かなわぬ願いとありったけの感謝
月夜アカツキ
かなわぬ願いとありったけの感謝
「ずっと好きでした!付き合ってください!」
絶望した。
まさかわたしが3年間思い続けていた男の子が卒業式の今日に告白をするなんて!それも私の目の前で!
告白されるのが私だったらどれほどよかっただろうか。
告白された女の子は驚いた表情をした後、「はい!よろこんで!」といった。
うれしそうな男の子の表情。わたしにはこんな表情を向けたことはないのに。
もちろんわかってる。それはかなわないことだと。
だけど!!『彼のことを一番思っているのはわたしだよ!』って言えたらどれほどいいか!自分の思いを伝えることができたらいいのにとどれほど願ったことか!
楽しそうに話すこの子たちを見ていると悲しみで胸が張り裂けそうになる。苦しくなる。視界がぼやけてきた。
いいなぁ。この子たちは卒業した後もデートに行ったりして楽しい時を過ごすんだろうな。
おとなしくあきらめなきゃいけないってことはわかってる。でも・・・やっぱり割り切れないよ。
その時、女の子が男の子に質問をするのが聞こえてきた。
「ねえ、どうしてここで告白しようと思ったの?」
男の子は穏やかな笑みを浮かべてわたしのほうを見た。
「この木があるからだよ」
え?わたし?
「この木が3年間ずっとボクたちのことを見守ってくれている気がしてね。この木を見ているとなんだか勇気がわいてくるんだ」
気づいていて・・・くれたんだ。
わたしは創立したときからこの場所でみんなのことを見守ってきた。でもいままで誰もわたしが見守っていることに気づかなかったのに。
冷たくなっていたわたしの心に暖かなものが広がっていくのを感じた。
この子は気づいてくれたんだ。
「この木があったからボクは3年間頑張れたんだと思う。ありがとう」
流れるはずのない涙が流れるのを感じた。わたしの中が喜びと感謝で満たされる。
ありがとうはわたしのセリフだよ。
君を始めてみたとき、これから3年間君のことを見れるんだって嬉しくなった。
君が体育祭の練習を頑張っているとき、わたしはずっと応援していたんだよ。
君がテストの点数に落ち込んでいるとき、わたしも一緒に悲しんだんだ。
君が夜遅くまで文化祭の準備をしているとき、そのがんばりをだれよりも見守っていたんだよ。
「ねえ○○くん。この木って・・・」
「うん。わかってる」
この子たちも知ってるんだ。そうわたしは校舎の移転のためにもうすぐ切り倒される。
でもかなしくはない。君がわたしに幸せをくれたから。君がいたから、わたしは最後まで楽しく過ごすことができた。
本当にありがとう!
せめて君たちのこれからが幸せなものであることを願って!
わたしは目いっぱい枝を揺らした。
すると桃色の花びらが宙を舞う。
「わぁーーきれいだね!」
「ほんとだね!なんだかわたしも勇気をもらったよ!」
二人は遠くからクラスメイトに写真を撮るために呼ばれて行ってしまった。
さようならわたしの初恋の人。その子を大切にするんだよ!
かなわぬ願いとありったけの感謝 月夜アカツキ @akatsuki0707
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