第3話  松前城陥落・江差占領・開陽座礁沈没


十一月一日、知内付近で宿営中に松前藩兵の奇襲を受けたが撃退し十一月五日、松前城に到達した。松前城を守る藩兵は百五十人程度しかおらず数時間で落城した。生き残った松前藩兵は江差方面に敗走していった。

十一月十二日、星恂太郎率いる額兵隊五百名が江差に向け進軍した。十五日江差に迫ったが松前藩兵は既に撤退しており江差を無血占領することが出来た。

この間、海軍の開陽・神速丸が海上から援護射撃をした。


「榎本、お前なんで上陸しているんだ。さっさと箱館に帰れよ。」

「土方さん、江差は我々海軍が無事占領しましたよ。すごくないですかっ。」

「チャラ男っ。松前兵は誰も居なかったじゃねえか。。それにあれが援護射撃なのか❔全然あたってなかったじゃねぇか。敵さん笑ってたんだぞ。チャラ男さっさと箱館に帰んな。」

「土方さん、そんな言い方しなくてもいいんじゃないの。海軍だって頑張ったんだし、みんなと酒宴を開いて慰労してやりたいんですよ。それからチャラ男はやめて下さいっ。」

「榎本、お前さぁなんかあると酒宴酒宴て馬鹿の一つ覚えみたいに言ってるけど、陸軍から「榎本さんは、酒飲むとチャラ男になるんだよね、見てられないよって言われ店の知ってんのか。」

「土方さんが言いふらしているんじゃないんですか。」

「馬鹿馬鹿しい、酒宴は五稜郭に戻ってからやれ。さっさと帰んなっ。」


土方は馬鹿に構っていられんという気持ちで自室に戻った。


「土方さんっ、土方さんっ、大変です。開陽が座礁しましたっ。」

「何だってっ、榎本は箱館に戻ったんじゃねぇのかっ!」

「海軍の人達とどんちゃん騒ぎしてましたよ。」

「あの馬鹿がっ、開陽を見に行く、ついて来いっ。」

「榎本っ、荒井っ、貴様等なにやってんだっ。べろんべろんじゃねぇかっ。

開陽が沈没したんだぞっ。」

「土方さん、冗談きついですって。開陽は浮沈艦なんですよ。」


土方は、榎本と荒井を思いきりぶん殴った。


「何するんですかっ。痛いじゃないですかぁ。」

「開陽を見てみろっ。早く行けっ。またぶん殴るぞっ。」


外は暴風雨で開陽は今にも沈没しそうだった。


「土方さん、どうしよう、開陽が沈没してしまうかも。」

「榎本さん腹斬って下さい、私、荒井郁之助が介錯しますから。」

「荒井君、何言ってんの。あんた開陽の艦長でしょう。腹斬るのはあんたでしょうが、ネッ土方さん。」

「いい加減にしろ、二人ともここに座れっ俺が首切ってやるっ!」


榎本と荒井は一本松の周りをぐるぐる回って逃げ出した。

神速丸も座礁沈没した。


「魁ちゃん、チャラ男連れて来い。」


榎本は、開陽救援のために箱館から来た回天に乗り、五稜郭に帰って行った。


「榎本も大鳥も逃げ足だけは一級品だ。」


土方は松前に立寄り箱館五稜郭に帰って行った。


「榎本居るのかっ。居るんなら返事しろよ。」

「土方さん、貴方に殴られて歯が折れたんですよ。暴力反対、暴力反対!」

「うるせぃ、歯一本で済んだんだぞ、感謝しろ。チャラ男、チャラ吉これからどうするんだっ。箱館に着いたら武器弾薬をアメリカ・フランスから買うから心配ないと言ってたが、どうなんだっ。それに開陽は浮沈艦だから心配ないと言ってたが見事に沈没してんじゃねぇか、お前ら体外にしろよ。チャラ男、薩長と戦する気あるのか。蝦夷地制定したからって何で空砲バンバン鳴らしてんだよっ、祭り騒ぎしてる時じゃねぇんだっちゅうの。分かっちゃねぇな、永井、あんた年長者なんだからしゃきっとさせろよ。」

「土方さん、個々にはチャラ吉なんて人いませんよ。」

「大鳥、おめえのことだよっ、ホントいらいらするっ。」

「土方君、お言葉ですがこのタイミングで年長者は関係ないんじゃないの?」

「榎本、俺の質問に対して答えろよっ。」

「質問てなんでしたっけ?」

「どつくっ、俺は今決めた。お前らをどつくと。気が収まらねぇ。」

「そうですよっ、思い切りどつきまくって下さいよっ、皆もそうですけど腹が立ったのを通り越して呆れています、思いっきりぶん殴って下さい。お願いしゃすっ。」

「暴力反対、暴力反対。何言っちゃってんですかー今日は入札をする日なんですよ。アオタンなんか出来たらかっこ悪いじゃないですか、後生ですから勘弁して下さい。役職が決定した後で正式に今後のことを決めていきませんか。ねぇ土方さん。」

