第10話 希望
「先ず最初にですが私は呪われています」
「そんな事は無いと思うが」
「呪われていますよ私は」
俺は粗茶になってしまうがお茶を出してから頭を下げる明那さんを見る。
明那さんは俺を見てから苦笑する。
というか自嘲する様な感じを見せた。
「...私は呪いをかけられました。...あの男に」
「...明那さんがそんな目に遭っているとは知らなかった。何も...というかそれ以前にあの人に隠し子が居る事すらも知らなかったよ。屑は屑だったけど」
「...どうあがいても私はあの男の精子から生まれました。だから何とも言えませんが...汚らわしいです」
「そうだな。というか先ず浮気している時点で...ああ...まああの人だからあり得るけど...でも最悪だな」
「そうですね」
そんな感じで会話をする俺達。
明那さんは顔を顰めながらお茶を飲む。
それからゆっくり俺を見てくる。
俺はその顔を見ながら「頑張ったな」と言う。
明那さんは「そうですかね」とまた苦笑しながら「良い様に扱われていただけです。あくまで...性奴隷として」と話した。
「...そうだな。でもな。俺嬉しいよ」
「...何がですか?」
「お前が...居る事が」
「...私が居る事で?」
「そうだ。俺には全く親族が居ないと思っていたから」
爺ちゃんも婆ちゃんもそうだが。
みんな死んでしまったり疎遠になったりした。
だからこそこうして血が半分でも繋がっている人が居る。
それは大きな支えだった。
「...俺は浮気された。...だけどこうして希望が見えた。...それだけでも幸運だったなって思う」
「...」
「俺はお前に生きてほしい。この先も」
「...ですね」
明那さんは顔をほころばせた。
それから俺を見てくる。
俺はその姿を見ながら「この先。助け合って生きていこう」と言う。
すると明那さんは頷いてくれた。
「...そう言えば私の年齢を言ってませんでしたね」
「そうだな。君何歳だ?」
「...私は15歳です。...高校1年生ですよ。お兄さん」
「お兄ちゃんは止めてくれ。俺なんか...お兄ちゃんにも値しない」
「それはあくまで自分自身がそう思っているだけです。値します」
「私はお兄さんの頑張りをずっと見守っていましたから」と言いながら笑みを浮かべる明那さん。
俺は頬を掻く。
むず痒いものだな。
そんな事を考えながら俺は明那さんを見る。
「...お兄さんに聞きたいです」
「...だからお兄さんは止めてほしい」
「いえ。お兄さんです。...私にとっては。...それでそれは置いておいて私の事ですが」
「...うん」
「...私、将来、幸せになりたいんです。...結婚もしたい。中古品でも幸せになれますかね?」
「俺は明那さんを応援している。...だから幸せになるよ。中古品じゃない。それは...犯罪行為で中古品になったんだ。中古品って言い方をしないでほしい」
「...やっぱり良い人ですね。お兄さんは」
「だからそのお兄さんは止めろ」と言いながら俺は苦笑する。
それから明那さんを見る。
彼女の笑顔を初めて見た気がしたが。
笑顔になっている。
「...お兄さんはこれからどう生きるんですか」
「俺を好きだと言ってくれている女子が居る」
「...そうなんですね?」
「そうだな。俺は何等かの形で彼女に答えれる様な。そんな大人になりたい」
「...お兄ちゃんなら可能です」
「...あのね...」
「私はお兄ちゃんだろうがお兄さんだろうが。...洋二さんを兄として見ています。それも頼りがいのある兄として、です」
俺は赤面しながら彼女を見る。
すると彼女は柔和な顔をしながら「そういえばお兄さん。...渡したいものがあるんですけど」と言ってくる。
その言葉に「?」を浮かべた。
「これ。映画館のチケットです」
「...うん。で?俺と君で観に行くの?」
「そんな訳無いでしょう。彼氏彼女じゃ無いんですから。...誘ったらどうですか。その女性を」
「...でもそれデートじゃ?」
「いや。デートですよ?何を言っているんですか?これラブロマンスですし」
無茶苦茶すぎる。
思いながら俺は「いやいや。待て待て。俺は彼女とは...」と良い淀む。
そもそも先ず俺は...デートをする気分にならない。
すると明那さんは「どっちでも良いですよ。...とにかく誘ってみるべしです」と柔和になって言葉を発した。
「しかし...」
「お兄さん。しっかりして下さい。...今逃したら...その子もしかしたら悲しむかもですよ?」
「ああ。まあ泣かせたくはないな」
「そうでしょう?だったら良いじゃないですか。たまには」
「...まあそうだな。じゃあ今度誘って...」
「今ここで電話して下さい」
「...鬼神かな?」
何で今ここで電話しなくちゃいけない。
そう思いながら「連絡先を知らない」と言うが。
「そんなの嘘っぱちですよ」とニコニコする。
「知らない訳が無いでしょう」とも。
「...分かった。電話する」
「そうですね。しっかりして下さい。お兄さん」
「...全く。鬼かな?」
「鬼でも何でも良いですよ。私は誰よりも貴方の幸せを願っています」
「...」
俺は携帯電話で電話を掛ける。
すると3秒も経たずして電話が通じた。
『はい。洋二さん』と言いながらだ。
俺は赤くなって頬を掻く。
「...なあ。双海。今度一緒に...その。映画観に行...」
『予定空けます。友人との買い物がありましたけど』
「...いやあの」
『だって洋二さんの誘いです。断りません』
「...」
まだその色々と言ってない。
思いながら目の前の明那さんを見る。
明那さんは俺を見てからクスクス笑っていた。
その姿に赤くなりながら双海に「今度の土曜日だ。丁度...試験が終わってからの」と言う。
すると双海は『何時ですか?何処ですか?服装は?』と次々に聞いてくる。
いや服装って。
『楽しみです!』
「そんなに楽しみか?映画館に行くだけで」
『それはそうでしょう。だって洋二さんと一緒なら。何処だって楽しみです』
「...」
俺はその言葉に考え込む。
そして「...有難う」と伝えた。
すると双海は『何もしてないです。ただ楽しみにしているだけです』と笑顔な感じで声を弾ませる。
そんな言葉に俺は柔和になった。
「じゃあまた明日な」
『はい。洋二さん。また明日』
「...」
そんな言葉のやり取りに明那さんがずっと見守っていた。
それも母親が子供を見守る様な感じでだ。
恥ずかしいけど。
何かが得られたような気がした。
俺は...初めて。
良かったなと思った。
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