9
「ただいまー」
ひいこらしながら荷物を運び、みんなとわかれて家に帰った。
玄関を開けると一階の自室で翻訳の仕事をしていた母さんが出てきた。
「あんた、大丈夫なの?」
「なにが?」
思わず聞き返す。
「今日、体育の授業中に倒れたって聞いたけど」
おかえりなさいもなく、いきなりそう言う。
「うん。まあ」
どうやら学校からそういう連絡が入ったらしい。
「でも、半日保健室で寝てたら、けろっと治っちゃった。もう心配ないよ」
「半日ぃ?」
母さんの表情がそこで変わる。眉がぴくりと跳ねた。
あ、まずい。
よけいなことを言ってしまった。
そう思ったがもう遅い。カミナリ警報のアラートが心のなかで鳴り響く。
「あんた、また授業サボったね! これだから、いつまでたっても授業についていけるようにならないんでしょ!」
ごろごろぴかんと小言が始まる。そして話は実力テスト結果に流れる。
「それで、どうだったの?」
ぼくはとっさにうそをつく。
「ま、まだ返ってきてないよ。来週あたりには返ってくるんじゃないかなあ、あははは」
じろり。
母さんがぼくをにらむ。ぼくはとっさに目をそらした。
「はあ」
あきれたみたいに母さんはため息をついた。
「父さんが生きていたら悲しむよ、きっと」
これは母さんお得意の情にうったえかける作戦なのだ。
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