第15話 煮物


アイツの信頼度=0に近いという事を双海が言っていた。

俺はその様子を見ながら考え込む。

信頼度0。

寧ろマイナスかもしれない状態だ。

かなり状態は良くない。


まあでも確かにその通りだな。

そう考えながら俺はまたカノンを歌いながら外を見ているとドアがノックされた。

俺は「?」と思いながらドアをゆっくり開ける。

するとそこに明那さんが立っていた。

明那さんは手をゆっくり振ってから俺を見る。


「こんばんは。お兄さん」

「...明那さん?どうしたんだ」

「...ちょっと用事がありまして。...今度...私の親族がこの場に来ます」

「ああ。それはそれは」

「まあだから何だって話ですけどね」

「...いや。大切な事だと思う。...有難うね。伝えてくれて」


言いながら俺は明那さんを見る。

そんな俺の言葉に明那さんは「お兄さんって大学に行くんですか?」と聞いてくる。

俺はその言葉に肩を竦めた。

それから断る。


「無理だな。俺の資金とか学力じゃな。働こうかと思う」

「...そうなんですね」

「ああ。貧乏人だしな」

「...親族が...皆、亡くなってますしね。お父様以外」

「ろくでもない親族だけどな」


本当にろくでもない。

それに親父はマジなパチンカスでもあった。

だからこそ刑務所から二度と出てきてほしくないが。

そう考えながら俺は目線を横に向ける。


「...私の人生の方がマシかもですね」

「そんな馬鹿な。君の人生は俺以上だ。...俺以上に酷い」

「私は親を捨てれました。母親も仮にも生きている。しかしお兄さんには何も残ってない。この点が違いますよ」

「...そうだな」


俺はそう言葉を発しながら周りを見る。

すると明那さんが「そういえば煮物作りました」とパッケージに入った煮物を見せてくる。

俺は「うん」と言った。

明那さんは俺の返事に笑みを浮かべる。


「お兄さんに食べてもらいたいです」

「...わざわざすまないな。...食材費払おうか?」

「要らないです。...私はまだ援助がありますので。...だけどお兄さんは...ほとんど援助が無いでしょう」

「まあな。正直、母親の生命保険が活きている有様だしな。...なるだけ節約しまくったけどお金が尽きるからバイトをしないといけない」

「...そうですね。...何かあったら言って下さいね。私も力になります」


言いながら明那さんは口角を上げる。

そして笑みを浮かべてきた。

本当にしっかりした子だなと思う。

これだけしっかりしていると...将来、結婚する人は幸せ者だろうなって思う。


「...明那さんは1人暮らしは寂しくない?」

「...寂しいですよ。...でもお兄さんが居ます。それだけで十分かと」

「...そうか」

「でも本当に箱庭みたいな世界ですね。...こうしてお兄さんと巡り合えたし」

「正直俺も驚愕だよ。打ち明けられた時はな」


それからハッとして家の中を見る。

「上がって行く?」とまた明那さんに聞いた。

すると明那さんは首を振った。

そして「今日は忙しいです」と言ってくる。


「...色々しないといけないので。...今日は有難う御座います」

「そうか。...また何かあったら来てね」

「...そうですね。お兄さんの事、信頼していますから」


そして頭を下げて隣の部屋に帰る明那さん。

俺はその姿を見届けてからドアを閉めた時だった。

スマホに通知が入った。

それは双海からだ。

絵の写真が添えられている。


「これは...」


俺は呟きながらその絵を見る。

その絵は...ゲルニ〇だった。

ゲル○カの完璧な模写。

つまり...アイツか。

海が描いたんだなと思う。


(またアイツ絵を描き始めたのか)

(そうですね。模写とか...絵を描いてますよ)

(...アイツをサポートしなくて良いかな)

(むしろサポートしてほしくなさそうです。...適当で良いと思いますよ。見守るのもですが)

(そうか)


というかあまりサポートする気も無いが。

アイツが悪い事をしなかったらもう何でも良いや。

それが一番だと思う。

そう考えながらキーボードをタップする。

それから文章を刻んだ。


(海が描いたその絵はどうするんだ)

(あくまで捨てませんよ。私の憧れですから)

(...本当に皮肉だよな)

(そうですね。皮肉です。好きになった相手が浮気した。キレそうですけど抑えています)

(...偉いよ。お前は)


そう書きながら俺は液晶画面を見る。

そして夕暮れの空を見上げながら(アイツが変わる事を祈ってるが...どう思う)と聞いてみた。

すると既読になって1分経ってから文章が来た。

(変わらないと思います)と。


(...だけど彼女自身の事ですから。先の事は分かりません)

(だな)

(...それから私達は姉妹を辞めました)

(待て。辞めたってのは?)

(...姉妹を辞めて近しい者同士になったんです。...年齢を考慮しないで)

(つまり...)

(つまりはお姉ちゃんに配慮しました。最大限に。この後にもし裏切ったらもう知りませんが)


そう書いてきた。

俺はその文章を読みながら溜息を吐く。

それから(だな)と返事を書く。

そして(今から風呂入るから)とメッセージを送った。

そうしてから閉じられた画面を確認してからお風呂に入った。

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