第22話・その名はヘドル

「それでは、正式にこの村はザヴォワール王国の領土となります。ではルウェリン殿をお返し願いたい……」


 そう、話がまとまれば僕は人質の役目を終える。人質と言うより客人としての扱いだった。帰ろうと思えば帰れたかもしれない。でも、それはこの村を害するきっかけになるかもしれなかった。


『待って欲しい。ルウェリン、帰ってしまうのか……?』


 一番寂しそうにしたのは女オーガだった。


「うん、一度帰らないと。師匠たち、心配してると思うから……」


 僕と女オーガはそんな仲になっていた。お互いに敬語を使わないような……。


『私もついてゆく!』


 女オーガは思念を騎士たちにも聴かせるように話していた。


「お待ちください! まだ、我が国はオーガの国民を他の場所で受け入れる土壌がありません!」


 そう、オーガが国民になること自体が異常事態である。それを国民に受け入れさせるには時間がかかる。


『スライムのグラスは街に入れて私はだめなのか!?』


 しかしごねる女オーガ。そうまでして僕に過保護なのだ。


「それはスライムであることと従魔であることからです! そもそもこんな進化をするスライムなど想定外ですが、それでもルウェリン殿の従魔であることは違いありません!」


 しかしである、その時僕を飛び越えてトントン拍子で話が進んでいた。


『では私も従魔なら良いのだな! ルウェリン、私を従魔にしろ!』


 そう、僕が今一番欲しているのは魔法系ギフト。だからそれは、僕の人生までもトントン拍子に進める話である。


「ルウェリンの従魔は一人まで。今なら私の従魔になるしかない……」


 グラスは言ったが、その通りなのである。残念ながら僕の従魔はグラスであり、最近一緒に居てくれない。友達なのにだ……。


『ではそれでいい! 私を従魔にしろ! グラス!』


 僕が口を出す前に話がトントンどころかどんどん進んでいってしまう。


「わかった……」


 そして、グラスは女オーガを従魔にしたのである。


「ほほっ、まぁよいかのう……」


 と、思えば村長まで飛び越えての話だったのだ。


『さぁ、これで問題はなかろう……お?』


 その時である、グラスのテイマーが成長すると共に僕のテイマーも成長した。そして獲得したのは、テイムツリー言語共有というスキルだった。

 効果は僕のテイムの系譜に居る全ての存在の扱う言語を共有するというもの。僕はゴブリン語を習得し、そして女オーガは人間語を理解した。


「おぉぉぉ! これで直接言葉で話せるようになったぞ!」

「僕が話す前に全部終わっちゃった……」


 そう、僕は一切口出しできなかった。もっと言いたいことがあった。それでいいのかとか、いろいろ……。村長とも話したかったし……。


「あ、えと。問題ありません……従魔ですし……しかし、スライムが従魔とは……。そうです、定形魔物の方なので、従魔の証のドックタグを」


 そう言って、二枚の金属プレートがついた首飾りを騎士団長は渡した。このドックタグなのだが、従魔だけではない基本的に冒険者もつける。ただ、従魔だと二枚重ねなだけだ。冒険者は一枚。従魔に追加される一枚には僕の情報を刻印する。


「ふむ、これに私の名を書くのか?」


 そう言って、女オーガは受け取るとそこにゴブリンの言葉を魔法で刻印してしまった。


「あ、あぁ! 人間の言葉で書かなくてはいけないなのですよ!」


 と、騎士団長は慌てる。

 どうにも僕の従魔たち人の話を聞かない節がある。グラスは聞かなくてもわかるし、女オーガは聞く前に行動する。


「狩人って……せめてヘドルとかどうかな?」


 そう、彼女の名前は狩人。彼女が刻印したのは狩人というゴブリン語だったのだ。


「ふむ……。では、これを裏面にして……これでどうだろう?」


 彼女は、ザヴォワール文字でヘドルと書いた。


「はい、それで大丈夫です。そして二枚目に、ルウェリン殿のお名前を……」


 騎士団長が言うと、またもヘドルは魔法で刻印する。二枚目の金属タグにルウェリンと……。

 これが最も小さな遺品であり、死体の大部分の回収が難しい場合に墓に収められるものだ。冒険者である以上そんな墓も覚悟しなくてはいけない。


 それから、グラスのテイマーはレベル5になった。よって僕も彼女の魔法系ギフトを獲得する。それは魔導師だった。賢者よりさらに攻撃魔法の理解に優れ、代わりに補助や防御や回復を多少犠牲にするギフトツリーを持っている。それがレベル1ながら僕らに共有された。


 もはやズルだ。これで僕は、戦闘向きギフトを手に入れてしまった。それ以上に、あの頭脳の怪物グラスが魔法のギフトツリーを手に入れてしまったのだ。


「しかしなんだ? 私もテイムできるのか! これは楽しみだ!」


 確かに楽しみなことは多い。でも怖いことも多い。グラスはとにかく頭がいい。その状態で新しいギフト、つまり戦闘における手段が増えるとどんな怪物になってしまうのか……。

 それにギフトを二つ持つオーガは間違いなく進化の対象だ。今後間違いなく鬼人になってしまう。ヘドルは一体どんな化物になってしまうのだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る