第6話  局外中立撤廃

「困ったよっ、大鳥君、松平君、永井君、大変なことになっちゃいました。」

「榎本さん、どうしたんだよ。」

「列強国が局外中立を撤廃しちゃった、さっきイギリス商船の艦長が教えてくれたんだ。」

「榎本さん、局外中立ってなんなのよ。」

「大鳥君、あんた局外中立も知らないの?信じられんわ。局外中立っていうのは簡単に言うと、列強国は新政府にも蝦夷共和国にも武器等は売らない。ということなんだよね。それを撤廃すると言うことは列強国は新政府には武器でも何でも売るけど蝦夷共和国には何一つ売ってくれないと言うこと、つまり列強国は今度の新政府との戦、新政府に味方して勝利させると決めたんだよねー。困ったなー。」

「えーっ、榎本さん困ったどころじゃないですよっ。あんたが、美香保丸・咸臨丸・開陽・神速丸を沈没させたんですよっ!この船にはたくさんの武器弾薬を積んでいたでしょうがっ。ホント、海軍はダメだよ。」

「大鳥君、何を言ってんのさ。土方さんにも散々言われてのにその上大鳥君にまで言われたんじゃぁやってられないよなー。」

「どうすんのさー。まだ、土方君はこのこと知らないんでしょう。」

「当り前ですよ言える訳がないでしょう。土方君の前で大見え斬ったじゃないですか。」

「榎本さん、あんたの悪いところですよ。確信もないのに大丈夫、大丈夫って言いきっていましたからねー、私は内心軽率だなーって思っていたんですよね。」

「僕も同じ事、思っていたんだよね。それより薩長と戦出来るの?出来ないでしょう、出来る訳ないよねー。」

「榎本さん、あんたが土方さんに言いなさいよ。今呼んでくるから覚悟決めておきなさいよ。」

「チョットあんた達、薄情じゃないの僕達は異体同心だって永井さん言ってたよね、一生ついていくって言ってたよねっ大鳥ちゃん、松平君は何だったっけ・・・」

「いや、今回のことに関しては榎本さん、腹くくってくれないと困るんだよねー松平君・大鳥君、そう思うだろう。」

「おっしゃる通り。土方さん呼んできますね。」


大鳥は走って部屋を出て行った。何だか楽しそうに見えた。


「榎本っ、何なんだっ今武器弾薬・大砲の残数をみんなで調べているところなんだぞっ、おめぇらはしょうもない話ばっかりして何にもしてねえが、俺達はやることが山ほどあんだよっ。全部チャラ男てめぇのセイだってわかってんのかっ。あーっねぶん殴りてぃなー、武器弾薬まるで数が足りねぇんだよっ!。おいチャラ男こないだ言っていた外国から買い入れるって話もう発注してくれたんだろうな。発注した明細見せてくれねぇか。」

「榎本さん、永井さんと松平君と大事な打ち合わせがあるので私達は失礼しちゃおうかなー。」

「チャラ吉っ馬鹿かおめぇは、お飾りでも陸軍奉行だろうが。喋んなくていいそこに居ろ。おれと榎本を二人きりにするんじゃねぇ。こいつと居ると無性に腹が立ってくるんだ、だからお前達居ろ。」

「エーっ、困ったなー。」

「いいから居ろ、榎本話って何ださっさと言えよ。腹立ってしょうがねぇ。」

「土方さん実はですねぇ、あのー、永井さん、代わりに言ってくれませんかー。」

「榎本さん、何のことか私全く知りませんもん、言いようがありませんでしょうが。」

「チャラ男っ、グダラ・グダラ言ってんじゃねぇぞっ、さっさといえっつうの。」

「実はですねぇ、武器一切買えなくなっちゃたんです。何にも買えなくなっちゃいました。申し訳ありませんっ。」

「今、何て言った、もう一遍言ってみろよ。」

「恐れ多くてもう一回なんて言えるわけありませんよー。」

「チャラ男っ、お前皆の前でなんて言った❔!  安心して下さいとか大船に乗った気分で待っていて下さいとか、しょうもないダジャレ言って一人で笑っていたよなっ。チャラ吉どういうことなんだっ。」

