第13話・叡智の蒼

 書き写しには何日もかかる。その間何もしないかというと、そうでも無く僕はエイル・ダールジャンに冒険に連れ出してもらったりもした。

 今日はそんな日の一つである。


「じゃあ、今日は一般的なゴブリン集落の探索に付き合ってもらうよ! 一般的なゴブリン集落の適正ランクは?」


 マチューさんは僕に言った。このようにして、冒険者とは知識が必要な場合が多く。不勉強は死に直結する。


「DⅣランクだよ!」


 僕は答える。ゴブリンについても冒険者の生存には書かれていて、単体のゴブリンはさほど強くないが集落になると数匹のゴブリンが暮らしている。その場合連携が厄介で、DⅣランクに討伐難度が跳ね上がる。


 ただ、採集に出かけたゴブリンとの遭遇戦自体はEⅤランクになる。


「じゃあもう一個おさらいだ。冒険者ランクについてざっと説明しておくれ」


 と、マチューさんは僕の知識を試した。弟子が死んでしまうと責任は師匠に行く。もちろんある一定のランクの間だけであるが。


「FⅤから、AⅠまでの25種のランクに加えてSランクが存在する。エイル・ダールジャンは現在CⅠランクで。ゴブリン集落には過剰戦力だから、僕の腕試し的な感じだよね!」


 そう、エイル・ダールジャンはCランクの中の最高のランクであるⅠだ。Bランク目前と言ったほうがふさわしいくらいである。

 だからゴブリンの一般的な集落は、楽勝に攻略が可能だ。


「ルウェリン。では、エイル・ダールジャンの討伐できるギリギリのゴブリン集落とは?」


 まるで師匠がもう一人いるみたいだ。グラスは僕が冒険者の生存を書き写している間、フロールさんに図書館に連れて行ってもらっていたりする。そのせいで知識量がとてつもないのだ。グラスは一度見聞きしたことをもう決して忘れないから。


「中規模平地ゴブリン集落。CⅠならゴブリン多数との戦闘をこなせるため、中規模に育ったゴブリン集落にはCⅠランクが向けられるかDランクレイドが結成される」


 でも僕だってちゃんと師匠たちの話を聞いている。だから、ゴブリン集落というのがどのようなものなのか知っている。

 ゴブリン集落はDからSランク依頼まで存在するのだ。


 Sランクのゴブリン集落は山岳軍事拠点的ゴブリン集落。これに関してはもはや集落の中に入らずにゴブリンを殲滅できない場合死者が必ず発生する。そのため、適正ランクはS。この場合、ゴブリンの集落のリーダーは強力なギフトを必ず保有しているし、ゴブリンではない可能性すらある。


 ギフトを持つとゴブリンは進化する可能性がある。それが本当に多岐に渡る進化の可能性を持っていて最強は鬼人と言う魔族に変異する可能性すらあるのだ。


「ルウェリン、ギフト持ちのゴブリンを私の従魔にしたい。私がテイマーのレベルを5に上げられたとき、そのギフトはルウェリンにまで共有される。私たちに足りないのはギフト!」


 人間は必ずギフトを持つが人間はテイム対象にできない。それはギフト自体が僕に教えているかのようにギフトを手に入れた瞬間から理解していた。


「だからグラスはさっきの質問を?」


 と、マチューさんの質問に……。


「肯定……」


 グラスは答えた。

 確かに、考えてみればギフトも僕は無限に増やせるのだ。例えば魔法系ギフト。


「ただ、グラス。それじゃあ集落を討伐するのは難しいよ。どうやってそこを解決するの?」


 グラスは本当に頭が良くなった。僕では考えも及ばない数手先のことを常に考えている。


「ルウェリンがその集落の王になり、集落を人間に対して無害化する。考えてある……。ただし今回は、実力の証明が必要……。ルウェリンは早急にランクを最低CⅠまで上げるべき」


 本当にグラスはスライムだったというのに。スライムは可能性的には最強なのではないだろうか……。特に知能だ。脳を捕食することで無限に知能を上げられる。

 無限の知能を持つ魔術師。それはつまり、魔導の極致だ。最強という言葉が生易しくなってきたりもする。


「そうだね。頑張ろうグラス!」


 と僕は奮起するのだが……。


「事実、CⅠクラスの戦闘能力なら用意できる」


 知能とは戦闘能力でもあるのだ。戦いとは、そこまでに積み上げたもののぶつけ合い。知能が高いことは、戦闘においても効果を発揮する。


「ど、どうやって!?」


 思わず僕は訊ねた。


「罠、戦術、嘘、ハッタリ」


 と、グラスは言ったのである。


「グラス、君怖いなぁ……」


 マチューさんはそれでどういうことか理解してしまったようだ。


「ど、どういうこと?」


 僕にはその会話が分からずに、ただ思考の迷路に落ちていく。


「あぁ。多分だけどね、正面から戦えないと俺はグラスに勝てないんだ」


 と、マチューさんは言った。


「正面からもなんとかできる……」


 しかし、グラスはその程度では満足しないようだった。


「えっと、単純な戦闘力ではマチューさんの方が強いんだよね? だったらどうやって正面から勝つの?」


 グラスは廃棄の脳を継続的に食べたりしているせいでかなり知能だけが突出して高い状態だ。


「呪いを掛ける」


 と、グラスは言ったが……。


「魔法系ギフトがないのに?」


 と、マチューさんは言う。確かに僕たちは魔法系ギフトを持っていない。


「魔法ではない呪い……時間はかかる……」


 どんどん、グラスに僕は追いつけなくなってしまいそうだ……。

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