「おいチャラ男、今度チャラ気たら死んでもらうからなっ、覚えておけよ。」

土方はドアを思いきり閉めて出て行った。


「榎本さん、新政府軍と本気で戦うんですか。新政府軍は本気みたいですよ。」

「荒井君のせいで開陽が沈没してしまったでしょう、開陽がいない艦隊なんて艦隊じゃないでしょう,土方さんじゃないけど腹斬って下さいよ、ねぇ荒井君。」

「何言っちゃってんですか榎本さん、私なんですかっ冗談にも程があるんじゃないんですかっ。こうなったら土方さんに本当のこと言ってやる。一手やるから。」

「馬鹿言っちゃいけませんよ、土方さんにまたドツかれちゃいますよ。」

「榎本さん、戦の話に戻してください、どうするんですか。」

「新政府に嘆願書を何度も出していますが無視されっぱなしでしょう。それに今更降伏しますなんて言ったら土方さんが起こるじゃないですか。それに私達の計画のこともあるし、一応戦うと言うことで行きませんか。大鳥君どう思いますか。」

「私は土方君が大嫌いです。あの人の顔を見ただけでなんか言われるんじゃないのかと胸がキュンキュンしちゃうし。」

「大鳥君、そんなこと聞いてませんよ、シャキッとしなさいよ、まったく。」

「皆さん、戦は避けられないのと違いますか。全部土方君に任せたらいいんじゃないの。ただし、陸軍奉行はこの大鳥がやりますけど。」

「榎本さん、私は皆さんと頻繁に会っていないので榎本さんの言っている「作戦」のこと知らないんですが「作戦」って何のことですか。」

「そうでしたね。大鳥君、近くに人がいないか確認してくれますか。私の言う計画とは、ここに居る五人は五稜郭落城寸前に五稜郭を脱出するんですよ。」

「えっ!脱出するんですか。兵隊達はどうするんですか。」

「荒井君、あのね五稜郭に来た兵隊の多くは戦争大好き、薩長憎し、戦以外なーんにも出来ない人達でしょう。でも、私達は違うじゃありませんか。私達はエリート中のエリートじゃないですか。特に私は新政府に必要とされている逸材なんですよ。だから脱出しなきゃダメなんです。分かるかなー、荒井ちゃん。」

「荒井さん、私達もその辺までのことは聞いていますが、具体的にどうやって脱出するのかまだ聞いていません。」

「大鳥君、だから土方さんに馬鹿呼ばわれされるんですよ。いいですか今から発表しましょう。開陽は沈没しちゃいましたので開陽艦長澤太郎左衛門以下乗組員全員を室蘭開拓という名目で室蘭に行ってもらいます。そして鷲ノ木から鹿部方面を古屋作左衛門君の衝鋒隊に警備させます。ここまでいいですか?」

「大丈夫でーす。」

「新政府軍は多分乙部方面から攻めて来るでしょう。でもフランス人ブリュネ大尉に敵はどこから攻めて来るのかわからないから鷲ノ木方面も警戒しなければならないと言わせるんです。有川が堕とされたら、それと弁天砲台・千代台か堕ちたら作戦実行です。室蘭の澤君は室蘭に行く時、乗って行った長鯨で鷲ノ木まで来てくれる手筈になっています。衝鋒隊の澤君は五稜郭で待機するということにします。五稜郭落城前夜に澤君が嚮導役になってで鷲ノ木まで行き長鯨で蝦夷を脱出します。すっごいでしょう!天晴れっ榎本でしょう。」

「榎本さん、自画自賛はやめて下さい。土方君のこと忘れているんじゃないのかなー。絶対文句言ってくるに決まってますよ。文句なんか半端なもんで済みませんよ、間違いなく殺されてしまう、みんなそう思いませんかぁー。」

「大鳥君の言う通りでしょう、土方君・中島君が黙っている訳がないのと違いますかねぇ。」

「やっぱり君達は馬鹿ですね。今日の入札ですが出来レースなんですよ。」

「エーッ、入札って公平なものだって言ってたじゃないの、出来レースってどういうことなんですか。」

「総裁には私榎本武揚がなります。副総裁は松平君、陸軍奉行は大鳥君、永井さんは箱館奉行、新井君は海軍奉行以上が大幹部です。土方君は陸軍奉行並、中嶋君は箱館奉行並です。大鳥君・永井さんの下に位置します。どうです。やっぱり榎本はすごい、否、凄すぎるよねー。」

ただ、常府将軍の大鳥君、開陽を沈没させた荒井君の二人は波風が厳しいと思いますよ。」

「あのさー何回も言うけど開陽を沈没させたのは榎本さんだっちゅうの。ホント嫌らしい人だよな。だけど万に一つでも土方さんが総裁になるってことないんですか。」

「既に手は打ってるから大丈夫だよ。」

「策士、策に溺れる」にならないことを祈ってますよ。さぁ、時間です。会場に行かなきゃ、皆さん、行きましょう。」

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