第5話 お菓子


あまり良い気分では無い。

そもそも良い気分とは何なのかが分からなくなってきている。

俺は許嫁に浮気されている。

それはつまり破滅を意味する。

どうしたものか、と思いながら俺は窓から外を見た。


「よお」

「...ああ。正樹か」

「洋二。どうしたんだ?顔色悪そうだぞ」

「...」

「...何か悩み事があるなら聞くが」


夜見山正樹(よみやままさき)。

黒の短髪に若干チャラい性格の男。

俺の事情を知っている数少ない友人だ。

そして俺の置かれた状況も知っている高校生になって初めて出来た男の友人。

俺はそんな正樹の顔を見る。


「...ちょっと外に出ないか」

「ああ。お前が行くなら」

「...そこで話したい」

「...そうか」


そして俺達は屋上にやって来た。

それから鉄格子の向こうを見つめる様な。

まるで鳥かごの中から羽ばたけない鳥の様に空を見る。

正樹が「良い天気だな」と言う。

それから精一杯息を吸い込む正樹を見る。


「...それで話ってのは深刻な話か」

「...深刻だな。許嫁が浮気している」

「...深刻だな。...それで?」

「その義妹が俺に接して来ている」

「...それは歪だな。どうしたものかね」


そう言いながら正樹は空を見上げたまま溜息を吐く。

俺はその姿を見ながら手すりに手を添える。

それから外を眺めた。

車が走っている。

そして人がランニングしている。


「...洋二。俺としては婚約解消が必要だって思う。お前が...甘すぎる部分があるけど今回はそうはいかないだろ」

「...そうだな。やっぱりそう思うよな」

「...お前が面倒でなければ早めに手を打つべきだ。金とかそんなもんどうでも良い感じでな。ネチネチ粘着していたらヤバいぞ」

「...」

「そいで。義妹さんは何で接して来ているんだ?」

「まあ色々な」


そう言いながら俺は手すりを撫でる。

正樹はシガレット。

ココ○シガレットを取り出して食う。

俺も1本貰った。

タバコ吸う気分だなぁ。


「良いよなこれ。未成年も食えるしな」

「お前本当アホみたいにココアシガ〇ット好きだよな」

「ああ。俺は最高にこれ好きだぞ。だって現実を捨てられる」

「お前、本物のたばことかして無いよな?」

「する訳ねぇだろ。お前。補導されるわ」


そんな会話をしながら俺はクスクスと笑う。

それからココ○シガレットをバリバリ食いながら空を見上げる。

「困ったもんだよな」と呟きながら。

すると正樹がバリバリ食うのを止めてから俺を見た。


「婚約解消をして。...それでお前はくっ付いたらどうだ。義妹さんと」

「...無理だな。そんな根性以前に...」

「確かにお前の状態は知っているがよ。...だからどうした?お前を愛おしいと見てきてくれている女子を放置か?」

「何でそれが分かるんだよ」

「そりゃそうだろ。義妹さんの想いつったらそれしかない」

「...お前という奴は。...だけど良い奴だな」


「俺は良い奴じゃ無いぞ。ただお前の家が...悲惨すぎるだけだ」と言いながら正樹は5本目のココアシ〇レットを食べてしまう。

食いすぎだろ。

俺は苦笑いで正樹を見る。

そして俺は口に咥えていたお菓子を食べる。


「正樹ならどうする」

「俺だったらまあ...それなりにする」

「...変態かな?」

「まあ言うて俺も童貞だけどな」

「...お前モテそうなのにな」

「まあチャラいっちゃチャラいけど俺はモテんよ」


言いながら苦笑する正樹。

それから箱を潰した。

そして「だけどどうあった童貞であれ動く時は動くさ」と俺に手を広げる。

そうしてから「チャイム鳴るし戻るぞ。洋二。後でまた手伝うから」と言い出した。


「...そうだな。期待しているぜ相棒」

「ああ。じゃあ戻るか」


それから俺達はそのまま教室に戻る。

そして次の時間の授業を受けてからトイレに向かう為に席を立つ。

そうしてからトイレに行った時。

「洋二さん」と声がした。


「...双海?」

「はい。貴方の天使の双海です」

「そ、そうか。...どうした?」

「お弁当作りました。食べて下さい」

「え?...あ、ああ」

「お姉ちゃんは作って無いです。何故なら今日は部活なので」


(それすらも把握しているのか)と思いながら俺は双海を見る。

すると双海は「それも把握してますよ。だって私はお姉ちゃんに配慮していますしね。これでも」と薄ら笑いを浮かべる。

俺は(聞いてないのに)とその姿にゾクッとしながら聞いてみた。


「お前もしかして海と話したのか」


という感じでだ。

すると双海は「そりゃ姉妹ですしね。お話の1つや2つくらいは。だけどそんなに話せませんね。昔みたいには」と言う。

俺はその姿に「...そうか」と返事をする。

それから俺はトイレに行ってから出て来る。

すると待っていた双海が


「あ、そうそう。洋二さん。一緒にご飯食べませんか?」


と言ってきた。

俺はその言葉に考えた。

それから悩んだ。

イヤな汗じゃないが汗が噴き出した。

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