衣食住の住だから何?

メラミ

***

 ジュンとハツはテレビをつけながら食事をしている。

 休日の朝は少し遅めである。

 コーヒーをお供に食パンを齧りながらゆっくり朝食を摂っている。

 テレビを見ながら思わずある言葉を口にする。


「そろそろ引っ越そうか」


 ジュンはハツに声をかけた。


「え? まだ半年しか経ってないよ、ここ」


 テレビ内のリフォーム番組を見ながら呟いた彼の一言にハツは言葉を寄せる。


「そうなんだけど、もう少しいい所ないかなって思って……。勤務先に近い所も含めて色々……」

「そっか。あたしはジュンについて行くよ」


 ふたりの新居探しは何気ない会話から始まった。


 後日、ジュンとハツは不動産屋に行き、モデルルームを紹介してもらった。

 ジュンは不動産屋に一つお願いをする。


「あの……ふたりだけで見に行ってもいいですか?」

「いいですよ。鍵をお渡しするので、見終わったらまた連絡をお願いいたします」

「はい。ありがとうございます」


 住宅の内見が終わったらまた鍵を返しに戻ってくればいい。セルフ内見という話である。

 車を持っていなかったジュンはハツと電車を乗り継いでモデルルームにたどり着いた。鍵を開けて中へと入る。モデルルームは二階建ての3LDK。上の階に一部屋あって吹き抜けの天井に風通しの良さそうな家だった。床はフローリングだけど床暖房の設備もあって冬場は暖かそうだ。収納もバッチリあり庭に自分の背丈ほどの小さい倉庫も付いている。自分の子供ができたら三輪車とかがしまえそうなスペースだ。


「マイホーム……いいね」

「……そうだね」


 ハツはなにか思い詰めた顔をして頷いた。


「ハツ、どうしたの?」

「ジュンは今の生活に満足してないの?」

「どうしたんだよ急に。そういう訳じゃないけど……」


 衣食住の住は大切なことなんだよ、と心の中では思ったが言わなかった。

 仕事が忙しくてハツに家のことを任せっきりなのは正直申し訳ないと思っている。ハツはもしかしたら、将来のことを考えて言っているのか?


「この家に住めたらいいよね。庭も広いし、子供ができたら庭で遊ばせてあげることもできそう。ううん、それだけじゃない。家の中も空気が綺麗で、上の廊下からキッチンの様子も眺められるし……じゃなくて――」


 ハツはジュンの顔を眺めながら涙目になっていた。なんでそんなに悲しくて辛い気持ちになるのかわからなかった。


「ハツ……俺頑張るから。お前を幸せにしてあげるから。泣くなよ……」

「……ごめん」


 ジュンはハツを抱きしめた。西陽の入るリビングの柔らかな日差しがふたりを照らしていた。

 モデルルームの内見をしていたら現状に満足できない気持ちと先の見えない将来の不安で押し潰されそうになっていた。

 お互いまだまだ若いんだから悩めるのは若い証拠かもしれない。

 間取りのサイズとかをメジャーで測っていくのを忘れそうになって、ハツはメジャーをジュンに渡した。ここにどんな家具を置こうか。そう考える楽しみだってある。

 モデルルームを施錠してジュンは不動産屋に連絡を入れた。

 暗くなる前に鍵を返しにいかなくちゃ。


 不動産屋で鍵を返した後、帰宅の途に就く。

 晩御飯の準備をしているハツにジュンはこう約束した。


「お金貯めて、将来絶対マイホームに住もうね」

「その前に車じゃないの?」

「両方……です!」

「ふふっ、あたしも色々頑張る。約束だよ」


 ハツはそう言って微笑んでくれた。

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衣食住の住だから何? メラミ @nyk-norose-nolife

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