第24話・魔の理

 次の日のから、フロールさんの魔法講義が始まった。

 講義とは言っても気軽なもので、僕たちはエイル・ダールジャンのパーティーハウスでソファに座りながらそれを受けることになった。


「昨日はあぁ言ったけど、基本的に魔法ギフトがないと魔法は使えないのよね……」


 しかし、その最初の一言は困ったような言葉だった。

 確かに魔法を使うには魔法ギフトが必要だ。だけど……。


「実はそれ持ってるんだ! テイマーのLv5のスキルで、従魔とギフトが共有できるの! だから、ヘドルの魔導師ギフトを全員が持ってるようなことになってるんだ!」


 具体的には僕のテイマーがLv7でグラスがLv5だ。グラスのテイマーレベルが足りないと、僕もグラスもヘドルの魔導師ギフトを共有することはできなかった。


「そうなの!? テイマー自体が希少で、しかもレベルを上げるような人がいなかったから……。だから、てっきりテイマーのレベルが上がると従魔が増えるんだと思ってたわ……」


 そこらへんがすごく複雑な関係になっているのだ。


「えっと、まず僕のギフトであるテイマーがグラスと共有されて……」


 頭のいいグラスに続きの説明を求める目線を僕は送った。


「そのギフトで私がヘドルをテイムしている。私自身は遺憾ながらギフトを持っていないが、ヘドルのギフトをルウェリンに間接的に共有している」


 確かにグラスはギフトを持っていなかったでも……。


「グラス、今の僕がいるのはグラスが居るからだよ。ギフトがないことをそんな風に言わないで」


 僕は自分を卑下するようなグラスの言葉に少し心がモヤモヤとした。だって、グラスはギフトが無くても強いし、なにより友達だ。テイムといっても、お互いに恩恵を与え合うことと、意思を疎通することしかできない。友情がなければ、そのつながりは無いも同然だ。


「ルウェリン……」


 グラスは少し嬉しそうに僕の名を呟いた。


「そうよグラス、ギフトなんて関係ないわ! でしょ?」


 と、フロールさんに言われて完全にグラスは立ち直ったようだった。


「然り……」


 と、深くうなづいて。


「さてヘドル、ところであなたの魔道士のレベルは?」


 一般的にレベルは10で駆け出し、30で中堅、50で強者だ。


「32だ!」


 それは十分に強いのである。特に魔導師というのは、下位互換のギフトも存在する強力なギフトだ。


「う、私より強い……。ちなみに、私が魔術師Lv38ね!」


 ギフトのLv7とかLv5とかで戦っている僕たちが情けなくなる高レベルだ。だけどそれでもこれほど戦えているのだ、伸びしろと考える事にしよう。

 魔導師の下位互換というのが魔術師だ。補助魔法については魔導師は若干優れる程度だが、攻撃魔法に関しては大きく差が開く。よって魔導師Lv32と魔術師Lv38が戦えば魔導師に軍配が上がる可能性が高い。


「しかし、経験で私が劣るさ……」


 と、ヘドルは言った。それは事実を淡々と述べているような様子だった。

 冒険者の戦いはギフトとそのレベルがものを言うものでもない。ギフトが関係ないところから力がひねり出されたりする。それは、グラスが証明している。


「こほん、さて! 魔法は基本的にその魔法を司る原理をどれほど理解しているかが重要よ! 理解が深ければ深いほど詠唱を省くことができ、発動までの時間も短くるの」


 フロールさんはそう説明しながらも手元に火球を出現させる。完全なる詠唱破棄、それはフロールさんがその術を完全に理解している証拠だった。

 そして、説明をしながらそれを手元に制御して見せているのだ。ギフトのレベル的には中堅領域だが、強者への道に手をかけているのがよくわかる。


「火球の原理を聞きたい」


 そして、知能の怪物が動く。


「火がなぜ燃えるか知ってるかしら? 燃料があり、空気があり、熱が光になって炎になる。魔法は、その燃料と空気の過程を切り捨てて、直接魔力を熱にする」


 フロールさんは答えた。答えてしまった……。


「つまり、こう?」


 その瞬間グラスは火球を理解し、そして手元に出現させてみせた。そう、グラスが理解できないはずがないのだ。グラスは一聞けば百も二百も理解する。だからフロールさんと全く同じことをやってのけたのだ。


「えっと……普通魔力を感知するところからなんだけど……」


 フロールさんはドン引きしていた。でも、魔力の感知か……。


「えっと、こうかな?」


 僕も負けじと火球を作る。いや、正確には作ろうとした。それはただ青白い光の玉になってしまったのである。


「もう魔力が分かるの!?」


 それでも、それは間違いなく魔力だったようだ。掌の上にできた光の玉を見てフロールさんは驚いた。


「うん。だって、元々は魔法系ギフト持ってなかったんだもん!」


 それが、僕たちの魔力の感知を早めた。魔法系ギフトを持たないということは、魔力を持っていないということだ。その有無の境界を跨ぐ経験を僕たちはしているのだ。


「なるほど……だから魔力の感知が早いのね……」


 魔法系ギフトを持つ人は、魔力を持つ状態が通常として生まれる。しかし、魔力の使い方を知らないまま成長していくのだ。

 それが、僕らはある日降って湧いた感覚なのだ。だからこそ、それまでと違う感覚を辿って魔力を感知できた。


「うん!」


 でも、僕のはなぜ炎にならなかったのだろう……。

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