坂の上の極楽園

小端冬子

坂の上に眠る秘密


 車を降りると、目の前には果てしなく思える坂道がひたすらに伸びている。

 ぐっと首を傾けて見上げた先、ちょっと小高い山のてっぺんに、その館は建っていた。

 場違いに気取った装いの屋根のはしっこが、木々の合間から覗いているのが遠目に見える。かろうじて。



「ほんとに一人で大丈夫か?」


 助手席側の窓を開け、父が尋ねてくる。


「いいよいいよ、今日はどうせほんとに見てくるだけだし」


 遠回りになるというのに通勤ついでに送迎してくれるだけでも十分ありがたい。父はそうかと頷いたものの、後ろ髪引かれるような面持ちで通勤路へと戻っていった。

 遠ざかる車を見送って、さてと踵を返す。


 あらためて向き直った坂道は、そこそこの角度の傾斜だった。

 自転車では立ちこぎ必須になるだろう直線の上り坂を黙々と進む。しばらくすると緩くカーブを描き始め、両脇に並んでいた住宅がぽつぽつと頭数を減らし始めた。ついには片面は舗装された山肌、片面は崖になり、道なりに続くガードレールを辿り続けるだけの道になる。車一台分がようやく通れるだろう幅の一本道。心ばかり路側帯を示す白線が引かれているが、ほとんど消えかけている。車の通りもすっかり途絶えてしまっているため、特段心配するようなことはないのだが。

 やがてガードレールすら消え失せて、そこから先は私有地となる。両脇に連なる樹から伸びた枝が頭上で折り重なりあい、さながらアーチのようになっていた。入り口の手前に、私有地であることを示す看板と、「坂上」の表札がならんで立っている。

 ここまでの道のりとほぼ同じだけの距離を歩いていく。話には聞いていたが、なるほどそこそこいい運動にはなるが、利便性という面では壊滅的だ。もう完全に山中の光景となっている周囲を見渡しながらのんびり登っていくと、不意に木々が拓けた。



 趣深い鉄柵の向こうに見えるのは、異国情緒漂う豪奢な洋館だった。



 もともとこの館は曾祖父が建てたものらしい。残念ながら立地も設計も実用性に乏しいために、今の今まで無人の空き家となっている。一応定期的に業者を入れて管理はしているらしいが、ひ孫の己すら生まれてこの方訪れたことはおろか存在すらつい数か月前に知ったばかりだ。


 進学を機に家から出ることを決め、住宅を探している時に小耳にはさんだため渡りに船だと父に交渉したのだが、おすすめはされなかった。進学先は山の麓から少し先に位置する。確かに家から通うよりは直線距離は近いが、毎日朝晩の山登りが待っているし、自転車通学も厳しい傾斜のためである。実際歩いてみた印象では、たしかに楽とは言いづらいが、別に通えないほどではないな、という感じだ。両親は麓の借家でよいのではと言ってくれたが、戸建てを占有できるという自由さについ強く魅かれてしまった。いや、いきなり館の仮の主になるとかめちゃくちゃヤバいだろ。選ぶなら断然こっちだ。

 館が廃墟同然のホラー物件だとかならさすがに考えるが、わりとこまめに手入れしているというのだから迷う余地はないに等しい。築年数はそれなりなので家鳴りがだいぶ激しいとは聞いたが、今のところ継ぎ目に隙間が開いているとか傾いているだとかはなさそうなので大丈夫なのではなかろうか。


 身長の倍くらいありそうな高い鉄扉の前を素通りして、脇の小さな扉を開ける。借りた鍵すら、アンティークっぽい形と雰囲気をしていて、まるでファンタジーの世界に飛び込んでしまったような気分になった。実際はファンタジーの欠片もないのだろうが。

 こざっぱりと整えられた前庭を通り抜けて正面玄関へ。

 ドアノブもファンタジー全開の意匠をしているが、残念ながらライオンはついていなかった。鍵束から玄関のカギを取り、開ける。扉は分厚く重く、押し開ければ、ギギイ、と引きずるような音がした。

 館内も一目で「これこれ、こういうの」と頷けるような装いをしている。深紅の絨毯と、階段の手すりは古めかしいけど磨き抜かれた輝くような焦げ茶色。壁紙は白いけれど、手すりと同じくらいの高さまでは手すりと同色の飾り板のようなものが敷き詰められている。扉上の小窓から光がほっそりと差し込んで、やっぱりこだわりの装飾がなされているのだろう、ところどころちかちかと瞬いていた。


