1-7 アルを探すための協力者
「そ、それでノールさん――」
「ルビーでいいよ! 見た感じ歳は同じくらいだろうし」
「はっ、はい! 分かりました。ルビーさん」
レベッカから見るとルビーは自分よりも幼いと思っていた。その雰囲気は幼さに合った活力を感じるし、何しろ自分と同じくらいの背丈というのも、その考えの根拠であった。
年下に同年代に見られてる気がする……。
相変わらずの子どもっぽさが辛いレベッカであった。
「そ、それでルビーさんの願いとは、な、何ですか?」
少しだけ考える素振りを見せた後、ルビーが口を開いた。
「うーん……とりあえず、今はいいや。もう少しゆっくり考える!」
「わ、分かりました」
ルビーは恐らく死んだことを認知できないまま死んだタイプだ。痛みを感じる間も無かったり、危険を察知しないで死ぬと、そもそも気づかない。だから色々と混乱しているんだろう。
「あ、あの。もう拘束を解いてもいいですか? もう、お、お、襲ってきたり、しませんよね!」
「もうレベッカとは友達だよ! 襲うわけないじゃん!」
レベッカは肉体の指揮権をルビー本人に戻した。
友達……まだ話したばかりなのに距離の詰め方が凄い。種族も違うのに。
それにしてもルビーはどうして、自分を襲ってきたのだろうか。どうしてここに、そんなドレスアップした姿でいるのか。
彼女には色々と疑問が残るが、とりあえず今は――。
「しょ、食事でもします?」
「するする~!」
ルビーを蘇生する前に作っておいた石のテーブルと椅子の前に連れてくる。
リアム君がこっちに気づいて、ギョッとしている。本当は騎士団の人を蘇生する予定だったのに、いきなり魔族の少女を連れて来たのだから、そういう反応にもなる。
しかし当の本人であるルビーの方は一瞬で、リアムに距離を詰める。
「あたし、ルビー・ノール! 君の名前はなんて言うの?」
「……リアム・ランプリール。そこのどんくさそうな女の弟。一応」
「へー、全然顔似てないね! 姉弟に見えない」
ルビーは平気で失礼なことを言ってくる。
けど、自分もリアムにも、その自覚はあるので、反論を言う気などない。
リアムはいつものように淡々と仕事を進めていっている。
今日のように、何かしらの目的があって人を蘇生したときは、その相手に礼を尽くさなくてはいけないとレベッカは思っている。
騎士団の成人男性を蘇生してくるものだとリアムは考えていたのだろう。ワインの瓶が置いてあったのがその証拠だ。だが、連れて来たのが魔族の少女だったため、想定とずれてしまったに違いない。
蘇生した者をもてなすために色々と考えても、どうせ、旅用の日持ちする食品しか持ち合わせていないので、簡単なものしかできないのだけど。
リアムは焼き上げたパンを、持って来たリンゴジャムを添えて机の上に置いた。
甘味なら、年頃の少女にあげるに不足はないと彼は判断したのだ。
レベッカはルビーを椅子に座らせてから言った。
「か、簡単なものしかないけど、良ければ、た、食べてください」
「え! ありがとう、食べる!」
ルビーはパンにジャムをつけて食べ始めた。彼女は「おいしー」、とか「こんな甘いもの食べたことない」とか、言ってすぐに食べ終わってしまった。
「ごちそうさま! けど、死人のあたしなんかに食べさせて良かったの?」
「これは、協力してくれるルビーさんへのちょっとしたお礼」
リアムが答えると、ルビーは意外そうな顔をしていた。まるで感謝というものを初めて受けたように、どう言葉を解釈して良いのか分かっていないかのように。
「あ、あたしなんかのためにいいのに」
「い、いえ! そ、そんなことはありません! こちらの都合で蘇らせたのに、何もお礼をしないなんて、ひ、人としてあり得ません」
「そ、そこまで言うなら……」
レベッカのお礼への熱い思いを受けて、ルビーは渋々と受け入れた。
リアムはそのルビーの様子を見て、話を進めた。
「それでルビーさん。肝心のアル・ピオネーって人物なんだけど、聞き覚えある?」
「一応長いこと、この砦にはいたから。聞き覚え自体はあるよ」
長いこと魔族がこの砦にいた……?
平然と語られる状況に疑問を覚えながらも、とにかく今は、アルのことが優先だと思って、話を進めてもらう。
「その人が魔王七護番の軍と戦ったときに、どこら辺にいたか分かる?」
「詳しい場所までは無理だけど、その、アルって人がどこの班に所属していたか分かればなんとか?」
「あ、それなら、アルさんは……」
レベッカはこのヴェイランス砦に行くと決めた際に、事前に王都でアルの情報収集を行っていた。その時に得た情報で、彼が誰の班に所属したかは分かっていたので、それをルビーへと伝えた。
「あ、その人たちならね――」
ルビーは懐に入っていた地図を広げた。見るからにこのヴェイランス砦周辺を描いた地図らしく、騎士団の配置が書かれていた。
「たぶん、ここだと思うよ!」
ルビーが指差したのは、配置された騎士団の本体とは離れた魔族の領地に程近い場所だった。
「こ、こんなに詳しく……ありがとうございます!」
「いやー、あたしもこの知識が人助けに役立つなんて思ってなかったよ!」
ルビーは、相も変わらず褒められると、とっても嬉しそうな顔をする。
一方で、レベッカは少し不思議に思っていた。
魔族であるはずの少女がなぜ、ここまで騎士団の情報を持っているのか。この地図を見る限り、何かの意図を持って情報収集をしていたのは確かだ。
レベッカは問いただそうかと思ったが、辞めた。
今はその時ではない。
このルビー・ノールという少女のことは後回しにすべきだろう。
「じゃ、じゃあ、アルさんがいたという場所に向かいましょうか」
歩いて数時間かかる場所だったので、レベッカは死霊術で契約している黒龍を呼び出した。
「うわー、すっごい! レベッカって、やっぱり規格外だよね! まるであたしの父上みたい」
「あ、ありがとうございます」
黒龍に乗るとルビーは更にウキウキしていて、飛んでからはしきりに地上を見ようとするので、レベッカは仕方なく身体の指揮権を戻して、動かないようにしておいた。
そして、ルビーが示した地点へと降り立つ。
レベッカは直ぐに魔力探知を全開にし、アルの魔力がないかを探そうとした。
「――ッツ」
それに、余りに多くの残留魔力が目に映ることに絶句してしまった。
同じ色をした残留魔力がかき混ぜられたようになりながら、地面に散らばっている。これだと、多くの人を潰したのか、吹き飛ばしたのか、相当悲惨な死に方を多くの人が体験したことになる。
多くの残留魔力があるということは、ここで多くの人が死んだことを示している。
もしかしてアルの部隊は全滅している……?
アルの魂には一度接触しているので、どれが彼の残留魔力なのかは少し探せば、すぐに分かった。
その残留魔力も飛び散っていることが気になるが、その一片を使ってレベッカはアルを蘇生させるための死霊術を発動させた。
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