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「ほら、メイヤ。忘れものだよ」


 準備を終え玄関を出たところで、母さんにうしろから声をかけられる。


「ほえ?」


 振り向くとユニクロのビニール袋が飛んできていた。


「ぐえっ」


 手を出すまえに、顔に直撃。キャッチ失敗。


「へたくそ」


 母さんがぼやく。


 ばさっと音を立てて、ビニール袋が地面に落ちる。足もとにぴゅーと風が吹く。


「運動神経ないわね、あんた」


 そんなことは今に始まったことじゃない。


「今日は体育の授業があるんでしょ。ジャージ洗っておいたから持っていきなさいって、昨日の夜に言っておいたよね」


 あー、そーだっけ。昨日の夜って、なにしてたっけ?


「まったく、あんたは、いつまでたっても成長しないね」


「はあ」


 また小言が始まるのか。


「いってきまーす」


 大声を出し地面に落ちたビニールを拾い、逃げるように家を出た。朝の小言は無視するに限る。と、そのとき。


「おっす。内藤明夜」


 目のまえに二人のクラスメートがあらわれた。


「げっ」


 思わず声がもれてしまう。


「なにか不満でもあるのか、メイヤ」


 二人のうちのひとり、ちびのスナオが顔をしたからのぞきこむ。


「べつに。なんでもない」


 いつものくせで視線をそらす。


「そうかそうか」


 そんなふうに言いながら、スナオは勝ち誇ったように意地の悪い笑いを見せた。


 こいつの名前は砂尾駿すなおしゅん。ちびで、やせてて、性格が悪い。


 髪はアッシュブラウン。前下がりのツーブロックでサラサラヘアー。金持ちのぼっちゃんで中性的な顔立ちだが、ちょっとキツネに似てたりする。


 ちなみに……


「ちょうどよかったぜ。なあ、スナオ」


 最初に声をかけてきたこいつは、立石豪たていしごう


 身長が180センチ以上ある大男で、でぶではないががたいがいい。アフロみたいなモジャモジャのパーマヘア。全体的にもっさりしてる。


 動物にたとえるなら、顔の感じはサルとゴリラの中間くらいか。家がスーパーを経営してるが、商品がバナナだけということはない。


『ワイルドなゴウ』と『クールなスナオ』なんて言われて、女子のあいだで人気があるが、こいつらは天敵。苦手というか、嫌いなコンビだ。

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