「おお、よく来たの」

「あれ? じいちゃんこっち来てたの?」


 ひょうきんな声と共に、脇の部屋からひょっこりと祖父が顔を出す。朝は家にいたと思うのだが、どうやら先回りされたらしい。

 ひょっひょっひょ、といかにも好々爺らしき哄笑をあげる祖父。


「そりゃあの、お前さんが来るならちゃんともてなしてやらんとのう」

「えぇー、なになに。わざわざ言うの、逆に怖えんだけど」


 祖父は答えず、ひょっひょと笑うばかりだった。

 自由気ままにどんどん進んでしまう背を追いかける。洋館ではあるが、室内は土足厳禁にしたらしい。玄関脇の下駄箱はさすがに普通だった。持参した上履きはつい先日まで学校で使っていたもので、館の雰囲気とはこれっぽっちも合わないのだが致し方ない。


 館は二階建てになっている。右手には応接間があり、左手にはリビングからサンルーム、奥に入ってダイニング、キッチン、洗面所周りは階段横の通路からも繋がっているらしい。二階は主寝室のほかに洋室が五つ。うちひとつは一回り小さい書斎になっている。どの部屋も家具は以前使っていたものがまるっと残されているので、気にならなければそのまま使ってよいとのこと。ちらと覗いた応接間にはいかにもアンティークなテーブルと椅子が並んでいた。月の始めに掃除をしたばかりだからか、特に埃をかぶっていたりはしていなさそうだ。


 反時計回りにぐるりと一周してリビングへ。

 サンルームと地続きになっているせいか、ずいぶんと広い。備え付けの暖炉を稼働させたとして果たしてどれだけ暖かくなるのだろうか。着る毛布必須かもしれない。

 サンルームの壁は全面が窓になっていて、中庭が見渡せるようになっていた。春から夏にかけてはそこそこ見栄えのある景色になるというが、今は季節がら枝とくすんだ色の植え込みが並ぶばかりである。


 と、その中に不自然な色がうごめいていた。

 目の覚めるようなショッキングピンク。

 花というにはちょっと大きすぎる面積。


 右へ左へ、ごそごそと動いているのはどう見ても人間だった。ド派手でめちゃくちゃ浮いているショッキングピンクのジャージを着た誰かが、館に背を向けた状態で、庭先にしゃがみこんで何事かをしている。見ればサンルームの窓にそこそこデカいシャベルが立てかけられていた。


 思わずじっと目で追っていると、不意に人影が振り返った。

 自分よりかは年上だろうが、若い女性だった。染めているのか館の調度品と近い色合いの茶髪を雑にまとめていて、たぶん化粧はしてなさそうなあっさりした顔だけれど、今風の顔立ちをしている。結構かわいい。ちょっと年齢層高めかもだけど、四十八分の一にいそうな感じ。


 視線が合う。ぎょっと目を丸めた女性は、見る間に般若顔になった。怖い。まさか人の家の庭先に死体埋めてたとかじゃないよな。めっちゃ目立つピンクジャージで?


「どっから入り込んだの! ドロボー! 非行少年! ここ私有地だし、不法侵入は立派な犯罪だからね!」


 窓越しなのに、怒鳴り声は結構はっきりと聞こえた。

 人のこと言える立場か?

 とは思ったものの、そういえば庭の手入れをしている植木屋が今日来てるかも、みたいなことを父が言ってたような覚えもある。だいぶ若いけれど、頼んでいるのは最低限の手入れだけだと思うし、見習いとかバイトの人なのかもしれない。

 館の鍵束を掲げて見せながら、サンルームの窓を開ける。


「家主の親族です。近日ここ使うかもしれないから内見で」

「君が?」


 じろり、と明らかに不審者を見る目を向けられた。確かに洋館で暮らすような人相はしていないが、それにしたって不躾である。


「そっちこそどちら様ですか」

「ここの庭木の手入れを任されてる羽須美はすみ園芸の方から来た者ですけど」

「従業員証とか名刺とか持ってます?」

「なんでアンタに個人情報提示しなきゃいけないワケ?」


 もう完全に不審者対応だった。

 というか明らかにマスターっぽい鍵束持ってる時点で察してほしい。

 ジャージ女はずかずかとこちらに近づいてきて、泥だらけの軍手をつけたまま、おもむろに立てかけていたシャベルを引っ掴んだ。


 嘘だろ。まさかいかにも金かかってそうな洋館で鈍器振り回す気かコイツ?! いやそれ以前に仕事中の現場でいきなり暴力全振りしてくるとかお騒がせ系の学生バイトか!? せめて店なりなんなり経由して確認を取れよ! やっぱ死体埋めに来たやつなの?!


