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「まだ小さかったけど、あんたも覚えているでしょ? あんたの父さんは、そりゃあ、すごい人だったんだよ。スポーツ万能、頭もよくて、なんでもできて。おまけに強くて、やさしくて、かっこよくて……」
あの、母さん。
「話し、脱線してる」
「うるさいっ!」
えー……
「とにかくっ! 母さんは生きてたころの父さんと約束したんだから。あんたを立派な一人前の男に育てるって。ねえ、メイヤ。あんたは明日の誕生日で、十五歳になるんだよ? 今年は受験生なんだし、そろそろしっかりしないといけないのよ?」
片親でもひとり息子を立派に育てる。父さんが死んだ約十年前から、百万べんも聞かされている。
「父さんの最後のセリフは『おれがいなくても、二人で力を合わせて、強く生きていけ』だったんでしょ。もう聞き飽きたよ」
ぼくが言うと母さんは口をとがらせた。
「あんたねえ。だいじなことなんだよ。だって、父さんはねえ……」
やばい。
また長い説教が再開しそうだ。
ぼくはさっさとコンバースのオールスターを脱ぐと階段をあがる。二階にある自分の部屋に避難した。
「ちょっと、メイヤ! 待ちなさい!」
うしろから母さんの声が追う。
「だめだ! ぼく、やっぱりまだ体調悪いから部屋で寝る。晩ごはんもいらないから、母さんも気にしないで仕事やってて。締め切りが近いんでしょ」
ぼくは言いたいことだけ言って部屋に入ると、鞄の中身を机の上に投げ散らかし、制服のままうつぶせにベッドに倒れた。
これがぼくの目に見える一日だ。
すげーイケてて、楽しそうな毎日だろ?
だが、ぼくの一日はこんなものではまだ終わらない。
ここから先は目に見えない、もうひとつの一日の始まりだ。
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