「恭子、そろそろ爪切ったほうがいいんじゃない?」

お母さんが、箸で納豆をかき混ぜている恭子の手を見て言いました。

「来週またプールの授業あるでしょ? それまでに短くしておいたほうがいいわよ。長いと引っかかって危ないから」

うーん、と恭子は曖昧な声を出しました。まだ眠たくてあまり頭が回っていませんでした。

納豆をお米の上に載せ、粘ついた糸が垂れないよう注意しながら口に運びました。箸を持っている指先を見ます。透明なマニキュアを塗った爪は、相変わらず美しく艶やかでした。

正直なところ、恭子は爪を切りたくありませんでした。確かに、他の人と比べると、恭子の爪は多少長かったかもしれません。しかし、今のところ、不便を感じるほどの長さではありませんでしたし、恭子は今くらいの爪の長さが好きでした。指先を机に置いたときに、爪先が軽く音を立てる長さです。

爪が剥がれたら痛いんだからね、というお母さんの脅し文句を聞き流して、恭子はお茶碗のご飯をかき込みました。

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