「まてまてまて! 家主に確認とるから! そっちも店に連絡してくれませんかねぇ!」

「はあー? 誤魔化そうったってそうはいかないからね」

「見るからに年上のくせに理性的な話し合いをしようという素振りすら見せないのどうかと思う!」

「ハァ? 誰が年増だって??」

「言ってませんけど???」


 シャベルを持つ手に力がこもる。

 いかにもアンティークな調度品立ち並んでる洋館の一室に踏み込んでいい装備じゃないだろそれ。ていうか土足! 土まみれじゃねえか靴! 掃除すんのめっちゃ大変なんだぞ! クリーニング代もわりと馬鹿にならないとかで、だからうちは洋館だけど土足厳禁にしたらしい。絶対特別料金とか取られそうな代物だからな。館だし。


 ただの脅しというにはだいぶ目の据わったジャージ女に、ついたじろいであとずさる。それで自分の方が優位だと見て取ったのか、ジャージ女はいよいよシャベルを振りかぶって威嚇してきた。

 お前それ、シャンデリアに当たったらマジでヤバいからな。ごめんなさいじゃすまなくなるからな、ガチで!


「ちょっと! 上! シャンデリア! 当たる!」

「当てないわよ、さっさと出ていきな!」


 実は掠めそうになるだけでもヤバい代物なんですけど、それ。

 そう口にするよりも、事が起こってしまう方が先だった。


 ドタン、バタン、キリキリキリ。

 いきなり物々しく鳴り始める異音。天井や壁、そこかしこから音が響いてきて、床下で何かが稼働する気配がする。

 やばいと思ってサンルームを飛び出そうとするが、遅かった。



 がこん、と音がして、床がなくなる。



「え?」

「あーあ……」


 足場がなくなったので、当然落ちるしかない。

 取りすがれるような縁は遠くて、ゴムのように腕が伸びたりなんかも当然しない。一瞬の浮遊感のあとに訪れる落下の圧はエレベーターのようでいて、ちょっと違う。パッカリ開いてしまった床は、さながらひと昔もふた昔も前のバラエティ番組の舞台セットみたいだった。




 これ見よがしに飛び出している岩のような出っ張りに手をかけて、横穴に飛び込む。もののついでなのでジャージ女も片腕で引っ掴んで放り込んでおく。どさくさに紛れてシャベルにはご退場願った。


「ぎゃんっ」


 それが乙女の悲鳴か?

 いや不審かつ前科疑惑のあるジャージ女に向かって乙女もクソもないか。

 パタン、と音がして抜けた床が元通りに閉まってしまうと、周囲は一寸先も見えないほどの暗闇が広がった。

 腰に提げていたヘッドライトを取りつけてスイッチを入れる。足元でギャアと怪獣のような悲鳴が上がった。

 ぐるりと四方を見回して、適当に目線あたりで手を振ってみる。すると壁にあったセンサーが感知して、ぼぼぼ、と明かりが灯っていく。再び潰れたカエルみたいな悲鳴があがった。

 ジャージ女は顔を手で覆って、目が、としばらく呻いていた。


「なにここ……」

「落とし穴の先の地下通路」


 ハァ? とジャージ女の声がひっくり返る。

 だがそうとしか言いようがない。


「この館、ひいじいちゃんの趣味でカラクリ屋敷になってるんスよね……」

「嘘でしょ?」

「マジです。ちなみに行方不明者出てます。なんで今は無人」

「嘘でしょ」


 そんなばかな、と言わんばかりにひきつった声が返される。

 多くは語らず、背後を指さす。

 振り返ったそこは落下地点の直下である。

 おそるおそる振り返ったジャージ女は、暗いそこに目を凝らし、しばし沈黙していたが、ようやく目が慣れたのか、息をのんだ。

 覗き込んだその先には、きっと無数に突き出された竹が見えたことだろう。斜めに切られた断面の、先端はそれなりに鋭くて、そこそこの勢いで無防備に落ちれば人体くらいは軽く損壊できるだろう。即死は難しそうな塩梅が逆に殺意の高さを物語っている。


「うそでしょ……」


 もうそれしか言えなくなってそうなジャージ女に先ほどまでの威勢はない。


「歩けそうなら進みましょう。座り込んでても、迎えが来るのは夜なんで」

「み、見取り図みたいなの、持ってる……?」

「二階の書斎にあるって話だったんすけどねぇ」


 書斎に上がる前に地下に直行してしまったので、残念ながらノーヒントで上がっていくしかない。

 うそでしょ、とジャージ女が力なく鳴いた。


 半泣きのジャージ女を促して、とりあえず通路を進む。

 通路の壁には点々と、松明のように明かりがならんでいる。当初は本当に松明を掲げていたらしいけれど、普通にボヤ騒ぎになりかけて祖父の代に全部電球に換えたらしい。賢明である。そもそも埋め立ててしまえよってツッコミはよくないのでお口にチャック。

