8

「はあ……」


 疲れた。


 廊下での長い説教が終わって学校を出ると、校門の外に三つの人影があった。


 ゴウとスナオとミヅカさん。ぼくを待っていたらしい。


「また怒られてたみたいだな、メイヤ」


 長身のゴウが、身体を折ってぼくをからかう。


 あー、うるさい。見ていたなら、助けてくれてもいいじゃないか。


「運動もだめ、勉強もだめで、おまえにはいいところなんてひとつもないもんな」


 スナオは例の意地悪い笑いを見せた。


「ちょっと二人とも、なんてこと言うのよ! そんなことないって。メイヤくんにも、きっといいところがいっぱいあるよ」


 そう言ってかばってくれるのは、やさしくてかわいいミヅカさんだけ。


「ふーん。それで、メイヤのいいところって?」


 ゴウがたずねる。


「そ、それは……」


 ミヅカさんが口ごもる。次の言葉が出てこない。具体例は一つもあげてくれやしない。


 カアカアと夕暮れ空にカラスが鳴いた。


「まあ、いいや」


 鞄を突き出してゴウが言う。


「帰りもよろしくな、メイヤ。今日はおれ、サッカーやったからくたくたでさ」


 それにならってスナオも自分の荷物を突き出した。


「おれのぶんもよろしくな。おれの身体は繊細だから、重いものを持つようにはできてないんだ」


 ちーん。あっというまにぼくの手には鞄が三つ。


 ミヅカさんがぷりぷり怒る。


「ちょっとゴウくん。朝も野田先生に言われたばかりじゃない。自分のぶんは自分で持ちなさいって」


 ゴウは恋人の言葉など、まるで気にしない。


「だってメイヤは、おれたちの荷物を軽々持ちあげて運べるんだもん。すげーよな。そんなに力持ちなら、まかせたくなっちゃうじゃねーか」


 絶対そんなこと思ってないくせに。調子のいいことを言う。


「あっ、そうか!」


 その言葉でミヅカさんの表情が明るくなる。


「メイヤくんのいいところ、ひとつ見つけた」


 嬉しそうに手を叩く。ひとさし指を1の形に突き立てた。


「力持ちなところ!」


 ぼくたちの横を風が走る。春の空気はまだまだ冷たい。


「……とにかく、早く帰ろうぜ」


 あきれたようにゴウが言う。


「遅れるなよ、メイヤ」


 息を吹き返したスナオもさっさと歩いていく。


「あー、もう! 待ってよー」


 ミヅカさんはヒステリックに言う。


「ごめんね、メイヤくん。ゴウくんには私からちゃんと言っておくから。じゃあ、がんばってね」


 そう言って、二人のあとを追っていく。心配したり味方をしてくれるけど、手伝ってはくれない。最終的にぼくは一人、荷物と一緒にとり残される。


 うーん。


 あの子は天然か?


 女心は、ぼくにはちっともわからない。

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