第5話  榎本評判悪すぎ・土方と任侠の親分


「榎本っ、お前何勝手にやってんだっ‼。」

「あーっ、びっくりした、土方さん大声出して何なんですか、私が何をしたっていうんですか。」

「お前、、箱館市中にいろんな税金課しているだろう、通行税や娑婆代、女郎に対しても税金取ってるっていうじゃねぇか、他にもあるんだろう。そのうえ勝手に私鋳金とかいう銭作って「これを使え」って言ってんだろうがっ。すぐやろるんだっ。」

「土方さん皆も納得してくれましたよ。大鳥君・永井さん・松平君・荒井君・会計型の榎本君、榎本君なんか「これで財政が潤う」と言ってくれたんですよ。」

「やいっ、榎本、俺は聞いてねぇぞっ。」

「土方さんは居なかったから多数決で決めたんです。仮に土方さんが反対だったとしても他の皆さんは賛成だったので決めたんですよ。」

「榎本、お前の仲間ばっかりで多数決取ったって全員賛成すんだろうが、馬鹿ばっかり揃って何やってやがるんだっ ! ! チャラ男てめぇは自分のことを天才だと言いふらしているようだが「小賢しいだけ」の男なんだよ。箱館市中を敵に回すようなことしてどうすんだ、馬鹿野郎。」

「土方さん、バカバカって失礼じゃないですか。私だって真剣にやってるんですよ。頭に来ちゃいますよ。兵隊さん達に給与も払えないんですよ。私が悪者になっちゃいますよ。損なの絶対嫌ですからね。」」

「おいっチャラ男、軍資金は美香保丸に積んでたんじゃねぇのか。おめぇがへまして美香保丸を沈没させたんで何とかしなきゃならねぇと馬鹿が集まって毎日こそこそやってこのザマだ。すぐに辞めさせろ、十日以内に辞めて居なかったら新撰組はこの戦から抜ける。いいなっ、十日以内だぞっ、この馬鹿たれがっ!。」

「土方さん、お金どうするんですかー、もう残り僅かなんですよーる」

「チャラ男っ、てめぇ達脳なし連中で毎晩のように武蔵楼通いしてやがるから

こうなってんだっ、金はおめぇら仲良しグループでかき集めろっ。十日以内にだっ、

造れなかったら新撰組は抜ける、新撰組が抜けたら他の隊も続々抜けるぞっ。」


榎本の部屋に腰巾着達が緊急招集掛けられた。

「皆さん、土方さんが敢えて居なかった時に決めた税金と私鋳物金を十日以内に辞めろって言って来たんですよ。」

「榎本さん、なにも土方の言うこと聞く必要ないじゃないですか。無視、無視、無視したらいいんですよ。馬鹿馬鹿しい。」

「大鳥君、もし実行しなければ新撰組はこの戦から降りるって脅すんですよ。勘弁してほしいなー。」

「榎本さん、辞めたければ辞めてもらいましょう、私がいるから何も問題ないっしょ。」

「大鳥さんっ、駄目、駄目問題だらけでしょうが。不負しょんぐんなんだから、それに誰も付いてこないっしょ、ホントわかんない人だなー。」

「松平君の言うとおり、大鳥君に何が出来るのさ。」

「大鳥君、あんた全然懲りてないんですね。」

「困りました、大鳥君は使い物にならないし、財政はひっ迫しているし、土方君がいなければ戦出来ないでしょう。本当にこまっちゃいました。」

「榎本さん、土方君の言う通りにしましょう。その代わり豪商達から五万両調達しましょう。榎本さん、貴方が豪商回りして下さいねっ総裁なんだから当然あんたがやるべきですっ。」」

「榎本対馬君、こないだ徴収したばっかりだよ。あの時だって散々嫌味言われたんだよねー。」

「榎本さん、必ず五万両取って来て下さいよっ。出来なかったら私達は土方さん側に着きますからねっ。」


最近の土方はいつも同じ飯屋に行っている。

新撰組隊長の森常吉が、あの店に何かあるんですかと聞いたことがあった。


「森ちゃん、めっちゃ面白い爺さんが良く出入りしてんだょ、それで顔見知りになったんだがびっくりしたよ。蝦夷で一番でっけえヤクザの親分なんだ。子分が五百人以上いるんだってよ。今日も待ち合わせしてるんだが森ちゃん付いてくるかい。」

