第23話・再会
そして僕は騎士たちに連れられプロヴァンスの街へと帰ってきた。一度国民になってしまえば、それを何が何でも助けようとするこの国が僕は好きだ。
そして……
「おかえり、ルウェリン……」
この師匠たちが好きだ。あまり眠れなかったのだろうか、目の下にクマができている。そして、帰ってくる日には門のそばで待っていてくれた。
こんなことになるなら、人質は僕じゃない方が良かったかもしれない。でも、僕が人質じゃなければヘドルとの出会いはなかったのだ。
「ただいま、師匠……」
僕は思わず、その優しさに涙が滲んだ……。
「元気でなによりね……よかったぁ……」
と、フロールさんが僕を抱きしめた。彼女も目の下にクマを作っている。少し悪いことをした。
「ルウェリン、彼らが?」
ヘドルには道中、僕に師匠となる冒険者たちがいることを話した。
僕はフロールさんに抱きしめられながら答えた。
「そうだよヘドル。彼らが、僕の師匠。エイル・ダールジャン!」
そう、彼らこそ僕の師匠。全員の命を人質にされ、僕を人質に出す決断を苦渋を飲んで下したと言ったら少し人聞きが悪い。だが、こんなにも心配してくれる師匠たちなのだ。
「うむ、私はヘドル。彼の新しい従魔だ。彼とはオーガの村で出会ってお互い友好を深めた身だ。どうか、私もよろしく頼む……」
そう言って、へドルは深く礼をしたのであった。
「はっはぁ! 余計気に入ったぞルウェリン、転んでもタダじゃ起きねぇ!」
そう言って僕の背を叩くのヴェルンドさん。いつも僕の背を叩くのは彼だ。ちょっとだけ痛い。
「うん。大物だ……」
と満足気なアンダさん。でも全員クマを作っていて、クマのないのは僕だけ。一番楽なのは、人質にされた僕だったみたいだ。
ヘドルの首からは二枚のドックタグがぶら下がっている。
「あぁ、ルウェリンはいいオスだ!」
と、ヘドルは僕のことをオス呼ばわりだ。
「ヘドルだったか!? オーガだな! こりゃ、弟子が大物すぎて俺ら困るなぁ。え? マチュー!」
なんてヴェルンドさんはよく笑う人だ。どんな時だってよく笑う。本当に豪快だ。
「本当だよ。ルウェリンが弟子ってそろそろエイル・ダールジャンより強くなっちゃうんじゃないの?」
まだ弟子としての時間は残っている。半年の内数週間をオーガ村で過ごしただけだ。
「いや、まだ学ぶことはたくさんあるから!」
そう、彼らには強さだけ学んでるわけじゃない。その心根だとか、知識だとか、本当に学ぶことはたくさんある。彼らはたとえ弱くても誇らしい師匠なのに、まだ多分僕たちより強い。
「同意、フロール。魔法を学びたい……」
あの叡智の化物が、魔法体系の解析に入ってしまった。それはすごく怖いことだけど……。
多分、化物魔法使いになるだろう。
「うん、いいわよ! グラス、じゃあ一緒に魔法勉強しましょ!」
そしてきっと、その化物魔法使いが僕の魔法の師匠になるのだろう。
「私も参加していいだろうか?」
そう、ヘドルのギフトは魔導師。攻撃魔法の理解にブーストがかかっている。
「うん、もちろん! でも、あなた魔法使いなのね!」
フロールさんは驚くが無理もない。オーガの魔法使いは、魔法使いっぽい格好ではない。むしろどちらかというと狩人だ。
「僕もお願いできる?」
そして、僕たちにはヘドルの加入によって降って湧いた魔法系ギフトが宿っている。強くなれるのは歓迎だけど思わぬ方向にどんどん、テイマーが
「じゃあ、これからは魔法の集中講義ね!」
なんて、フロールさんが言う。
しかし僕は本当にグラスが恐ろしい。だって、オーガ村にいるあいだもずっと廃棄の脳を食べていたのだ。それに、こっちに戻ってきたらまたギルドのゴミ処理で脳が食べられる。どこでも脳は捨てるものだ。
「はい!」
でも、今はまぁ楽しんでおこう。
「なんでぇ! 俺ら出番なしか!」
なんてヴェルンドさんはいじけたふりをした。
「そんなこと……」
本当にない。だってヴェルンドさんからはどんな時も笑っていられる胆力を教えてくれる。
「そうだ、まだルウェリンには教えたりない……」
なんて、マチューさん。彼からはリーダーシップと、その礼儀正しさを学べる。
「痕跡発見が甘い……」
アンダさんは僕より優れた斥候だ。僕と彼では見つける情報量が違う。
だからエイル・ダールジャンからはまだまだ学ぶことがあるのだ。
「まだまだ僕は未熟だからいっぱい教えて欲しいんだ!」
そう、学ぶことは生きるためだ。冒険者の生存という一冊の本から始まり、僕の冒険は冒険者たちからの直々の教えを受けて羽ばたいていく。
「んだな! まぁ、教えられることはまだあるわな!」
ヴェルンドさんの言う通りだ。学べることはまだたくさんだ。
しかし、あぁ、戻ってきたのだ。プロヴァンスの街へ。でも、オーガの村にもまた遊びに行こう。ヘドルの帰郷も兼ねて。
「ところで、オーガの集落はどうなったんだい?」
そういえばその話を全くしていなかった。
「それはですね……」
騎士たちが僕に代わって、オーガの村がザヴォワール王国の村落の一つとなったことを話した。そこで僕が受けていた扱いも含めて。
だから、エイル・ダールジャンは胸をなでおろしたのであった。
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