第5話 お母さんの話
「こんにちは。今日は忙しい中、来てくださってありがとうございます。今回の件は、うちの生徒が本当に申し訳ございませんでした。各自から、事の経緯を話してもらいますので、どうぞよろしくお願いします。」
先生が、明地さんを除いた3人と一緒にペコペコしながら早乙女さんのお母さんに言った。今日は、本番の日だ。明地さんはというと、まだ変なことを考えているようだった。手にはみんなと同じく原稿が握られていて、赤いペンで修正がある………かのように見えた。
「では、笹川さん。まずはあなたからです。」
「「はい。私は、この3人と早乙女さんをいじめてしまいました。可愛くて頭も良くて帰国子女だなんて、誰もが嫉妬してしまいます。私たちもそうでした。まず、上履き入れに「マジムカつく。お世辞言ったらすぐに舞い上がって。自分から帰国子女って言うなんて、自慢。自慢を言う人なんて嫌い。」と書いた紙を入れておきました。自分で知って欲しかったのです。あなたは私たちのムカつく存在です、と。私たちはそんな気持ちが誰よりも強かったのでしょう。なぜなら私は早乙女さんが来るまで、頭が良い方だったからです。なのに早乙女さんが来て優秀で…。私は転校生のことがもともと苦手でした。自分よりすごい人が現れたらどうしよう、と。でも今は反省しています。早乙女さんはムカつくところもありますが優しかったからです。あの日、またあの日に戻れたのなら、もう一回やり直したいです」。以上です」
笹川さんは前のクラスの前で言った原稿をそのまま読んだ。早乙女さんのお母さんは、まだ怒っている様子なものの、少しだけ納得してうなずいた。
「ちょっと!勝手に話を進めないで!しかも誤解しないでよ!早乙女さんのお母さん!こんなやつの言うことなんて信じなくていいです!」
明地さんは、急に切り出して叫んだ。早乙女さんのお母さんはビックリして言葉を失っている。
「早乙女さんのお母さん。私は、この事件の通りに説明しただけです。この人の言いなりになんかならないでください。私を信じてください。こんな事件が起こって、ウソつくわけないじゃないですか。そんなのこの人だけですよ」
笹川さんは、明地さんを指差しながら冷静に言った。
「はい、私はあなたを信じるわ、笹川さん。私、優雷(早乙女さんの名前)が学校から帰ってきたとき、よく「笹川さんがね、」とか、「雲田さんがね、」とか、「佐田さんがね、」とか………。楽しく話してくれたのよ。私もそれを聞いて嬉しかった。優雷は、もともと自信喪失なタイプで、友達ができないから………。前の学校でも、いじめが起こってこの学校に転校してきたのよ。でも………結局優雷は自殺して死んでしまったわ。優雷は体の弱い子で、私も可愛がっていたの。でも、優雷は「今日明地さんが悪口言ってきたー」とか言ってるの。だから笹川さん、あなたを信じるわ。あなたもつらかったのよね。優雷が、マウントっていうのかしら?マウントをとってあなたたちを怒らせてしまったのは優雷が悪い。でも、それよりも命の方が大切じゃない?」
「…」
早乙女さんのお母さんの話を聞いて、4人はすんなり黙った。そして、2人の原稿も読み終わり………。ついに明地さんの番がやってきた………。
つさじの心 夢幻 @yyamaguchi
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