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「よっこらしょ」


 完全に積載オーバーのぼくは、ひいこらしながら三つの鞄と、三つの袋を持ちやすい位置に装備した。肩かけ式の通学バッグは、二人のぶんを右と左の肩にかける。


 自分の鞄は持ち手のところを首に引っかけ、うしろにたらす。そしてあいた両手には三人ぶんの体操着。ハグするように抱きかかえる。


「ふう……」


 これで準備完了だ。


 鞄持ち。一日二回の、ぼくの日課。


「おはよう。メイヤくん」


 二人の監視のもと定位置に荷物をおさめたぼくが、よろよろ歩き出そうとしていると、うしろからぽんと肩を叩かれた。


「ん?」


 振り向くとクラスの女子が立っている。嬉しくて、ぼくは思わず声に出した。


「ミヅカさん!」


 彼女の名前は、美塚千朝みづかちあさ


 小柄でやせていて、足が細くて、美人で、やさしくて、いい匂いがして……


 こほん。とにかく、そういう女の子だ。


 ミヅカさんは一瞬だけぼくを見てから、その荷物の多さに気づく。


「あー、もしかして」


 大きい目をつりあげて、その先にいる性格の悪い二人組をにらむ。


「またゴウくんたちに荷物持たされてるの? 困ったやつだね、ゴウくんも」


 ふうと言って甘い香りの息を吐く。


 あっ、それ、ダメ。ぼくはくらりとしてしまう。


「私がやめてあげてって言っても、ちっとも言うこと聞いてくれないんだよ」


 そう言って悲しそうな顔をする。


 それはぼくを心配してというよりも、ゴウに対する愚痴のセリフだ。なぜなら……


「おーい。チアサー。なにやってんだよー。早くしないと、学校に遅れちまうぞー」


 100メートル先のゴウが叫ぶ。


「あーん、待ってよー。今いくからー」


 ミヅカさんは吐息よりも甘い声で返事をする。


 そりゃあ、そうだよな。


 ぼくはむしょうに悲しくなった。


「じゃあ、私、ゴウくんたちと先に行くね。がんばってね、メイヤくん」


 ミヅカさんはぼくの肩をぽんと叩いて、にこりと笑う。


 制服のスカートの裾をひるがえし、ゴウのもとに走っていく。


 そう。


 ぼくの好きなミヅカさんは、ぼくの大嫌いなゴウとつきあってる。

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