第18話・オーガの集落

「待て、危険すぎる……」


 と、マチューさんはいう。


「最善の判断……」


 と、グラスは淡々と言葉を紡いだ。


「ふむ、待て……か……。本当に大切にされているようだ、人質に足ると見てもいいだろう……」


 オーガは言った。


「できるわけがないだろ!? ルウェリン君をおいていくなんて!」


 マチューさんはあくまで僕を引きとめようとしてくれた。本当に僕を大切にしてくれているのだ。

 だけど、僕が最適だ。何よりも僕はただで転ぶつもりがないのだ。オーガの集落といってもここまで理知的な人が統治している。危険はないだろう。


「そうよ!」


 フロールさんはマチューさんに同意していた。


「僕とグラスがこのとおり適任だよ」


 僕はだからこそ、僕を人質として差し出すことができる。


「さて、あなた一人か?」


 今この場にはCランクが五人。オーガはCランクであれば二人以上で当たらなければ勝ち目がない。だからグラスは言った。


「そんなわけはなかろう。お前さん、知ってて言っているな?」


 そう、でなければおそらく監視することもなかった。

 そして、友好的にオーガの集落に向かう。あるいはオーガの集落に気づかなければ監視も中断されていただろう。


「肯定、全て私とルウェリンがあなたの集落に行くための芝居」


 そこを目標とするならグラスの行動は正しい。やっぱりだ、グラスはそこで従魔を獲得しようとしている。

 中規模集落14~30体。オーガとホブゴブリンにゴブリンを合わせた数だ。Bランク以上でなければこれを単独パーティーで討伐するのは不可能だ。


「さてどうするね? 私はそのルウェリンこそ人質にふさわしいと考える。何、殺したりはしない。客人として歓待しよう。それともここで戦うかね?」


 オーガは言った。

 そして、それは……。


「犬死の必要はない……」


 あるいは、グラスにはこの選択肢しかなかった可能性も考えられる。その場合、グラスがオーガの集落に気づいたことにオーガが気づいたことになる。

 だとしたらどれほど高度な思考戦が行われているのだろう。このふたりの間で……。


「わかった……必ず、助けに行く……」


 そう、全滅かそれとも僕たちをおいていくかしかないのだ。全滅なら僕は死ぬ。


「それしかねぇな……」


 と、ヴェルンドさんは渋々受け入れた。さて、どんな形で受け入れられるだろう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 さて、オーガの集落にそうしてたどり着いた。

 ゴブリンもいるが、明らかにこの前掃討した集落と顔つきが違う。理知的であり、攻撃をしてきそうな気配がない。


「グギャゲギャ!」


 そんな声を発しながら僕に食べ物を差し出してくれた。


「あ、ありがとう……」


 僕はそれを受け取ると、なんかそのゴブリンが喜ぶような仕草を見せたので可愛く思った。基本的に外見は醜いのに……。

 ゴブリンのうちは醜いが、ホブ・ゴブリンともなるとその醜さは減る。オーガともなると、もはや醜いと思えない。


「グーギャ」


 と、オーガは僕の言葉を通訳してくれた。


「さて、お前さんら。食べるものは、果物や肉でいいかね? 塩は食べられるかね? 胡椒は?」


 しかしとて、このオーガ、どこまでギフトを育てたのだろう。そうでなければここまで言語を瞬時に理解できるはずがない。


「むしろ好みます。人間のような生活をしていますね……」


 そう、まるでオーガの集落は人間の小さな村のようだった。


「私は、脳や内臓も……」


 そう、グラスは人間が捨てる部位こそ好む。便利な掃除屋である。それでいてそれを捕食すると能力が向上するのだから恐ろしい。


「お前さんはそんなもので良いのか!」


 どうやら、捨てる部位も人間と同じようだ。なぜその部位を人間が捨てるかというと、食中毒や寄生虫のリスクがあるからだ。


「肯定、脳こそ私の好物……」


 食性が人間とはまるで違うのである。

 しかしグラスはかなり消化能力も上がっているはずだ。


「脳か、少し恐ろしいな……」


 そう、グラスの食性はちょっと怖い。オーガに同意する。


「否定、あなたを食べない」


 かと言って、グラスは食べようと思えば僕やオーガを食べない。理知的であるのだ。


「では、廃棄のものだが食べるか?」


 そう言って、オーガは僕らを廃棄物の処理場へと案内してくれる。

 それはすぐ近くにあって、そばで常に火を焚いていた。本当にこういうところが人間的だ。


「これだ……」


 そう言って、オーガが指差す。

 そこには脳や内臓がこれでもかというほど貯められてた。またグラスの知能が上がるのではないかと僕はヒヤヒヤしている。


 どんどんついていけなくなる。それこそ世界の真理とかにたどり着いてしまいかねない。

 グラスは、スライムの体を伸ばし、その廃棄物処理場へと突っ込む。


「美味……」


 これがグラスの捕食なのである。


「そうかそうか!」


 しかし分かっているのだろうか。オーガは的に特大の塩を送っているに等しいことに。あるいはグラスは敵ではないのかもしれない。もう、グラスの考えていることが理解できないのだ。


「ありがとうございます。本当に歓待してくれるんですね」


 そう、それは歓待だった。確かに手探りではあるが、こちらの好物を探り食事を与えてくれる。


「うむ、人間に我らが危険ではないことを教えねばならん」


 僕は思った、少なくともこの集落は危険ではない。むしろこれを攻略しようとする方が危険であろうと……。

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