第14話・狂戦士の幻影の呪い
そして、その翌日。僕はエイル・ダールジャンのゴブリン集落討伐に参加していた。
「じゃあ、好きに動いていいからね! グラスがいるならそれが一番だと思うから」
集落から少し離れたところで、最終的な作戦が練られる。
「では、お任せを。あれを一網打尽にしてみせる。ルウェリン、今回は二人で……」
グラスが何を想像しているのかわからない。
「作戦があるの?」
僕は訊ねた。
その返戻に僕はグラスから、いくつかの作戦を授けられた。
それを聞き、エイル・ダールジャンは全てを僕たちに任せることに決めたようだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その作戦の開幕は、僕が大声を上げながら突撃すること。
「おおおおお!」
僕はあらん限りの大声を上げ、ゴブリンの集落に突っ込んだ。
途中まではグラスと一緒だったが、集落に入った直後グラスは地面に降りたのである。
グラス曰く、集落のゴブリンは全部で七体。僕の仕事はグラスを隠すことだ。
「ゲギャ! グーギャ!」
ゴブリン、子供ほどの体格で知能が高く連携した攻撃を得意とする。
その体の作りは人間に酷似していて、醜い緑の小人とも呼ばれる。
最初に三体が、まとまって襲いかかってこようとする。前からの突進、左右からの挟み撃ち。
この時の対処は、グラスに教わった。目をつぶり、剣を突き出しながら走ること。
なぜなら三体目のゴブリンは飛びかかることができない。
瞬間ドスンと言う衝撃。目を開けると、僕の剣はゴブリンを貫いていた。
『そしたら、剣を上に振り抜く!』
グラスから思念が伝わり、僕は言われたとおり剣を上に振り抜いた。
ゴブリンはすると、剣に突き刺さったまま上へと持ち上がり。そして飛んだ。
いくらなんでもこんなに軽いわけがない。きっとグラスが地面から押してくれたのだ。
「ゲ……ゲギャー!」
人間に近い体の作りをしているだけにその感情がわかる。
あぁ、グラスは僕にギフトを作り出したのだ。それはゴブリンにそう思わせているだけ。ゴブリンは僕を豪腕のギフトか何かを持つ剣士だと思ったのだろう。
『左のゴブリンを殺す! 下から右上に逆袈裟斬り!』
明らかに恐怖した瞬間に、左から襲い来て左へ抜けてしまったゴブリンに、ゴブリンの死体が降り注ぐ。
「グギャー!」
と、声を上げゴブリンは倒れた。
同時に僕は右から襲ってきて左へと抜けたゴブリンに袈裟斬りを放つ。
ゴブリンは次の波状攻撃を準備していたが怯んでいた。僕の体は言われるままに動いた。作戦から外れたらひどいことになると脅されていたからだ。
その逆袈裟斬りは見事命中して、ゴブリンの体は空中へと跳ね上がった。そんな跳ね上げるような切り方をしていない。ただ表面を刻んでギリギリ致命傷になるかどうかだ。また、グラスが地面に隠れていて、ゴブリンを吹き飛ばしたのだろう。僕の逆袈裟のちからも利用しながら。
『叫んで!』
思念が届く。
「おおおああああ!」
訳も分からず、とりあえず叫んだ。
グラスは言っていた。ゴブリン討伐の間、僕は豪腕の狂戦士に見えると。
こんなに叫ぶギフトは、狂戦士のギフトだ。相手に恐怖効果を与えるウォークライを多用する。
だが、僕の咆哮にそんな効果はない。次々とまるでおもちゃのように跳ね上げられ絶命していく仲間に恐怖しているだけだ。
跳ね上げられたゴブリンは、次の波状攻撃を用意しているゴブリンに激突し、その武器に突き刺さって止めを刺された。
同じ集落の仲間の死体を突き刺してしまった石の槍を持つゴブリンは、罪悪感と恐怖でまともな判断ができるわけがない。
『笑って! へっ! 後ろに飛びながら剣を大上段振り下ろし!』
僕は言われた瞬間、声を上げていた。
「へっ!」
そう、まるで真似るように。大上段に振りかぶり、後ろに回った刃に後方で体制を立て直していたゴブリンが突き刺さる。
まるで全て操られているようだ。まるで、ゴブリン達の行動が全部予測できているようだ。いや違う、予測できるように相手の思考能力をそいでいるのだ。
『ふり下ろす!』
言われるまま剣を振り下ろすと、後ろからゴブリンがついてきた。
そこに辛うじて攻撃に転じようとしたゴブリン達の槍が突き刺さり。そのまま勢いで、ゴブリンは首から上を縦に両断されてしまった。
「ギャー!」
刺したゴブリンが正気を失う。明らかに膝が笑っている。
『前に歩きながら横に剣を凪ぐ』
思念で指示をするグラスには驚かされる。
一歩前に歩きながら無造作に剣を振ると、これが面白いように避けようとするゴブリンの胸元を横に切り裂くのだ。浅く、僕が切り裂けるギリギリで、そして致命傷になるように。
しかし、それらは後ろに吹き飛び。正気を失っているゴブリンに激突した。
そして、ドンと後ろからグラスに押され。転びそうになり剣を杖にすると、二匹のゴブリンの腹を貫いていた。
そして、最後のゴブリンはグラスに首を締められている。
「状況終了」
とグラスは言った。
僕はおののいていた、だってゴブリン達に一瞬もまともに戦闘させていない。
これじゃあ、最後の瞬間まで僕という一人の狂戦士の虚像とゴブリン達は戦っていたことになる。
「怖いよ、グラス!」
僕は、もう泣きそうだった……。
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