15

「(ダレダ、キサマ……)」


 悪魔の意識が言葉になって脳に響く。


 バクマンの姿になったぼくは、全身が黒と白のコスチュームでおおわれている。頭のてっぺんから足の先まで。具現化した白い光が物質的な鎧になる。肌はいっさい露出してない。


 まあ、たしかにこれじゃあ、いくらじっくり見たとしても、中身がぼくだということには、友達だって気づかないだろう。


 でもさ。


 これだけ年中、悪魔退治をやってるんだからさ。


 おまえらの仲間を何体も光のなかに消滅させてるんだからさ。


 いいかげんに、悪魔くらいはぼくのことを覚えてほしい。それともこいつら、同一種族でうまく連携がとれてないのかな。


「まあ、いいや」


 ぼくは気をとりなおし、ユメ・ブレードをまえにかまえる。走りながら言った。


「おれは……バクマンっ!」


 そして同時に光の剣を横に薙ぐ。ゼリーを腹からまっぷたつ。露出した黒いコアを上下二つに両断した。悪魔の身体が、うえ半分とした半分で分断される。


「(グアアアアアアアアアアア……)」


 中心のコアを破壊された悪魔の絶叫が闇の世界を震わせた。空気がびりびり振動している。音の圧で飛ばされそうだ。同時に、光の剣に接触したコアの断面がまぶしい光を放った。


「(……アアアアアア……)」


 光が膨張する。悪魔の叫びが小さくなる。


 闇の世界が光につつまれ、景色が白一色になった。


 静寂。


 悪魔が消え、領域が消える。やがて景色が返ってくる。


 そこは遜色ない、子ども部屋の風景だった。


「ふう」


 ぼくはこぶしを開きユメ・ブレードを霧散させた。もうこれは必要ない。さっきまで悪魔にとり憑かれていたユウトは、今ではベッドですやすや眠っている。


 生意気な小学生の、かわいい寝顔。


 もうなにも心配はなかった。


 やることのなくなったぼくは、すぐにその場を離れて家に帰った。

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