第2話・スライムの謎
最弱として名高い魔物。それはスライムである。
半液体状の不定形の生物。それは僕が生きていく最後の手段に群がっていた。
ゴミ。食べ残し、街の外に打ち捨てられたそれらに群がっている。
しかし同時にそれは希望だった。
「テイム……」
ただ、出来るのかどうかの確認のために放った魔力。それに呼応して、一匹のスライムが寄ってきた。
スライムは水音がするだけで、何かのコミニケーション方法を持っているわけではない。
ただ、食べ残しに取り付くことができていなかったスライムに見えた。
瞬間、ガクンと魔力が減る。体を強い脱力感が襲い、僕はこらえるのに精一杯だった。
次の瞬間、頭の中に小さな植物が芽を出す映像が見える。テイムが成功したのだ。
植物には二つの葉が有り、それぞれ意思疎通とステータス共有の力を持つのがわかる。これがギフトの成長。全て本能的に理解する、生物の根幹の一つなのだろう。じゃなければ、意味なんてわからないはずだ。
スライムから嫉妬心が伝わってくる。僕に対して、そしてスライムたちに対して。それは、まるでスイッチが切り替わるかのような単純な思考だ。
スライムとはそこまで原始的な生物なのだと初めて知った。
「食べていいよ」
昨日まで飼料を食べていた。僕は明日のごみ捨てまでまだ待てる。
僕が言うと、スライムはそのスライムたちが群がるごみ捨て場へと同化した。
そして伝わって来るのは優越感。ほかのスライムは僕がテイムしたスライムから逃れようとする。
しかし、どちらにせよ鈍足。スライムは、逃げようにも僕の微小なステータスの乗ったスライムから逃れられずゆっくりゆっくりと消化されていく。
どんどんと小さくなって、そして最後には消えた。
そして、スライムの発する感情が変わった。それは感謝だったのだ。
まるで生物としての格が変わったかのように、まるで進化でもしたかのように感情が増えているように感じた。
「なんだろう……」
スライムは何かが違うのだ。
そして、次に許可のような感情が伝わってきた。僕がスライムに食べていいと行った時のような。
スライムはそのゴミの中から食べられる物を地面に吐き出した。
「これを僕にくれるのかい?」
伝わってきたのはまたも許可。
しかし、ほかのスライムはまだゴミ山にいる。僕のスライムはそこに戻ってほかのスライムを捕食しにかかった。
スライム同士の戦いはまるで食い合いだ。大切な部分を守りながら、お互いを食い合って負けそうになったら逃げ始める。
近くで他のスライムが負けそうになっても全く興味を示さない。知覚がまるでないみたいに。
「ありがとう……」
と、僕は僕のスライムに感謝を告げると、帰ってくるのも感謝だった。
感情のレパートリーがまるで少ないみたいだ。
それはりんごのかけらだった。腐敗した部分だけ取り除かれて僕が食べられる部分だけみたいな状態だ。
僕はそれを少しづつかじった。誰かが食べたりんごの残りカスで、食べられる果肉も少ない。
僕のスライムは他のスライムと腐った部分だけを食べ始めた。僕の食べられる場所は、僕に対して吐き出すのだ。
「待って、そんなに食べられない……」
僕のスライムはまるで食べられない部分を洗浄するシステムだ。すごい……。とにかく成長が早かった。
すると今度は哀れみのような感情が伝わってくる。
きっとスライムは無限に食べることが出来るのだろう。対して人間は限界がある。
「いや、それはちょっと……」
なんというか感情に段階もなく、原始的でスライムは変な生き物だ。
スライムはスライムをどんどんと食べていく。まるで水を得た魚のようだ。
しかし、みんないいもの食べてるなぁ。お肉、食べられるのに捨てるなんて……。
僕は誰かのかじりかけの骨に付いた肉をかじる。それで食べられない腐った部分やゴミはゴミ置き場に投げて戻す。
「ぷ……ぷひゅ……」
僕は、スライムからそんな音がしてびっくりした。
「え!?」
伝わって来るのは優越感。
「ぷひゅ……」
どうやって音を出しているのかと思えば泡を作って、それを破裂させて音を出していた。
「すごいね……なんか輪郭もはっきりしてきた……」
僕のスライムだけ、ひと目で見分けがつくようになってきた。
あぁ、成長しているのか……。こんなスピードで……。
僕はスライムがすごい生物な気がしてきた。まるでまん丸の雨露のような形。
「ぷひゅ……」
スライムは優越感と感謝を混ぜて僕に伝えながら、音を奏でる。そしてスライムを貪る。
ついでに僕が食べきれないゴミもどんどん食べていった。
「うーん……触って大丈夫なのかな……なんかかわいいし……」
そんな事を思って指で突っついてみた。すると、指が飲み込まれる。しかし、痛みも何も感じない……。
「ぷひゅ……!」
喜びがスライムから伝わってきた。しかしである、ちょっと伸びていた爪がスライムに食べられてしまった。
「爪きりしてくれた!?」
僕はびっくりした。そのスライムの有用性に。
スライムに、全部の指を差し込んでみる。すると、爪を全部切ってくれた。
「ありがとう!」
そう言って頬ずりをすると、スライムは僕にベチャッとくっついた。
「うわ!? 僕を食べるの!?」
それは流石にひどいなと思いつつ、謎の生物に近づきすぎたバツとして死を受け入れるしかないと覚悟を決めたのだった。
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