37

「まじかよ」


 悪魔本体を目のまえにして、ぼくは一瞬、完全に思考を止めてしまった。動きも止まってしまう。


 びゅんっ!


 頭上から触手が一本振りおろされる。


 虚をつかれた。


「うぎゃっ!」


 巨大な触手が真上から後頭部を直撃。頭の上でヒヨコどころかニワトリが飛ぶ。ぼくの身体は下に向かって自由な速度で落下する。


「(ウオオオオン!)」


 そこへ今度は、下から団体になった触手がどっと押し寄せてきた。サッカーボール大の丸い触手の先端がすきまなく眼下に広がる。どの方角にも逃げ場はない。


 まずい。


 このままいけば正面衝突してしまう。今度はもうヒヨコだニワトリだなんて言ってられない。それはすなわち、死を意味する。


 ぼくは朦朧もうろうとする意識のなかで、ユメ・ブレードを顔のまえにかまえた。光の剣を強く握る。


 ぶちゅ、ぐちゃ、ざぱあん。刀身に触れた触手がぶちぶちちぎれる。ユメ・ブレードの切れ味は伊達じゃない。光の剣に触れた触手は茶色いしぶきをあげながらちぎれて落ちていく。


「(ウオオオオオン!)」


 だが、そんなものでは悪魔はひるまない。ちぎれた触手はすぐに再生する。そして新たな攻撃をしかけてくる。おまけにぼくは自由落下のままだ。


 風が身体を殴っていく。轟音に囲まれる。目のまえに広がる触手は、すきまのないピンクの壁になり、ぼくとの距離を詰めてくる。


 ぼくは再度、ユメ・ブレードで攻撃態勢に入った。避けられないなら切るしかない。光の剣を握る手に力をこめた。


 彼我の距離がみるみる近づく。


 このままぶつかる。


 そう思った。


 しかし。


 予想ははずれた。


 直撃の瞬間、悪魔の触手が散開した。


 大きく広がる。ネットのように。


 落下するぼくのまわりを包囲する。


 そして。


 ぼくは悪魔に捕まった。

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