「知りません、知りません、初めて聞いてびっくりしているんですから。榎本さん、どうするつもりですか、あんた役立たずですよまったく。ねぇ土方さん。」

「ストーン・ウォール号はもう買ったんだよなっ。」

「言え、新政府軍に取られちゃいました。私もびっくりしているんですから。」

「おいこらっ、チャラ男、切腹しろ介錯は大鳥お前がやれっ。」

「土方さん、チャラ男っていうのやめてくれってお願いしていたじゃないですか、まったく、傷つくよなー。」

「チャラ男、兎に角、腹斬ってくれっ。大鳥、準備しろってばっ。」

「土方さん、チャラ男でも何でもいいです。腹切りだけは許して頂けませんかー後生ですからー。」

「いいや榎本さん貴方は総裁です。総裁が腹斬らんでは示しがつきません。どうぞ、すっぱり掻っ捌いて下さい。ところで大鳥君あんた首切ったことあるの?」

「ある訳ないでしょう、上手く切れるかすんごく心配なんだよね。」

「土方さん、何でも言うこと聞きますから許して下さい。」

「大鳥、松平、チャラ男をしばらく牢屋に入れておけ。誰かに聞かれたら「逃亡しようとしたんで牢屋に入れる」って言っておけ。皆納得するだろうょ。」

「土方さん、何で総裁の私が牢屋に入らなくちゃいけないのよー、おいっ

大鳥っ、松平っ、永井っ、絶対許さないからねっ、あの計画にも参加しなくていいから馬ー鹿、馬ー鹿。土方さーん、許して、許して下さいよー。土方さん、牢屋に入れるのやめて頂けませんか。格好悪すぎますよ。土方様、仏様、あっ、そうだっ!土方様、総裁になりませんか、総裁はあなたがするべきだと私は皆に言っていたのに彼等は土方だけはぜったい嫌だって言うんで仕方なく私がなっただけなんですよ。総裁になって下さいよー。土方様。」

「チャラ男、これ以上喋ったら俺が殺してやる。大鳥、早く牢屋にぶち込んで来い。」

「了解しました。罪人榎本行くぞ。」

「大鳥、覚えておけよ。」

榎本は大鳥と永井が引きづって牢屋にぶち込んだ。

「罪人榎本っ、静かにしてるんだぞ分かったなっる」

榎本の顔色が真っ白になった。牢屋に入れられることではなく「逃亡」の言葉に震えあがった。大鳥も松平も永井も顔面蒼白だった。「土方にばれてんじゃないのか」みんなそう思った。土方は本当に恐ろしいと改めて思った。


榎本は牢屋でそれなりに過ごしていた。ある意味楽しそうにやっている。反省すると言うことが欠乏しているとしか言いようがない男だ。榎本が牢屋に入って三日後,榎本に面会したいと言う外人がやって来た。


「榎本さん、プロイセン人で箱館領事館の副領事をやっているガルトネル兄弟が榎本さんと話しがしたいんだって。」

「ガルトネル?だれだろう。風呂にも入ってないしこんな汚い恰好じゃ恥ずかしいよ。少し待っててもらって。」

「お待たせしました。私が榎本です。」

「私達はプロイセン人です。こっちが兄です。兄は、七重村で三万坪の近代的農場を経営したいと言っているんです。だから九十九年間土地を貸してください。よろしくお願いしますよ。」


そこに土方が入ってきた。


「貸すのはいいが俺達に得はあるのか。」

「土方さん私のお客さんなんですよ、横から出しゃばらないで下さいよ。」

「チャラ男、お前は黙っていろ。」

「ミスター土方、貴方達は局外中立を撤廃されて困っていませんか、私達は力になれると思うんですが。」

「そうだなぁ、小銃五千丁と弾薬二十万発、大砲十門、砲弾二百発、それに最新鋭軍艦が欲しい。どうだ。」

「軍艦は無理ですが其れ以外はOKです。」

「ヨシッ決まった。何時届けてくれる。」

「二十日後には、ただ諸外国の船に気が付かれると私達は箱館に居られなくなります。深夜に弁天砲台にお届けします。運ぶの手伝ってもらえますか。」

「お安い御用だ。二十日後に契約するよ。」

「ミスター土方、貴方は魅力的な人です。榎本さんは色々面倒臭い人だと聞いていたんですよ。ある人はミスター土方は「竹を割ったような人」で榎本さんは「餅をついたような人」だと言ってました。兄さん、土方さんでよかったね。」


二人は上機嫌で帰って行った。


「榎本、首つながったな。もう牢屋に行かんでいいぞ。だか許しちゃいねぇからな。今後一切、戦のことに口出しは許さねぇ。いいな。」


土方は部屋を出て行った。


「榎本さん、良かったです。本気で心配してたんですよ。ねぇ松平君、永井さん。」

「私は貴方達とは今後一切口を利きません。牢屋の中で一生懸命考えたんだよね。貴方達を「掌カエル」と呼ぶことにしようってね。私は「餅をついたような男」なんだそうですよ。こないだのことは死んでも忘れませんから。」

「それより五稜郭脱出作戦どうします、土方さんにばれたのと違いますか?」

「そこなんだよねー。あの時は心臓泊まりそうだったよ、私一人なら目立たないだろうから一人で脱出することに決めたんだ牢屋で考える時間は沢山有ったからねー掌カエル君。」

「榎本さん、連れてって。」


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