3-8 償い
レベッカはアリアに連れられて村人たちの前に立つことを選んだ。
「……コンイール先生。どうしてその子を庇っておるのか? ワシらに惨い殺しをさせる悪霊に憑かれた子どもを」
迫って来る村人たちに近づかれないため、レベッカに威圧感を与えないために、アリアが炎の境界線を魔法で作った。
「私も彼女と同族の死霊術師だからですよ。それに彼女も被害者だからね」
村人たちもレベッカと同様に死霊術を知らないようだ。
だから、村長がアリアに疑問を投げかける。
「死霊術……、この死したワシらを隷属させる力のことを言っておるのか?」
「そうですよ。その証拠にほら」
アリアはすぐそこに横たわっていた魔族の死体を使って、死霊術を発動させ、その場で生き返らせてみた。
「なるほど……悪霊に憑かれた者同士と言うことかの」
炎の揺らめきで村長の表情は見えなかったが、こちらに敵意を向けているような強い語気だったのは確かだ。
「それで、そんなお二人が我らに何の用ですかな? 汚らわしいのでその子を連れて、一刻も早く消えていただきたい」
レベッカは悲しくなった。
もう自分は完全に村人たちの敵として見られているんだって、今の村長の言葉から分かってしまったから。
「まあ、そうも言わずに。まずあなたたちの現状も説明せねばなりませんので」
「貴様らに聞くことなんぞ無いわ!」
「でも、気になるでしょう? 自分たちがどうして生き返ったのか? どうしてレベッカ君の命令に従わざるを得ないのか?」
村長を含めた村人たちはアリアの言葉に反発をしなかった。アリアはそれを同意と見做して、死霊術の話をし始めた。
不老不死であること。
年を取らないこと。
レベッカを殺しても解決しないこと。
「そ、そんな!」「ずっと子どものままなの!」「このまま悪霊に憑かれたガキの奴隷のまま……」「わたしたちは楽土に行くことも許されないのか!」「ペシエ様に見放されたということか……」
死した後に善人は神ペシエに導かれて楽土に行くはずだと信じている者は多い。そういう死生観の絶望や、今後の展望への絶望、どうあがいてもレベッカの操り人形でしかない絶望。
「な、なあ、だったら、このまま何事も無かったように村を続けていくってのはどうなんだ?」
一人の若い男が少しだけ前向きに言った。
だが、アリアが冷静に今後の展望を伝えた。
「それは不可能でしょう。十年程度なら問題ないと思います。が、この村と関係のある者たちが気づき始めます。どうして誰も老けないのか? 誰も死なずに、誰も生まれないのか? そのうち呪われてると言われ出して誰も近づかなくなります。下手をすればアンデッドだとバレて王国騎士団に永久の拘束を受けるかもしれませんね」
「ど、どうしようもないじゃないか!」「じゃ、じゃあどうしたら……」
「あくまでこれは私、アリア・コンイールの見立てなので。違うこともあるかもしれません……が、何事も無く過ごすなら正体がバレないように、村を捨てて、各都市を転々としながら生きるのが賢明かと思います」
どうしようもない現実が村人たちにのしかかっていた。
そんな中で一人の年老いた村人が呟いたのをレベッカは確かに聞いた。
「もう殺してくれ……」
一人の男が呟いた言葉。
陽炎で歪んで見えたが、その男は、かなり年老いた老人だった。
仮に魔王軍に襲われていてもいなくとも、あまり未来はない老人だからこそ、出た言葉だと現在のレベッカは思っている。
だが、その言葉はもう未来への展望がない彼らに伝播していく。
「そうだもういっそ殺してくれ!」「アリア先生だったら、どうにかして私たちを殺せるんじゃないんですか!」「殺してよ」「死なせてよ」「生きていたくない」
そのような声が大きくなっていき。
最終的に村人たちはアリアとレベッカの二人に「殺して欲しい」と頼みだした。
「だそうだよ、レベッカ。彼らは『死』を願うらしい。君はどうする?」
どうすると言われてもレベッカにはどうしようも無かった。
そもそもアリアが言っていたのだ。
『村人たちは未来永劫死ぬことがない』と。
でも、それでも『死』を希う村人たちを、自分が死者の国から連れだしてしまった人たちを、何とかしなくちゃいけないと思い始めていた。
これは自分が償っていくべき、悪い事なのだと。
「ど、どうにか、したいです! わたし、は、どうしたら……」
「君は強い子だな……」
アリアはレベッカの頭を撫でた。幼き少女の確かな意志を見たアリアは、少し考えた末に、レベッカと村人たちに提案をした。
「ポメニ村の方々。本当の意味であなたたちを殺すことは出来ませんが、実質的に永久に眠らせることなら、できると思います。それでよろしければ……」
アリアから詳しい提案を聞き、それを受け入れた大多数の村人たちは、一か所に集まっていた。
レベッカの持つ膨大な魔力を使い、当時のレベッカでは使えない大魔法をアリアが発動させた。
莫大な冷気が村人たちを包み、凍結させられていく。
その中にはレベッカの両親も混ざっていた。
あまり二人の顔を見ないようにしながら、レベッカは魔力を注ぎ続けた。
そして、村人たちや彼らが大事にしていた果樹園と共に全てが凍っていった。
「ありがとう、ご、ございます、先生」
「いや、君の魔力が無ければこれはできなかったよ。これでこの村は、呪いで凍った村として人が近づかなくなる。念のためにも、そう言う風に私が吹聴して回る」
それがアリアが言った永久的に人を眠らせる方法。
氷漬けであれば意識は目覚めないし、村自体を凍らせておけば、そもそも人は近づかなくなるだろうと。そうして、村人たちの眠りを守るのだ。
そして、眠らないことを選んだ少数は村から出て生きていくとのことだった。
しかし、村で氷漬けになることも、村から出ていくことも選ばない人がいた。
リアム・クラウザー。レベッカの親友。
彼は死霊術師となってしまった少女と話をすることを望んでいた。
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