第3話・成長性

 スライムは僕を食べることはなかった。僕の体についた老廃物を食べて、土や埃は地面に吐き捨てたのである。

 だから、僕はそれから森に住むことを決めた。衛生面はスライムがクリアしてくれる。あと、ギリギリ戦えるだけの力も手に入れた。棒一本あれば害獣程度の相手なら殺すことが出来る。他のスライムを食べたスライムの行動は一応戦闘だったのだ。


 葉は三つ目レベル3ということになる。ステータス相互共有というスキルを獲得した。僕の従魔はスライムだけ。でもそのスライムもスライムにしてはきっと圧倒的な強さだ。それとレベル3にもなるとどんなギフトでも害獣と戦う程度の力は手に入るのだ。

 僕のスライムは僕の肩に乗って動くようになった。丸くてぷにぷにしていて、手触りが非常にいい。

 スライムの僕に訴えてくる感情もどんどん多彩になっていく。それに、僕の食べ残し、腐っていない部分も食べられるようになったみたいだ。

 スライムは基本的に腐ったものだけを食べる。分解されかけのものの分解を早める役割を持つのだ。


「スライムってどれくらい生きるんだろう……」


 その寿命は短いとされている。だから、すぐお別れが来てしまうのかもしれない。それはなんだか嫌だった。

 スライムからはそれを理解していないのか、疑問の感情が伝わってくる。


「ごめんごめん、大丈夫!」


 とりあえず、害獣あたりから初めて戦闘を積み重ね、この服がボロ布に変わる前に魔獣を倒したい。街に入るためにはお金が必要だが、魔獣を倒せれば魔石で代用できる。もちろん農作物や肉や毛皮も使えるが、それだとまぁまぁの量になる。

 スライムからは任せておけとばかりの感情が伝わってきた。

 森には棒きれはたくさん転がっている。石などもだ。右手に石、左手に棒きれを持って僕は森を進む。これで武装のつもりである。これ以外にやりようがないのがなんとも悲しい。


 しばらく森を進むと、サバットラビットという害獣と遭遇した。


「スライム! やるよ!」


 サバットラビットは、この世界に存在する職業である冒険者にとっては初級も初級の依頼である。初めての討伐依頼にもってこいだ。


「ぷひゅっ!」


 また破裂させるあの音だ。なんだか可愛くなってきてしまった。

 僕は石を投げた。しかし、素早いサバットラビットにはそれを躱されてしまう。しかし、跳躍しかも攻撃を兼ねてこっちへと飛んできたサバットラビットを棒きれで叩くことに成功した。


「えいやっ!」


 転がるサバットラビット。外見は愛くるしいのだが、この害獣のせいで農業が城壁の外で行えないのだ。

 増え方も尋常ではなく、草に根菜にと植物なら大抵食べてしまう。サバットラビットの大量発生が起こると肉食獣が大量発生して困る事がある。そのために討伐依頼が起こるのだ。


「ぷひゅ!」


 スライムは自分がひらべったくなり、そして風に乗ってサバットラビットに飛んでいった。そして、絡みついたのである。

 地面や草に絡みつくスライム。そしてサバットラビットの機動力は削がれた。

 唯一人間に有効打を与えられる足も今やスライムに絡みつかれている。


「あー、ちょっとあれだけど……えいっ!」


 僕はそれを棒きれで叩く。首の後ろを。結構残酷だ。生きるってこういうことである。

 何度か叩いて、サバットラビットは動かなくなった。初めての戦闘らしい戦闘に勝利したのだ。


「ぷひゅ!」


 どんなもんだいと言わんばかりの優越感がスライムから伝わってくる。


「ふふっ、ありがとうね! 食べていいよ! できれば皮は残して欲しいけど……」


 ただ、そんな事をん僕が言ってもスライムから帰ってくるのは疑問の感情だ。たぶんそれを理解できるほどまだ成長していないのだ。


「ごめん、いいよ!」


 スライムには考えるための何かがあって、それがスライムの大事な場所。そしてそれを最初はスライムからしか吸収できない。だから誰かがスライムをテイムしないとスライムが強くなるということはないのではないだろうか。


「ぷひゅ!」


 とスライムは音を立てて、そのサバットラビットをドロドロと溶かしていく。

 感謝の感情がどんどん伝わってくる。


「おいしいのかな?」


 それに対しての感情は肯定だった。

 本当に謎の多い生体だ。

 さて、当面の生活の指針を固めなくてはいけない。どうやって生活していくかだ……。

 やっぱり皮を剥いで街に戻って冒険者とかになるのが一番だけど……。無能扱いだろうなぁ……。

 まぁ、無能でもできるのが冒険者のいいところだ。冒険者は一応のライフラインとして機能している部分が有る。でもまぁ、本物の無能は冒険者になったところで死ぬだけなんだけど……。


『美味しい……』

「え?」


 急に頭の中に言葉が流れ込んできてびっくりした。


『脳みそ食べた!』


 それは、スライムからだった。なんとスライムから伝わって来る感情が明確に言葉になってきているのだ。まだまだ単純なことしか言ってないけど。


「皮残せる?」


 僕はもしやと思って訊ねてみたけど……。


『え?』


 結果はダメだったみたいだ。まだそこまで頭が良くないのだ。

 ただ、少しづつ頭が良くなっていっているみたいで僕は皮で街に入るためのお金を工面する方法を考えることにした。

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