 何度も角を曲がったが、人が二人並んで通ることも可能な幅の通路はとりあえず普通に歩けそうだ。


 と、思った矢先にガコンと音がして、ジャージ女が蹴躓いた。

 とっさに小脇に抱えつつジャンプする。

 その足元を、風を切る音が通り過ぎた。

 体勢のせいでずっと下を向いていたジャージ女が、手足をちぢこめて震える。


「なにあれ……」

「トラップの定番、吹き矢? みたいな?」

「なにあれぇ……」


 ビビりすぎて脳みそ溶けてるのかもしれない。

 まともにしゃべることもできなくなった(もとより会話はほぼ成立していなかったようなもんだが)ジャージ女を下ろすと、慌てた様に背中に取りすがってきた。


「おいてかないでぇ……ごめんなさい……たすけて……」

「はい、大丈夫ですから歩いてくださいね」


 ずっと抱えているのはさすがに邪魔なので。

 ジャージ女は何度もうなずいて、カルガモの雛のように後ろをついてきた。


「ちなみに同じく定番で背後から大岩が転がってくるやつとか」

「転がってくるの!!!???」

「いや傾斜造れなかったんで断念したらしいです。計画倒れ」


 うまく転がらなかったらしい。というかまずスペースの関係で曲がり角が多いのでそこで普通に止まってしまっておもしろくない、とかなんとか。


 閑話休題。足元とついでに側面の壁にも仕掛けが作動するスイッチのようなものがないか慎重に見ながら通路を抜ける。ジャージ女にはなるべく同じ場所を歩くようにしてもらった。



 現在地がわからなくなるようなジグザグ通路をひたすら進むと、袋小路に突き当たった。壁に手すりが梯子のように連なっているので、次はこれを登るのだろう。

 とりあえず先に上がってみる。

 と、いくつも進まないうちに悲鳴が上がった。


「き、消えた……!」


 みれば、足場となるはずの手すりが言葉通りに消えていた。否、壁に隙間があるのでたぶん引っ込んだだけだろう。一定時間荷重がかかると引っ込んで、しばらく出て来なくなる仕掛けなのかもしれない。


「きえ、消えちゃったよぉ。どうしよ、どうしよ……お、おいてかないで……」

「置いて行きませんって」


 場所を開けてもらい、とりあえずいったん飛び降りる。順に登るのが難しいのなら、いっぺんにいくしかない。


「うーん、とりあえず背中乗ってください」

「ひゃい……」


 しゃがんで背中を差し出すと、おずおずと身を寄せてきた。一瞬ためらうような素振りを見せたが、すぐに首元に腕が回り、背中にぎゅうぎゅうと柔らかな感触がみっしりつまって、荷重がかかる。腿を抱えて立ち上がり、軽く揺すって体勢を調整する。


「登るときは手ぇ放すんで、しっかりしがみついててくださいね」

「うん……うん……」


 足が腰に絡みついたのを確認して手を放す。

 改めて壁に向き直る。

 手すりは半分くらいが消えていて、続きは頭上いくぶんか先に位置している。普通に手を伸ばしただけでは届かない。重しのこともあるので、ちょっとジャンプした程度ではギリギリ手が届くか、そも届いただけで登れなければまた落ちるのみだ。

 目算して気合を入れる。軽く跳んで荷重を確認。それにしても背中がみっちみちだ。意識が明後日の方向に集中しかけ、根性で押し戻す。いかん邪念を棄てないと。普通に命の危険だわ。


「ほっ」


 膝を深く曲げて、飛び上がる。

 手すりを掴んだらそのまますぐに次の手すりに手を掛ける。ぶら下がる足を振って勢いをつけながら身体を持ち上げ、登っていく。数段進めば足もつけるようになるのでぐっと楽になった。



 そこから先はとんとん拍子で、次の階層へたどり着く。

 目の前はまたすぐに壁に阻まれた。けれど今度は足元にぽっかりと口が空いている。しゃがんでのぞき込むと、やはり通り道になっていた。

 同じように明かりのついた通路だが、今度はやたらと天井が低く幅も狭い。匍匐前進まではいかずども、四つん這いになって這って行かなければならなさそうだ。


「ここ通るんで、降りてください」


 背中で微動だにしないジャージ女に告げる。というかいつまで負ぶられてるつもりだろうか。締め上げる力が強くなったが、物理的に無理なものは無理なので諦めてほしい。

 しばらくぐずられたが、なだめすかしてようやく背中が軽くなったので、再発しないうちにさっさと通路に潜り込む。

 ちょっと体格がよいと詰まってしまうのでは、と心配になるほど通路は狭い。


「大丈夫ですかー?」

「うん…………ちょっと、うん、腰骨ひっかかるかも、あいたっ」

「あー、ゆっくりめで行きますね、うん」


 岩肌を再現したのか壁や天井に凹凸がけっこうあり、その出っ張りが当たるのだろう。ちょいちょい「んっ」とか「いた、」とか小さく声があがっている。なるほど。はい。

 気持ち進行速度を落とす。あんまりせかせか急ぎすぎると後ろもあわててついてこようとして慎重さを欠き、うっかりひっかけてしまうことが増えて痛い思いをさせてしまうのではないか、という配慮である。配慮です。


