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 その夜、ぼくはいつもの夢を見た。


 夢のなかで目が覚める夢。夢というのとは、厳密にはちょっと違う。ぼくの夢はひどくリアルで鮮明だ。


 夢の世界で、ぼくはベッドを起きあがる。服装は倒れたときの制服のまま。机の上は鞄の中身が散乱している。なにもかもが現実世界と地続きだ。


 夢の世界もぼくらが昼間暮らしている現実世界と変わらない。ぼくや母さんが住んでいる二階建ての自宅があって、ゴウやスナオに荷物持ちをさせられる通学路があって、野田先生に怒られてばかりの学校がある。


 ぼくがこういう夢を見るときには、決まって「領域ゾーン」が存在する。いや、正確には領域が存在するから、ぼくがこういう夢を見るのかもしれない。


 夢と領域。これを察知するのがぼくの特殊能力のひとつ。ぼく以外の誰も持っていない不思議な力だ。


 領域は、昨日の夜のような触手のバケモノが支配している一種の亜空間のこと。誰が名づけたわけではない。ぼくが勝手にそう呼んでいるだけだ。


 領域が存在している場所は、もやがかかってそこだけ景色が歪んでいる。


 なかは黒の闇の世界。上下左右の区別がなく、空もなければ地面もない。すべての方角は「自分から見て」という基準になる。


 みんなも苦しい夢を見たことがあるだろう?


 内容はぼんやりとしか覚えてないけど、ひどく恐ろしくリアルな夢。得体の知れないなにかに追われる夢だとか、殺されかける夢かもしれない。


 それは、領域の中心部分に存在する、触手のバケモノ(ぼくは悪魔と呼んでいる)が人にとり憑き、とり憑いた人間の生命エネルギーを吸い続けてることが原因だ。


 ここで肝心なのは、これがただの夢ではないということ。夢のなかだけでのできごとだと思ったら大間違いだ。


 この夢は現実世界と密接にリンクしていて、夢の世界で起こる悪影響は、そのまま現実世界の被害となる。


 これは、ぼくの経験上の確信だ。


 もし、ぼくがただの妄想でこんなことを言っているんだったら、ぼくは幼稚なイカレたバカということになるだろう。


 だが、それは断じて違う。


 ぼくはいたって正常だし、やさしくないさんざんな現実にうんざりして夢の世界へ逃げこんでいるわけでもない。


 ぼくはもともと臆病者でケンカだってしたことがないんだ。妄想なんかで、あんな凶悪な触手のバケモノと戦いたくないし、できれば夢のなかでくらい平穏ぶじに暮らしていたい。


 だけどいつからか、こんな夢を見るようになってしまい、人の生命いのちをおびやかす悪魔と戦わなければならなくなってしまった。特殊な能力を持つ、ただひとりの存在として。


 まあ、受難と言えば受難だが、考えようによっては、これってじつはすごいことなんだよね。


 だからみんなは、ちょっとはぼくを褒めてもいいよ。


 友達や恋人やまわりのみんなに言いふらして「メイヤ、すげー」って言ってもいいんだからね?


 そうすれば、人知れず戦ってるぼくの苦労も報われるというものだ……


 こほん。


 話が脱線してしまった。


 しきりなおして続けます。

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