第2話  鷲ノ木上陸


「土方副長、顔が真っ青から真っ白になってますよ。」

「おい、榎本達は上陸したのか。もしかしたらあいつらくたばったんじゃねぇのか。」

「副長、榎本さんたちは上陸して雪合戦して飛び跳ねてますよ。元気だなー。」

「魁ちゃん、あいつら馬鹿を通り越してチンカスだ、見てみろ大鳥のはしゃぎっぷり榎本の腰巾着丸出しじゃねぇか。決めた大鳥のことをこれから「チャラ吉」って呼ぶことにする。チャラ男にチャラ吉、ピッタリじゃねぇか。」

「副長、榎本さんが手を振ってますよ。こっちに来てくれみたいな手の振り方です。」

「うるせぇな、俺はまだ吐きそうなんだっちゅうの。ほっとけ、ほっとけ。」


土方はじめ全兵士が上陸した。

上陸の際、海に落ちて水死した者が十九人いた。


「土方さん、こっち、こっち。あれー、顔が真っ白だけど大丈夫ですか。」

「うるせぇ、何のために呼んだんだ。」

「五稜郭に向けての編成ですよ。」

「大鳥君、始めて下さい。」

「出発は二十二日、大島隊は新撰組本体、伝習士官隊、伝習歩兵隊、遊撃隊、七〇〇名とする。大沼・峠下・七重村・桔梗村・五稜郭のコースで進軍する。

土方隊は守衛新選組・仙台額兵隊・衝鋒隊・五〇〇名で砂原・鹿部・川汲・湯川・五稜郭のコースとする。明日二一日、人見君・本多君それに一小隊つけて五稜郭の箱館府知事清水公に嘆願書を届けてもらいます。人見君・本多君よろしく頼みます。五稜郭到着を二五日としますのでよろしくお願いします、以上。」

「あのさぁ、ちょっと待ってくれねぇか。榎本、五稜郭に到着する前に敵と遭遇したらどうするんだよ。」

「大鳥君は十分理解してくれていますが、敵に見つからないように進軍して下さいよ。」

「榎本っ、馬鹿言ってんじゃねぇぞ。七〇〇人もの部隊が気づかれずに進軍できる分けねぇだろうが。おい、大鳥お前のコースの方が敵と遭遇する確率は高いぞ。戦するんだよな。」

「榎本さん、土方君に言ってやって下さいよ。」

「土方さん、敵に遭遇したら存分に戦ってください。大鳥君もです。旧幕府軍はメッチャ強いやんかぁ。と恐れられるような戦いをしてください。」

「榎本それと大鳥言ってることがめちゃくちゃだ。榎本それなら俺と大鳥のコース変えるべきだぜ、だって大鳥は「戦下手」なんだから、なっ皆そう思うだろぅ。」

「おっしゃる通り。」

「異議ナーシ」

「土方君、土方君。その辺で許してやってくれませんか。」

「榎本、許す許さないじゃなく大鳥は弱いんだよ、勝ったの見たことねぇよ。付いていく部隊が苦労するだけじゃねぇのか。」

「大鳥君、コース変わってもらいましょうか?」

「榎本さん、だれが何と言おうが私は「本」で行きます。何言ってくれてんの。」

「森(新撰組隊長)、滝川(伝習士官隊隊長)面倒掛けるが守してやってくれゃ。」

「土方君、いい加減にしてくれませんかっ!土方君、五稜郭到着を見てから言ってもらいたいものだ。」

「大鳥、こっちは三千人しかいないんだ、無駄に殺されたんじゃたまらんよ。打ち合わせをするんでこれで失礼する。」


既に、人見勝太郎と本多幸太郎は兵三〇名を率いて五稜郭に向かっている。雪が三〇センチほど積もっている中まず大鳥隊が出発した。続いて土方隊が出発した。

大鳥は大将軍になったつもりか大はしゃぎで皆に手を振って何か喚いていた。

「大鳥、お前は大将軍じゃねぇ、チャラ吉だよ、馬鹿馬鹿しい。」

大鳥軍は、峠下・七重村で新政府軍と激戦になった。勝利したが数一〇名の戦傷者を出してしまった。


「大鳥さん、土方さんは三好胖君を随分かわいがっていたのに戦死してしまったんですよ。五稜郭に着いたら何言われるかわからない、覚悟していた方がいいですよ。」

「滝川、三好君が戦死したのが俺のせいみたいなこと言うなよ。ちゃんと土方君に言ってくれよな、頼むよ。」

「でも、今回の戦闘ですが大鳥さんの作戦はまずかったですよね。」

「滝川、お前までそんなこと言うのか勘弁してくれよ。五稜郭行くの嫌だなぁ。」

「ここからは僕が作戦立てましょうか?」

{うん、頼むよ。ごめんな。}


大鳥隊はその後、小競り合いはあったが滝川充太郎の指揮で問題なく五稜郭に二六日に着いた。

一方、土方軍は川汲付近で小競り合い程度の戦闘はあったものの戦傷者数名を出しただけだった。二六日、無事、五稜郭に着いた。箱館府知事清水公は二十五日、五稜郭を放棄して青森に逃げていた。


「大鳥っ、貴様三好殿を殺したのかっ!切腹しろ俺が介錯してやっから切腹しろよっ。」」


大鳥さん土方さん凄い形相で走ってきますよ。くわばら、くわばら、私は打ち合わせがあるので失礼します。」

「おいっ、滝川君。そばにいてくれるってい言ってたじゃないか、榎本さん達は

まだ、鷲の木だし私一人じゃやばすぎでしょ。」

「大鳥っ、どこ行くんだっ、待ちやがれっ! このこの馬鹿がっ」

「お前らっ、大鳥を見なかったかっ!」

「土方さん、あっちの方にすごい勢いで走って行きましたよ。」

「くっそー、逃げ足だけは天才的だな。魁ちゃん、これから軍議を開く彰義隊隊長と額兵隊隊長と衝鋒隊隊長を呼んできてくれ。それと大鳥を探して連れて来い。」


土方に呼ばれた各隊長が部屋に入ってきた。

魁ちゃんが大鳥を引きづって来たのは二十分後のことだった。


「大鳥っ、どこに居やがった。」

「土方君、僕もいろいろ忙しいのだよ。」

「土方副長、大鳥さん厠に隠れていたんですよ。探すの大変だったんですから。」

「おい大鳥、三好殿を殺してどうすんだよっ。」

「何言ってるんですか、三好君が勝手に敵の中に突撃していったんです。アッと言う間だったんだから、滝川君そうだろう。」

「大鳥さんの指揮に問題あったと皆言ってますよ。」

「大鳥、三好殿は唐津藩主小笠原殿の倅なんだぞっ。やっぱりお前はダメた。榎本はまだ鷲の木にいるが、明日、松前に向けて出発する。彰義隊、額兵隊、衝鋒隊、砲兵隊、工兵隊七百名で出発するから用意しておけ。大鳥、留守番よろしく、へまするなよ、解散。」

「榎本さん、早く箱館に来てくれないかなー。土方は明日から松前だからしばらくは伸び伸び出来る、ラッキー!」

大鳥はスキップしながら自室に入った。


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