 変なスイッチがないかと気を配りながら、黙々と進む。通路は案外長くて、四つん這いで進み続けていてかつ狭い地下通路で空気の通りも悪いせいか、ジャージ女の息があがってきている気配がした。だんだんこぼれる声が増えて、呼吸音が湿っぽくなり、時折鼻をすする音すら聞こえてくる。うん。前後逆にした方がよかっただろうか。いやでも前陣取られて進まなくなられても困るし。

 後ろから聞こえる音をなるべく意識の外に追い出しつつ、黙って進む。

 黙々。淡々。すんすん。グスッ。


「ひぅっ、」


 出っ張りにぶつかっても弾力があるせいか物音はしない。半泣きの声だけ上がる。

 気に留めないようにずんずん進む。平常心。南無阿弥陀仏。残念ながら素数は数えられないし円周率も序盤ちょろっとしか覚えていない。はふ、とこぼれる湿っぽい吐息で室温が数度上がった気がした。



 と、ようやく終点までやってきたようだ。

 行き止まりにみえるけれど、よくよく目を凝らせば凹凸の影に継ぎ目らしきものが見える。

 立ちふさがった壁を少し力を入れて押すと、案の定ぐぐっと奥に沈んでいった。隠し扉だ。

 そうして這い出た先は――また同じような狭い通路だった。


「あれ?」


 左右に伸びているらしい通路。先ほどまでとほとんど同じ景色が広がっている。

 もしやと思い這い出て、右側だけが蝶番でつながっている隠し扉を締まり切らないよう加減して閉じ、通路の右手側を進んでいく。するとすぐに拓けた場所に出たが、床の続きはなくなって、見下ろした先は断崖絶壁、下の方に復活してきている手すりらしき影が見えた。やっぱり、もとの地点に戻されているらしい。


「うーん、失敗した」


 たぶんどこかで同じように隠し扉があって、横穴を抜けて次のエリアに向かうようになっているのだろう。気づかなければ延々這いずり回されるってワケだ。無限ループって怖くね?

 仕方なくもう一周することにして、ふたたび通路に戻る。


「あれ?」


 つい先ほど出てきた隠し扉が消えていた。ジャージ女はいない。

 心当たりの場所をよくよく見てみたけれど、隙間もうかがえなければ指を掛けられるような出っ張りもない。一方通行仕様らしい。誤ってさきほどの扉は閉まってしまったようだ。

 みたところ何の変哲もない壁にしかみえない。ただ、壁の向こうからすんすんとすすり泣く声がうっすら聞こえてくる。


「すみませーん、きこえますかー!」

「っ! きこ、きこえるぅ……!」

「そこ、正面扉になってるんで、押し開けて出てきてくださーい!」

「うっうっ、さっきから押してるけど、あかなぃい~~~……!」

「えーと左、左側の方押して! ぐっと! 右の方は繋がってるんで!」


 開閉の邪魔にならないよう下がって声を掛ける。ふんっ、ふんっ! と何度か踏ん張る声がして、壁の一部が不自然に揺れる。端が少し浮いたのを確認して、指を掛けて引っ張ると、扉はずずいっと開いた。


「あ、開いたぁ~! 少年、どこぉ~~!」

「こっちです。右。扉の影」

「よがっっだあああぁぁぁぁ~~……!」


 横穴から頭だけを出して、ジャージ女はべっしゃりと潰れた。


「なんか最初のとこ戻っちゃったみたいで。たぶん同じように通路のどこかに隠し扉があって、横に抜けるようになってると思うんスよね。もっかい行きましょ」

「うん……」

「ゆっくりで大丈夫なんで」

「うん……」


 しばらく力尽きていたジャージ女が意を決したように隠し扉から這い出てくる。うっかり前後が入れ替わってしまったが、狭い通路で身を躱すことは当然難しい。まあとくに危ないトラップはなかったので支障はないだろう。そのまま彼女に先を行ってもらうことにした。

 のろのろと動き出した身体を追って、通行の邪魔になる隠し扉を閉め、いざと顔を上げる。



 視界の九割にみっしりショッキングピンクが詰まっていた。


「ウッ」


 むちむちのぱつんぱつんだった。

 ……選択を誤ったかもしれない。

 でも今更どうしようもないので、そのまま進まざるを得ない。最悪もう一周を覚悟した。



 先ほどまでよりもっと遅くなった歩みで、じっくりたっぷり観察しながら通路を進む。もちろん通路内の壁とかそっちの話である。なんかうっすら熱気が伝播してきてるような気がするけどたぶん気のせいだし。ほんのりあせのにおいとかしないし。そもそもこいつ論外のジャージ女だし。

