ねずみ算テイマー!ー街から追放されたけどテイムを従魔と共有して脱法レベリングー
本埜 詩織
第1話・珍しいだけの無能の烙印
多くの孤児たちは10歳を迎えると、出荷の時が来る。それが、孤児の生きる道だ。人道的な道と、奴隷と、それ以下。それが10歳で全て決まる。
僕は神様が嫌いだ。幸せになれない人がたくさんいるせかいを作った神様が……。
「次!」
ここは青田刈りの場だ。そりゃ、幸せになる孤児もいる。
「アプレイザル・ギフト」
神官たちの魔法もまた源はギフトである。ギフトは与えられた恩恵を使うたびにまるで大樹に水をやるように成長していく。
「騎士道のギフト!」
それを得た孤児は、私語は禁じられているため強く手を握った。それが人道的な道を歩くギフトの代表だったからだ。
騎士として必要なおおよそ全ての行動によって成長するギフト。強力なステータス補正。即ち、騎士団での成り上がりが期待できる。
「次!」
僕たち孤児はまるで家畜だ。10歳を迎えるこの日まで飼料を与えられる。
「アプレイザル・ギフト! 豪腕のギフト!」
その孤児はうなだれた。それは多くは奴隷となるギフトの一つだったから。
腕力を使う行動で成長するギフト。労働の全般に向いている。腕力一辺倒のステータス補正。
「次!」
そして、僕の番だった。
「アプレイザル・ギフト! テイマーのギフト!」
全ての音が静まり返ったように思えた。その瞬間、僕の人生は終わったも同然だった……。
ステータス補正なし。ギフト成長方法、魔物との戦闘及びテイム。そう、補正なしの癖に戦闘をしなければならないのだ。
「次!」
しかし、出荷は淡々と続いていく。
「アプレイザル・ギフト! ッディヴァイン……」
そして運命のいたずらか、僕の次の孤児は引き当てた。特級伝説ギフト、ディヴァイン。それは、運命の寵児に与えられるギフトである。
全てのギフトの上位互換。ただそこに存在するだけで成長を続け、その成長に限界はない。
ギフト獲得当初は何も変わったように思わないのも特徴の一つ。
同じほど珍しいが、彼女はこれから七日のうちに人を超越した力を得るだろう。七ヶ月のうちにその肉体は組み代わり高次の存在となる。そして、彼女は自分の生まれた意味を見つけるだろう。それを果たすと同時に、死すというより神の座に帰る人がこのギフトを持つ。
「おぉ、珍しいだけの無能の次に本物が出てきた! 大儲けだ!」
孤児はまだいたが、次の瞬間院長は俺の首根っこを掴んだ。
「それに比べてお前はどうだ? そんなんじゃ売れねぇよ!」
そう言って、僕を投げ捨てたのである。
「ッ!」
激痛が走る。院長のギフトは先導者。誰かの生活を支援するたびに成長していくギフトだ。
孤児の顔には大抵アザがある。先導者のしっかりとした人はそもそもこんな職場には回されない。先導者のギフトを持った性格に難有りの集団が孤児院長。そして、立派な先導者から貴族たちに奪われていく。
「さぁ、出て行った出て行った! テイマーなんて見世物にもなりゃしねぇ……」
そう、僕は町外れにある孤児院から街の外に追い出されたのだ。
自由の身、といえば聞こえはいいが処分にほかならない。処分ができるようにこの位置に孤児院は建てられている。
「ッ! ッぁっ!?」
蹴られ、痛みに負けて外にそのまま押し出される。
これが奴隷以下の生きる道だ……。
「せいぜい俺の見えないところで死ね!」
院長はそう言って扉を閉じてしまった。
慈悲深い者は貴族の甘言により慈悲のいらぬ職場で慈悲を発揮する。それが国のためと思って。
あぁ、そうだ。外だ……。もう、喋っていいんだ……。
「あはは……あはははは! あーあ、どう生きたらいいんだろう……」
僕はなぜだか無性に死にたくなくなった。でも、どうしたらいいのだろう。10年まるで家畜として扱われた僕には、たまらない開放感だった。生の実感だった。
あるいはそれも、そう思うように人間という生物がデザインされているのかもしれない。生きるすべを失ったのに、生きる希望がわいてくるのだ。
「クソ! クソっつ!」
天に罵声を吐いた。神がいるならなぜ必要なものに慈悲が行き届かないのだ。
それはきっと神の不在の証明だ。ギフトはきっと神などではない何かが与えている。もっと愉快犯のような。
僕はただ彷徨った。街の外縁を、ただ生きるための術を探して……。
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