第3話 原稿

「はい、朝の時間です。笹川さん、雲田さん、佐田さん、明地さんは各自作った原稿を読んでください。」

「えっ?」

「何かしたのかな」

「え、どういうこと?」

「叱られるんじゃない?」

クラスがザワザワしてきた。4人は緊張とした様子で前に行く…はずだった。しかし、何も思ってなさそうな人が1人いた。明地さんだ。

「では、笹川さん、雲田さん、佐田さん、明地さんの順で原稿を読んでもらいます。その前に、説明をします。早乙女さんは、この4人にいじめを受けて自殺しました。なので早乙女さんのお母さんに話すための原稿を各自作ってきてもらいました。事の経緯などです。そこで、それだけではバツが軽すぎるので、みんなの前で読むことになりました。では、笹川さん、どうぞ。」

先生がみんなに経緯を説明する。明地さんを除いた3人は下を向いている。明地さんはなぜか薄い笑みを浮かべていた。

「はい。私は、この3人と早乙女さんをいじめてしまいました。可愛くて頭も良くて帰国子女だなんて、誰もが嫉妬してしまいます。私たちもそうでした。まず、上履き入れに「マジムカつく。お世辞言ったらすぐに舞い上がって。自分から帰国子女って言うなんて、自慢。自慢を言う人なんて嫌い。」と書いた紙を入れておきました。自分で知って欲しかったのです。あなたは私たちのムカつく存在です、と。私たちはそんな気持ちが誰よりも強かったのでしょう。なぜなら私は早乙女さんが来るまで、頭が良い方だったからです。なのに早乙女さんが来て優秀で…。私は転校生のことがもともと苦手でした。自分よりすごい人が現れたらどうしよう、と。でも今は反省しています。早乙女さんムカつくところもありますが優しかったからです。あの日、またあの日に戻れたのなら、もう一回やり直したいです。」

笹川さんが原稿を見ながら低い声で言った。先生は、その言葉を受け止めたかのように、うなずいた。周りは、シーンとしている。

「えっ…」

「私はこういう人が嫌いだわ」

「ホントホント。仲良しとか、我慢とか努力って言葉は頭にないのかねえ。」

そういう人もいた。笹川さんはそれを聞いて固まった。それでも先生は続ける。

「では、雲田さん、お願いします。」

「はい、私は笹川さんと同じで転校生が苦手でした。私よりできる子はぶっ殺したいほどムカつきます。いつも笑っていて、可愛くて、優秀な早乙女さんは私の本音の憧れって感じでした。しかし、ついに心の悪魔がキレたのです。なぜあの子はできて自分はできないのだと。私はもともと自信喪失感があって、自殺を考えることもあるのですが、今回の件でそれをなくすことをがんばります。「「死ぬまで」」反省しています。私もやり直したいです。もし、あの日に戻れるのなら。」

雲田さんはなるべく明るい声で言おうとしていたせいか、裏声になっていたようだった。先生はまだ続けていく。そして、佐田さんの原稿を読むのも終わった。

「次…。明地さん」

さあ、明地さんは真剣な、3人のような反省文を書いていたのでしょうか?

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