 雑念をちぎっては投げちぎっては投げしつつ、なんとか横穴の隠し扉を発見できた。

 違和感のある場所を手探りで触れ、押してみると、先ほどの隠し扉のように向こう側に押し出せる箇所がある。


「隠し扉ありました」

「えっ、どこどこ!」


 通り過ぎていたジャージ女が急に勢い込んで下がってくる。

 えっ、と振り返った時には衝撃に打ちのめされていた。

 ばいんっ、とみっしりした弾力に跳ね返されて、首がグキリと嫌な音を立てる。


「ギャッ! ゴメン!」

「はい……」


 首だけじゃなく顔面も地味に痛い。鼻は柔らかいところにぷにっと吸い込まれてまあマシだったが。


「落ち着いて行きましょう……」

「はい……大変申し訳ございません……」


 たぶん土下座よろしく頭を抱えて蹲っているのだろうが、残念ながらこちらからでは尻しか見えない。

 こちらが先に横穴に入ってから下がらせて、後に続いて入ってもらう。さっきの逆だと思うと、改めて身が縮こまる、もとい引き締まる思いだ。

 ジャージ女も黙り込んでしまって、これまで以上に重苦しい空気の中、黙々と進む。



 通路を抜けると視界が開けた。今度は天井が高い。普通に立てる空間になっている。

 通路から這い出して立ち上がると、うんと背伸びをする。自分で思っている以上に変に力が入っていたのだろう、背中がミシミシと音を立てた。

 同じように出てきたジャージ女が伸びをする。ぐっと背を反らすと、厚みのある部分がぐっとせり出てくる。ぜんぜん気にしている余裕がなかったのでいま気が付いたが、ジャージの前が閉まりきっていない。見るからにジッパーが途中で上がらなくなりました感がある。

 満足したのかほうと息をついてジャージ女が掲げていた腕を下ろした。

 振り向かれるより先にさりげなく視線を外して、あたりを見回す。


 次の空間はちょっとした小部屋になっていた。

 今度は一目瞭然に扉があって、扉の横になにやらプレートがこれ見よがしについている。扉にはのぞき穴が付いていて、覗き込めば次の部屋があるのが見えた。当然鍵がかかっており、ドアノブを動かしてもびくともしない。

 ふと、祖父に寝かしつけられていた幼いころの寝物語を思い出す。


「あ、これ聞いたことある」


 言いさしたところで、ジャージ女が急に片腕を上げた。


「はいはいはいっ! あたしもこれわかる!」


 扉横のプレートをじっと睨んで難しい顔をしていたのに、一転ぱっと破顔する。

 プレートには、一目では内容を掴めない文字の羅列が刻まれていて、その下にタヌキが浮かび上がるように彫られていた。


「たぬきね、たぬき! よくやるやつ、『た』と『ぬ』と『き』を抜いて読むと答えが出てくるやつでしょ! えっと、『お』……」


 自信満々に、件の三文字を抜いて浮かび上がる文字を順に辿っていく。



「『お』『な』『か』『す』『い』『た』…………」


 弾む声がみるみるにしなびていく。

 そらんじても何も起こらない。



「文字は引っかけで、これタヌキが外れるからそれ引っこ抜いてこののぞき穴にはめ込むんスよね……」


 曾祖父渾身のおちゃめだったとかなんとか。

 ジャージ女は崩れ落ちるようにしゃがみこみ、膝を抱えて丸くなった。

 乱れた髪の合間からちらりと覗く耳の裏が赤くなっている。

 見なかったことにして黙って鍵の開いた扉を開ける。沈黙は金。




 次の部屋も小部屋だった。先の部屋よりもうすこし天井が高い。

 今度の部屋には扉が二つあった。

 入ってきた場所とは別に、正面奥にひとつ、左側手の壁にひとつ。さてどちらに進んだものか。祖父の寝物語にヒントを求めて記憶をひっくり返す。


 と、いきなりカチリと音がして、足元が揺れた。いや、よく見ると足元だけではなく部屋全体が揺れている。ゴロゴロゴロと壁の中を走る轟音。軋む部屋。波打つ天井……違う、波打っているのではなく天井がそのまま下がってきている。釣り天井だ!


「え、え、えっなにあたし何も踏んでないし触ってないよ!?」


 ジャージ女がすっかり縮こまって涙声で訴えた。確かにそれらしきものはなかった。

 ざっと首を巡らせる。

 ふと見れば今しがた入って来た扉がご丁寧に閉じられていた。もしかすると、完全に部屋に入り、お行儀よく扉を閉めたら作動する仕掛け、とかなのだろうか?


 ともあれ猶予はそんなにない。

 固まって震えているジャージ女の肩を掴む。とにかくこの部屋から移動しなければ。

 奥の扉か、左の扉か。

 じわじわ天井が迫ってくる。それにジャージ女が気付いたのだろう、ひきつった悲鳴を呑み込んだ。縋るように腕が背に回ってくる。


 前か、左か。

 膝を折り身をかがめながら思い返す。

 じいちゃん、じいちゃん、タヌキの次は!

