第13話 歪む一手


絶望的かもしれない。

私が全て招いた結果だが。

3年生の教室でもそれは噂されていた。

そしてその目は私に向けられている。


「もしかしてアイツじゃないか」

「そうだな」


とか言う声がする。

私はその言葉に恐怖を感じる。

だけどどうしようもない。

片っ端から私が招いた事だから。


「...ねえ。佐伯さん」

「...はい?」

「貴方でしょ?今の浮気の人の噂」

「...私は何も知らない」

「そっか。でも...学校の噂では貴方は破局したっていうから。愛し合っていた許嫁なのに。随分と間抜けね」


私はその言葉に「何故それを知っているの」と答えてしまった。

そして私とその女子に教室中から視線が集まる。

それから女子は「知ったのは貴方が付き合っている瀬戸内くんの情報から芋づる式にね。だって彼...殺人を犯した父親の息子でしょ。ネットで詳しく調べてみたんだけど」と言う。

私はその言葉に唖然としながら女子を見ていた。


そしてふつふつと怒りが湧く。

この女子は...田中というが。

昔から嫌味な奴だった。

だから抑えていたが。

こうも簡単...に情報をばらすとは。


「田中さん。あくまで...洋二は関係無い。そもそも責任は私にある。私だけを責めて」と言いながら私は立ち上がる。

それから田中を睨み付けた。

田中は真顔のまま「怖くない?普通。殺人を犯した父親の息子が学校に通っているんだよ?私は許せない」と言う。

瞬間。


手が出た。

それから田中を思いっきりぶん殴っていた。

まさかの事態に教室が凍り付いた。

田中は吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる様に倒れる。


「...私はあくまでどうでも良い。だけど洋二は。ほり返されてほしくない記憶だよそれ」

「あ、アンタ何するの!!!!!」

「私は絶対に許さない。貴方を」

「殺す気?馬鹿じゃ無いの!?」


私は歯ぎしりをした。

それから田中を見下す。

すると周りが喧嘩している私達をそのまま止めた。

そして騒ぎになってしまった。


「何事だ!」


生徒指導部の先生が入って来る。

それから周りが「佐伯さんがぶん殴りました」と言った事で...混乱が生じた。

そして私は暴力行為で5日間の停学処分になってしまった。


幸いにも傷害罪とかは免れた。

相手の田中にも厳重注意。

それから田中は反省文となった。



「お姉ちゃんは停学だそうです」

「...そうか」

「...まあ仕方が無いですね。殴ったそうなので。人を」

「...そうだな」


そんな会話をしながら俺達は帰宅する。

田中という女子を殴り飛ばした。

全治1日だそうだ。

だけど俺達の学校の空気が変わってしまった。

俺に向けられる目が好奇な目になっている。


「...大丈夫ですかね」

「...仕方が無いだろ。ネットは怖いな」

「...私ですら許せない事をしましたね」

「...そうだな」


俺達は好奇な視線を向けられる中。

屋上でご飯を食べているとドアが開いた。

それから「やあ」と顔を見せる。

それは...明那さんだった。


「...大変だったね。お兄さん」

「ああ。...そうだな」

「え?此方の人は?」

「ああ。初めましてになるのかな。...この子は明那さんだ」

「初めまして」


そして双海に握手を求める明那さん。

それからニコニコする。

双海は「その。...もしかして腹違いの...」と控えめに聞いた。

すると明那さんは「そう」と答えた。


「...私はまあ被害者だった。だけど彼は被告人の...息子。ここが違うんだろうと思います」

「そうだな。明那」

「...」

「どうした?双海」

「...いや。...洋二さんに家族が居て良かったなって」

「そうだな。妹の様なもんだしな」


明那さんが「...停学になったって聞きました」と言ってくる。

俺はその言葉に「俺の為と彼女が自分自身を守ろうとした結果みたいだがな」と答えながら弁当を食べる。

明那さんもお弁当を取り出した。


「...お兄さんは...その。許すんですか。佐伯さんを」

「...あくまで許さないよ。...だけどそれが全てか?って思う様にはなってきたけど」

「私も許さないですよ」

「...大変ですね」


そんな会話をしながら俺達は世界を見渡す。

それから「これからどうするんですか?」と聞いてくる明那さん。

俺は「...まあほとぼりが冷めるまで別の何かで経験値を積むしかないな」と答えながらタコさんウィンナーを見る。

そして食べた。


「...お姉ちゃんとこれからどう関わったら良いか」

「...俺も分からんな。もう。何を考えているかも分からん」

「そうだね」

「...どうしたら良いのか」


俺達は目線を逸らしながら会話をする。

すると明那さんは「...取り敢えずは彼女と話してみる事ですね」と言う。

そして目線をお弁当に落とす。


「...私もそうでしたし」

「...」

「...まあ私の事は置いておいて良いのですけど」


そんな感じで話しながら明那さんは苦笑した。

それからお弁当を食べ始める。

俺と双海は顔を見合わせてから同じ様に食べ始めた。

どうしようもない気持ちである。

どうしたら良いのか...。

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