第9話 いつしか見た夢
☆
許嫁と別れた。
それから俺達は普通の幼馴染に戻ったが。
正直に言って俺は暫くアイツと会話したくないと思う。
だって相当に人に迷惑をかけている。
もう俺は何も信じられない。
「...」
家に帰って来てから窓を開けた。
幸いにも雨は引いた。
だから空気を入れ替えたかったのだ。
思いながら俺は夕暮れの空を見上げながら口ずさむ。
母親に教えてもらったカノンを。
そうしてから夕暮れの空を見上げているとドアがノックされた。
俺は「?」を浮かべて「新聞屋?」と呟きながらドアを開ける。
するとその場に隣に住んでいる少女が立っていた。
隣の部屋の須藤明那(すどうあきな)さん。
「ああ。明那さん。どうしたの?」
「実は実家の方からじゃがいもが沢山送られて来まして。お裾分けで...」
丸メガネのポニテ少女。
顔立ちは若干幼いが美少女だと思う。
俺的には。
だけどあまり関わりが無いのだが珍しい。
思いながらじゃがいもを受け取る。
ビニールに入ったじゃがいもを。
「有難う。明那さん」
「はい。...大変そうな日々を過ごしてらっしゃいますしね。瀬戸内さん」
「俺は大変だけども今の日々が楽しいよ。実際ね。まあ本当に不幸だけど」
「そうなんですね」
明那さんは一定の事情は知っている。
何故かと言われたらまあ...大々的に殺人事件が報道されたしな。
父親が母親を殺した事。
「...正直、私じゃ何の助けにもなりませんが。何かしらあったら言って下さい」
「...有難う。だけど明那さんは...俺とはあまり関係が無いから。大丈夫。迷惑をかけるつもりは無いから」
「...実はその事もあって来たとも言えます」
「え?」
「実は私、貴方。つまり瀬戸内さんと半分だけ血が繋がっているかもしれません」と告白...は?
俺は驚愕しながら明那さんを見る。
明那さんは「私ですね。実は...隠し子だと分かりました」と言われた。
「お父さんを探していたら芋蔓式に、ですが」
「...確かにあの人ならやりかねないけど。まさか。そんな馬鹿な事が」
「偶然にも程がありますよね。お母さんに聞いたんですけど」
あからさまな屑だわ。
そう思いながら俺は沈黙する。
隣人が半分血が繋がっているなんてな。
だけど今言われたら確かにそうは思う様な気がした。
何故かって?
彼女に初めて会った時。
同じ香りがしたから。
「私は...今も昔も瀬戸内さんから同じ香りがしました」
「...」
「初めは瀬戸内さんに何らかの事情があるだろうなって思いました。だけど次第に「成程」と納得しました」
「...明那さんはこの事実をどう思う?」
「...私は相当に悩みました。でも瀬戸内さんという人が私の家族だった。血が繋がっている。これは喜ばしい事だと思いました」
俺はその言葉に「!」となる。
それから明那さんを見る。
明那さんは俺を見ながら口を開く。
「瀬戸内さんにはご家族がいらっしゃらないんですよね。だから私は良かったと思います」
と言いながらだ。
俺はその言葉に明那さんを見る。
まあ確かにな。
まさかこんな形で親族が増えると思わなかった。
「瀬戸内さん。私は瀬戸内さんを応援します。普通の隣人で普通の瀬戸内さんを応援します」
「...有難うな。明那さん。これから宜しくな。でもこうなったからといって何も変わらないままでいこう」
「はい」
明那さんを見ながら俺は柔和になる。
それから笑みを浮かべていると明那さんが周りを見渡してヒソヒソ声で聞いてきた。
「あの。瀬戸内さん。噂ですけど瀬戸内さんの許嫁の方が浮気を?」
「...それは事実だな。許嫁関係は破産した」
「そうなんですね...」
「だけど幼馴染関係は続くよ。にしてもよく知ってるね」
「...そうですね。他学年ですけど噂は入って来ますよ。女子達は...怖いですね」
俺はその言葉に考え込む。
それから明那さんを見てみる。
明那さんは「分かりました」と切り出した。
それから柔和になる。
「私はこれからは瀬戸内さんの味方ですから。何かしらあったら頼って下さい」
「君はとても良い子だね。明那さん」
「私の家も破綻していますからね。だから良い子を偽っているだけですよ」
「...やはりか」
「母親の再婚相手から性暴力。これはさだめですかね」と聞いてくる。
俺はその言葉に沈黙した。
「私は絶対にあの人を許せません。だけど殺すのは良く無いです。負けです」と話した。
言葉に俺は目線を横にした。
「君は強いな」
「私は強い訳じゃないです。ただ悪い事、悪くない事の区別がつくだけです」
「...そうか」
「私は何の為に生きているのかはっきりさせたいです」
「...」
俺は部屋を見る。
それから「少し話さないか」と声を掛ける。
すると彼女は「...いいんですか?」と遠慮がちに聞いてくる。
俺は頷きながら「ああ」と返事をした。
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