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「どうせなにもできないくせに!」


 本当に、そうだ。


 ぼくは強い『おれ』じゃなく、弱い『ぼく』で、なにもできないいじめられっこの『ダメメイヤ』なのだ。


 なにがバクマン。なにが正義のヒーローだ。


 必ずやるって言ったくせに。


 好きな女の子の、好きな男を助け出すこともできないのか。


 えらそうに「安心して」とは言ったけど、これじゃミヅカさんが安心できるはずなんてない。あの泣き顔を、笑顔に変えることはできない。


 そもそもなんで……


 ミヅカさんはこんなゴウを好きになり、こんなゴウのためにあんなに涙を流すんだ。


 自分勝手でわがままで、毎日ぼくに鞄持ちをさせるうえ、人の宝物を平気で奪う嫌なやつなのに。


 おまけにこいつは、自分にとり憑く悪魔に対して、なにもできずにただただ無力に眠ってるだけじゃないか。


 いくらゴウが、ケンカが強くても、格好よくても……


 ぼくは触手に締めつけられながら眼下で眠るゴウをにらんだ。


 くそったれ。


 全部、受け身か?


 むかつく顔だ。


 なにもかもに腹が立つ。


 どうして、ぼくがこんな目にあわなきゃならない。


 今やゴウの身体は、そのほとんどが悪魔のなかにとりこまれている。わずかに顔の一部がアフロと一緒にピンクの外に出ているだけだ。こんな状態ならば、やつの命ももってあと数十秒かそこらだろう。


 このやろう。人がこんなに苦しんでるのに、のんきにぐーすか眠りやがって。


 ひとりでらくに死のうとしやがって。ぼくは頭に血がのぼった。


「(シネ! バクマン)」


 そんな頭に悪魔の声が響く。身体全体がぎりぎりと締めつけられる。


「うわああああああ……」


 骨がぎしぎし音を立てる。


 こいつ、このままぼくを、引きちぎって殺すつもりだ。


 ふざけんな!


 ぼくはこんな夢のなかで、悪魔になんか殺されるつもりはない。


 絶対にコアを破壊して、絶対に触手の悪魔を消滅させるんだ。


「(クタバレ!)」


 手足が外に引っ張られる。


 ギリギリギリギリ、骨が軋む音が聞こえる。


 そして。


 ぷつん。


 ぼくのなかでなにかがはじけた。耳の奥で静寂の音がする。


 ぼくはゴウをにらんで叫んだ。

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