「土方副長、連れてってください。市中見回りの時、情報貰えるかもしれませんしね。」

「じゃぁ、今から行こうや。」


土方と森は異国橋近くの飯屋に入った。


「歳さんっ、こっち、こっち。」

「爺さん、すまねぇ遅れちまった。」

「俺も今着いたところだ、歳さんに会いたい、会いたいっていうんで棟梁と和尚を連れて来た。

「大岡助右衛門と言って大工の棟梁をやってんだ。今、箱館病院を造ってんだよ。よろしく頼んまさぁ。熊吉、会えてうれしいなぁ。」

「私は自称寺の住職で日隆と申す。よろしくお付き合い下さい。」

「私は新撰組隊長で守常吉です。キョウハ同席させて頂きます。」

「爺さん、今日は何を聞かせてくれるんだ。」

「今日は、歳さんにも関係ある話をしようと思ってんだ。」

「面白そうだな、早く始めようや爺さん。」

「話ってのは、会津で任侠やっている俺の弟分が俺のとこにひょっこりやって来たんだ。会津の小鉄っていう奴で俺とおんなじ新門辰五郎の子分だったんだ。その子鉄が会津戦争の話をしだしたんだ。箱館も薩長と戦になるって聞いたんで兎に角、親分に話しときゃなんねえってことでやって来たんだよ。子鉄が言うには薩長は悪魔だって言いだし始めたんだよ。戦だから死人は出るよなぁ、会津の人が会津藩の兵隊さんで死んだ人を弔おうとしたんだとよ。」

「そりゃぁ、当然ですなぁ。死んだら敵も味方もないんですから。」

「そうだろぅ、ところが薩長が言うには、会津兵及び会津藩に味方した兵隊を弔う者は斬首するって言い出しやがったんだと。実際ボコボコにされた老人を見たと言っていたよ。屍は野良犬に食い荒らされたってさ。」

「土方さん、あんたは会津で戦やったんでしたよね。薩長はそんな惨たらしいこと本当にやったんですか。」

「棟梁、和尚さん本当だ。野良犬に食われている死体を見て薩長は大笑いしていた。死体に蓆を掛けた子供は背中を一突きされたって話だ。」

「爺さん、棟梁、和尚,頼みがある。箱館も五月になったら薩長が乙部あたりに上陸するだろう。激戦地は木古内・矢不来・有川・大川・七重・弁天・千代岡になると思ってんだ。そこら中で死体の山が出来る、そこで頼みてぃのは、会津の二の舞は絶対避けてぇんだ。戦死した者を葬ってもらえねぇか。無理難題だってことは重々承知している。爺さんの話がなかったら俺から頭を下げるつもりだったんだ。」

「歳さん、いいよ。あっしらが責任もってお前さんの頼み引き受けた。なぁっ、と棟梁、和尚。」

「土方さん、昨日棟梁に呼ばれたんだよ。そして今の話をしだした。土方さんが俺に近づいてきたのは絶対戦死した兵隊を弔ってほしいと頼むためだって言うんだよ。わしはいくら何でも初対面みたいなお前にそんなどえらいこと頼むはずねぇって言ったんだ。熊吉は俺のことを漢と見込んでくれたんだっ。俺は歳さんが頼んだら引受けることに決めたんだよ。」

「親分、棟梁、和尚ありがとうございます。これで心置きなく戦が出来るってもんだ。なぁ、森ちゃん。」


森常吉は涙を流していた。


柳川熊吉親分が「この話はこれで終わりだ、さぁ、食って飲みましょうや。」

「ところで歳さん、榎本の評判だが好くねぇ、良くねぇどころか榎本を敵か仇のように思っている奴ばっかりだ、豪商達は「一日も早く新政府軍が来て榎本を成敗してくれないだろうか」なんて真顔で言ってたよ。」

俺から見てもやってることが馬鹿げているな、大丈夫なのか歳さん。」

「さーな、馬鹿は死んでも治らねぇ。それにあいつは馬鹿じゃねぇんだ。チャラチャラしている「チャラ男」なんだよ。

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