれだったのだと信じたいのです。貴方の光でこの身を焦がしたいのです。

 どうか、どうか──

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