4
「よっこらしょ」
完全に積載オーバーのぼくは、ひいこらしながら三つの鞄と、三つの袋を持ちやすい位置に装備した。肩かけ式の通学バッグは、二人のぶんを右と左の肩にかける。
自分の鞄は持ち手のところを首に引っかけ、うしろにたらす。そしてあいた両手には三人ぶんの体操着。ハグするように抱きかかえる。
「ふう……」
これで準備完了だ。
鞄持ち。一日二回の、ぼくの日課。
「おはよう。メイヤくん」
二人の監視のもと定位置に荷物をおさめたぼくが、よろよろ歩き出そうとしていると、うしろからぽんと肩を叩かれた。
「ん?」
振り向くとクラスの女子が立っている。嬉しくて、ぼくは思わず声に出した。
「ミヅカさん!」
彼女の名前は、
小柄でやせていて、足が細くて、美人で、やさしくて、いい匂いがして……
こほん。とにかく、そういう女の子だ。
ミヅカさんは一瞬だけぼくを見てから、その荷物の多さに気づく。
「あー、もしかして」
大きい目をつりあげて、その先にいる性格の悪い二人組をにらむ。
「またゴウくんたちに荷物持たされてるの? 困ったやつだね、ゴウくんも」
ふうと言って甘い香りの息を吐く。
あっ、それ、ダメ。ぼくはくらりとしてしまう。
「私がやめてあげてって言っても、ちっとも言うこと聞いてくれないんだよ」
そう言って悲しそうな顔をする。
それはぼくを心配してというよりも、ゴウに対する愚痴のセリフだ。なぜなら……
「おーい。チアサー。なにやってんだよー。早くしないと、学校に遅れちまうぞー」
100メートル先のゴウが叫ぶ。
「あーん、待ってよー。今いくからー」
ミヅカさんは吐息よりも甘い声で返事をする。
そりゃあ、そうだよな。
ぼくはむしょうに悲しくなった。
「じゃあ、私、ゴウくんたちと先に行くね。がんばってね、メイヤくん」
ミヅカさんはぼくの肩をぽんと叩いて、にこりと笑う。
制服のスカートの裾をひるがえし、ゴウのもとに走っていく。
そう。
ぼくの好きなミヅカさんは、ぼくの大嫌いなゴウとつきあってる。
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