第8話 蔑視
☆
私が...大切な人を裏切ったのか?
そんな馬鹿な。
私は誰よりも洋二を大切にしている。
大切に思っている。
だからこそそれはありえない筈だ。
そんな事を思いながら私は大雨の中。
涙を流しながら雨に濡れつつ歩いて帰宅していた。
それから私はそのまま自宅まで帰り着く。
すると厳しい顔のお父さんが出て来た。
「...お風呂に入ったら来なさい」
「...待って。お父さん。私は...」
「言い訳は無用だ。お前は何をしたか知っているのか。私の顔にこれ以上泥を塗るな」
「...」
私は言われるがままにお風呂に入ってからそのまま着替えて客間に行く。
するとその場所にお父さんと洋二と双海が居た。
その顔を見ながら私は考える。
(もう終わりか)という感じで、だ。
それから私は椅子に腰掛ける。
「お前はなんて事をしたんだ。海」
「...ごめんなさい」
「...洋二くんを裏切って楽しいのか」
「...ごめんなさい。そういうつもりじゃ無かった」
「ならどういうつもりだ。婚約破棄をせざるを得ないぞ」
「...私は...甘かった」
そう言いながら私は「...嘘ばかり吐いてた」と告白する。
それから顔を覆って号泣する。
「私が悪かった」と言いながら、だ。
洋二が私に向いてくる。
「...もう婚約破棄で良いな?お前とは」
「...イヤ...」
「いつまでも我が儘が通じると思うな。お前」
「洋二。...わ、私は...」
「どうあれ俺はお前を許さない」
洋二はそこまで言ってから私を怒った顔で見てくる。
私はその言葉にまた号泣した。
すると双海が「これでも信じていたんだから」と言い出す。
それから私を見てくる。
「何でこんな真似をしたのお姉ちゃん。今ならゆっくり説明できるよね」
「...簡単に言えば浅はかだった。他の人からもまだ愛が欲しかった。注目をされたかったんだと...思う」
「...」
「...だから私は浮気した。...というか浮気という認識が無い」
「...最低だね。甘いし。全てが甘すぎる」
双海はこれでもかという感じで蔑視の目を向けてくる。
終わった。
私にはもう何も残されていない。
そう思いながらお父さんを見てみる。
お父さんは「...暫く頭を冷やしなさい。...お前の件はまた考える」と言う。
「...お姉ちゃん。私は出会った時に貴方に憧れていた」
「...」
「...絵を得意としているその生きざまに憧れていた」
「...」
「...何でこんな真似を」
言いながら双海は唇を噛む。
それから眉を顰めた。
私はその顔を見ながら「私は...もう何も言い訳はしないけど。絵を描いて有名になる事で...私自身が疲れてきていた。それで浮気したってのもある」と説明する。
今となってはもう無理だけど。
「...それは情けをかけられるものじゃないね」
「...そうだね」
「...だってそれをするんだったら洋二さんに相談するべきだった」
「家族にもね」
「そう」
そして双海は苛立つ様に拳を握る。
私はその姿を見ながら「...暫く席を外します」と二階に上がろうとする。
するとお父さんが「後で降りて来なさい」と厳しい目で見てくる。
そんな姿に私は「はい」と返事をした。
「...」
私はヨロヨロとなりながらそのままその場から立ち去る。
それから二階に上がってから号泣した。
馬鹿な事をした気がする。
私は本当に愚かだなって...そう思った。
☆
結局、お姉ちゃんと洋二さんは結論から言って婚約破棄した。
お姉ちゃんと洋二さんは幼馴染の関係に戻る。
そして玄関に来た私達。
だけど洋二さんは暫くお姉ちゃんとは会話したくないと言った。
私はその意思を尊重する。
「...じゃあ帰る」
「...また来てね。洋二さん」
「...お前に任せて良いのかな。アイツの事」
「任せるも何も。お姉ちゃんは私の家族だから」
「...そうだけどさ」
「...大丈夫だよ。洋二さん」
私はそう言いながら洋二さんに向く。
それから目線を逸らした。
「例えどうあっても私の家族だから」と言いながらだ。
その言葉に洋二さんは無言になったまま同じ様に横を見る。
そこに少しだけ大きな水槽がある。
金魚が寄り添っていた。
私はその姿を見てから洋二さんを見る。
洋二さんは「...お前も理解したのか」と聞いてくる。
私はその言葉に「...まあ多少はですね」と言いながら肩を竦める。
「...だけど私はお姉ちゃんを決して許しません。洋二さんを裏切った罪は大きいですから」
「...そうだな。まあ確かにな」
「...洋二さん。私、これからどうお姉ちゃんに接したら良いと思います?」
「お前が無理せずに接したらいい。...それなりにアイツに」
そう言われた。
私はその言葉に「そうですね。ほどほどに家族として接します」と言いながら私は洋二さんの手を握る。
そして見つめる。
「有難う御座いました」
「...今日は大変だったな」
「洋二さんに比べたらさほどでもないです」
「...」
洋二さんは鞄を背負った。
それから「じゃあ。また来るから」と踵を返す。
私は「はい」と言いながら洋二さんを見送る。
外は傘を差さないといけないぐらい大雨だった。
「洋二さん。気を付けて」
「...ああ。じゃあな」
「...私のお姉ちゃんの事。考えてくれて有難う御座います」
「...それはそうだろう。海と双海とは...家族の様な絆があるから」
「...本当に相変わらずですね。...洋二さんは」
「...」
何度も引き留めたがやはり帰る様だ。
洋二さんはだ。
そう思いながらそのまま行ってしまう洋二さんを私は見ていた。
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