 脳内で叫ぶと、どこからともなく祖父の声が降ってきた。



『左手には花束、右手には約束を、じゃ』



「――――ッ、左!」


 叫ぶが早いか身をかがめたまま駆けだして、扉を蹴破る。

 勢いそのまま、扉の奥も確かめずに飛び込んだ。

 硬い床にたたきつけられる衝撃。

 もつれあうように転がってしばらく、ずしんと地響きがして振り返ると、扉の向こうはすっかり壁に埋もれてしまっていた。

 弾む息のまま、それを呆然と眺める。

 ほどなくして天井はゆっくりと持ち上げられていったが、ふたたび引き返す必要はないだろう。

 続く先は、最初と同じように朗々と明かりが灯る、普通に歩ける広さの通路だった。


 腕の中の体がぐったりと弛緩する。呼吸は小刻みから戻らないまま。重なった胸から伝わる鼓動はどちらもまだ落ち着かない。首元にぱたぱたと落ちる滴は気づかなかったことにしよう。

 口からこぼれた嘆息は、どうしても深く、長くなってしまった。





 通路を抜けた先の梯子を上ると、妙に埃っぽくて狭い場所に出た。つんと灯油のにおいが鼻につく。

 ここにきて、唐突に照明がなくなった。頭につけっぱなしだったけれどスイッチは切っていたヘッドライトを点灯すると、周囲がまばゆく照らされる。

 積み上げられた段ボールと、灯油が入っているらしきタンク。掃除機。丸めたカーペット。ビニールの包装を中途半端に引っぺがしたティッシュの箱の束。

 奥に見えた背の低い扉を開く。


 急に差し込む光に目が眩み、反射的に瞼を閉じた。

 何度か瞬きして目を開ける。


 目の前には、祖父のひょうきんな顔がせまっていた。



「ほい、おかえり」

「…………ゴールかぁ~……」



 おもわず膝から力が抜けそうになる。

 地に足は付けたものの背中に張り付いたままだったジャージ女も、ようやく脱出できたことに気が付いたのだろう。安堵で緊張の糸が切れたのか、わんわんと泣き出した。背中にずしりと重みがかかる。

 えいやと一念発起して、扉をくぐり、ジャージ女を背負いなおす。すっかり忘れていたけれど彼女は土足のままだ。ある意味、不幸中の幸いだったのかもしれない。



 出てきた場所は、階段下の押し入れだった。

 そのままリビングに移り、ソファにジャージ女を下ろす。リビングの隅に投げ出されたままのリュックを拾い、中に入っていたステンレスマグボトルを取り出して、蓋を開けてタオルと一緒に持たせてやる。消え入りそうな声で「ありがとう」と告げた彼女は、ボトルを傾け一気に中身のスポーツドリンクを煽ったかと思うと、背を丸めてタオルに顔をうずめ、ピクリとも動かなくなってしまった。


 サンルームに差し込む日差しはだいぶん傾いていた。赤みがかった光に照らされて、床が彩度を増す。無防備に開いたままの窓を閉めようと足を運び、ふと庭先をのぞき込む。

 庭は広く掘り返されていた。思っていたより深いらしい穴を見下ろしてみる。まだ何も入ってはいない。

 脇の方に転がっているブルーシートを広げる。そこにはカップに入った花の苗がいくつも並んでいた。もうすでに小さな花がついている。名前は憶えていないけれど見覚えがあった。ホームセンターや街路樹の足元でよく見かける、ありふれた花だった。


「ごめんなさい……」


 震える声でジャージ女は懺悔した。


 依頼は荒れないように整えるだけ。

 雑草を抜いて、伸びすぎた枝を伐採して、長く晴れ間が続いたら水をやって。

 野鳥たちが勝手に運んできた種が根を張って見知らぬ花が自生している個所もあるけれど、傍の洋館の趣に比べて、庭先の景色はずっと寂しい。


 だから依頼にはないけれど、自腹で持ち込んだ花をこっそり植えていたらしい。

 数年前からこの庭の管理を任されていて、欲が出たのだと彼女は言う。

 いつからか、この庭こそが彼女の城だった。


 彼女の荷物の中、財布の中から免許証と一緒に出てきた学生証。隣町にある大学の名と一緒に彼女の名前が記されていた。羽須美のどか。家族経営のこじんまりとした地元の店の、一人娘だそうだ。



