第21話・プロヴァンス近衛騎士団
そんな日々が続き、親交を深めていた。そこに、騎士数名がやってきた。
軍隊と冒険者の関係は、軍隊が町や村を守り、冒険者が森の維持管理をするような関係だ。場合によっては軍と冒険者が連携することもある。ただし、冒険者は戦争に加担しない。
「我らはプロヴァンス辺境伯の私兵である。オーガの集落の長と……君はルウェリンという名の少年だろうか……」
途中までは名乗りをあげていたが、僕を見ると騎士たちの声はとても優しくなった。騎士数名というのはオーガから逃げることはできるが、滅ぼすことはできない軍勢である。つまり交戦の意思なしを示すのにもってこいだ。
「はい、僕がルウェリンです」
その時僕は、話の通じる女性オーガと一緒に薪割りをしていたのだ。
なんかグラスと別行動をすることが多い。グラスは結構村長と付き合いを深めているのだ。知恵者同士、話が合うのだろう。
「良かった。痩せてもいないし、体も清潔を保っている。ひどい扱いを受けていないのだな」
と、騎士の先頭に立つ人は僕の状態を見て安心した様子で微笑んだ。
国民になったばかりというに、こんなにも暖かくしてくれる国家性。本当に僕の愛国心はこっちに向きそうだ……。
『思念ですまない、人の言葉はしゃべれない。私は彼と仲良くさせてもらっているオーガだ。彼の待遇は人間から見て、ひどいものになっていないだろうか?』
女性オーガは、騎士たちに思念で訊ねた。おそらくここまでも思念を読んでいたのだろう。
「おぉ、話が……! いや、待遇はどうやら良いと判断していいだろう。我が国の客人の扱いに近い可能性が高い。よって、二つの選択肢を提案したい。一つ、我が国の庇護を受ける代わり税を納め、我が国の領土となる道。二つ、独立国として不可侵条約を結ぶ道である!」
思ったよりも、話が寛容にまとまりそうで僕はびっくりした。僕の故郷だったら、僕はガン無視で滅ぼす話になっただろう。
だが……。人間の言葉が通じると思って交渉したのだろうが……。
『待って欲しい、私はただの村民だ。そういった話は村長と頼みたい……』
そう、この女オーガは一般村民である。そんな国家間の話をするには少し荷が勝ちすぎるのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
騎士たちはオーガたちが交戦の意思を見せないと感じると下馬した。そして、女オーガに先導され村長のところへと通された。
当然歓待の席が用意される。ゴブリン達が料理を作り運んでくる。
「よくぞいらっしゃった、さぁまずは森を抜けてきたことを労わせてくだされ!」
ここの料理は上等だ。スパイスたっぷり、美味しい料理である。
「なんと! これは上等な胡椒……なんという……」
この村ではこれが常識なのだが、人間からしたら極上のもてなしのはずだ。だって胡椒は同じ重さの金を用意しないと買えないほどなのだ。
「いやいや、ほんの些細なもてなしじゃ……」
本当に些細なもてなしではある。しかし、騎士たちはそう思わないだろう。
「それほどまでに良い扱いをくださるか……。心から感謝します……」
騎士たちにとっては、金銀財宝でもてなされているようなものなのだ。
「さぁ、ご遠慮はいりませぬぞ!」
と、村長が言ったことで、騎士たちは食事を始めた。
「彼にもこのような扱いを?」
騎士の先頭に立っていたのはプロヴァンス辺境伯の近衛騎士団長だったらしい。
「もちろん! 大切な客人として扱いましたわい!」
そう、僕は食事などはとても良い待遇だった。それこそプロヴァンスの街の人が羨むくらいの。
だってスパイスだ。こんなに贅沢に使った料理を出してくれる。
「それは……この村は本当に人間と友好を望んでいるのですね」
騎士団長は確信しただろう。なにせ、人間にとっては豪華絢爛すぎる料理を出されているのだ。
「もちろん! 我々は人とオーガの友好を願っています!」
そして、騎士団長は僕と同じ疑問を投げた。
「我々はオーガも殺します、ゴブリンも……。それを許容しますか?」
そして、村長は僕への答えと同じ答えを返した。
「それは人の街同士が争ったり、歓待し合ったりするのと同じですな! 何、敵対的なオーガやゴブリンは滅ぼされて当然。友誼を望むとは言っても、うまくいくとは思いませんでしたぞ……」
そう言って、笑ったのである。普通オーガと人間の友誼などありえるはずがない。だって普通はオーガは人を見れば殺しにかかるのだから。
しかし、なんの因果かここにはそうではないオーガがいる。
「して、返答やいかに?」
騎士団長は問うた。先の条件は村長にも伝わっている。
「我らは、貴国の庇護を受ける道を望もうと思いまする。ですが、税はいかほどでございましょう?」
確かに税の話は重要だ。
「一人、銀貨3枚……。あぁ、胡椒ですとこの瓶ほどで……」
物資として収めることが税には可能だ。農村では農作物で収めたりする。
「そんなものでよろしいのですかな?」
しかし、この村は胡椒は生産している。売るほどあるのだ。それで見せられた瓶は余りにも小さかった。
「ええ……。この村は豊かだ、それを考えると安いでしょうが。どうでしょう?」
そして……。
「では、庇護を望みます」
このオーガ村は、ザヴォワール王国の領地として存続することが決定したのだった。
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