「助かるよ」


 別に花は嫌いではない。特別思い入れがあるわけでもないけれど、リビングから見える庭先の景色がにぎやかなのは、きっと悪い気はしないだろう。


「俺、ここに春から住むからさ。進学祝いのサプライズだと思っとく」


 言うと、ぐずぐずと鼻を鳴らしたままジャージ女がわずかに顔を上げた。タオルでほとんどを覆ったまま、目線だけがこちらを向く。


「こんな辺鄙なところに……?」

「辺鄙で悪うござんすね。学校は山降りてすぐだし問題ないっスよ」


 はて、と彼女が首をかしげる。


「このへんの中学ってそこそこ距離あるくない……?」

「ぶん殴るぞこのクソアマ。高校だわ」


 誰が童顔チビだ。ちょっとモデル体型で身長も高いからって見下ろすんじゃねえよ。




  ◇◇


 父の迎えでつつがなく帰宅して、夕食をありがたくいただく。大冒険の後なのでおかわりが二杯くらい増えて、母が苦笑していた。


「やっぱあそこ大変でしょ」

「まあぼちぼち。でもすぐ慣れるって」


 もうすっかり住む気満々の息子に、母は困ったような顔をした。


「私は行かないわよ」

「一人で大丈夫だって。高校生ならよくあるよくある」

「危ないでしょ」

「セキュリティ会社契約してるし、園芸屋さんがちょいちょい来てくれるんだろ。今日会ったけど悪い人じゃなかったよ」

「そりゃああそこのおじさんは気のいい人だし、アンタがいるなら今まで以上に気にかけてくれると思うけど」


 もともとあちらに住んでいた母は、やっぱりあまりいい顔をしない。

 坂上のお屋敷は母方のものだ。母も幼いころはあの洋館に親戚たちと住んでいたというが、就学前にみんな競うように家を出て、もぬけの殻になった。


 住人が一人消えたせいだ。


 家じゅうを探しても、地元の警察と協力して山狩りをしても、その消息はつかめなかった。さらに捜索していた親族――当時小学生だった母の兄も騒動の最中に行方不明になってしまって、いよいよ駄目押しとなった。事故物件となった洋館は、以来だれも使っていない。


 リビングのソファに座ってテレビを見ていた祖父が苦い顔をする。

 幼い伯父もあの地下ダンジョンのことを知っていたという。祖父に教わり、何度か一緒に探検したそうだ。祖父もそうして曾祖父に教えられ、坂上の男たちはあの地下に眠る秘密を受け継いできた。

 だから伯父も、行方不明者が出た時に、真っ先にあそこだと思い当り、迎えに行ったのだろう。けれど幼い体で踏破することは叶わず、ミイラ取りがミイラになった。


 だから祖父は己には、いくらか身体が大きくなるまでは近づいてはならないと厳命した。その上で数年、多少のトラップは難なくしのげるように鍛えたのだ。

 ギリ身長が……と渋っていた祖父をようやく頷かせたのがこの進学の機会である。あの心臓破りの坂道でさらに体力をつけ、身長制限をクリアできたら探索を解禁する、という約束だったのだ。早速破ってしまうことになったが、結果は御覧の通り。



「でも俺、あそこ気に行っちゃったし。絶対あそこ住むから」

「はいはい」


 あきれたようにいなされたので、念押しする。


「約束通り、ちゃんとテストの点数も取ったし」

「あんた、入学式の答辞の内容考えたの?」

「あーうんやるやるすぐやる」

「忘れてぶっつけ本番とかやめてよ。アンタ、なんだかんだ凌ぎそうだけど、絶対余計な台詞ポロっとブッコむでしょ」

「うーん、信頼が厚い」


 正か負かはおいといて。

 分が悪くなってきたので、食後の一服もそこそこに部屋に引っ込むことにした。

 いそいそと背を向けた己に、母が呼びかける。


「鍵、おじいちゃんとこに返しときなさいよ」

「へいへーい」


 引っ掴んでいた鞄から洋館の鍵束を取り出して、隣の仏間へ向かう。

 線香の香る中、仏壇の前に正座して、鐘を鳴らし、手を合わせる。鍵束は鐘の隣へ並べ置く。

 しばらく黙とうして、仰ぎ見た先には遺影が並んでいる。

 写真が苦手だったという祖父の遺影は、さっき見かけたのと同じ、苦い顔をしていた。



 部屋に戻ると、いつの間にやら部屋の真ん中に祖父が陣取っている。

 遺影と同じ苦い顔が、俺を見て、仕方がないなと言わんばかりに崩れる。

「約束はちゃんと守るよ」


 あの地下に消えた伯父を見つけ、その亡骸を連れ帰る。

 あの釣り天井の部屋の奥、右側にあたる扉から続く先に、きっと伯父はいるのだろう。

 一番に消えてしまった祖父のことも。いつか必ず。



 そうしてその暁には、あの屋敷は俺のものになる。そういう約束だ。

 俺ただ一人のものに。


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坂の上の極楽園 小端冬子 @lyso

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