土方歳三はチャラ男が大嫌いだ!!

鬼龍院右仲

第1話  仙台脱出 蝦夷鷲ノ木へ

目次 

    前書き

一話  仙台脱出 蝦夷鷲ノ木へ

二話  鷲ノ木上陸

三話  松前城落城・江差占領・開陽沈没

四章  蝦夷共和国樹立・入札

五話  ふざけた戦闘配置に激怒

六話  榎本評判悪すぎ・土方と任侠柳川熊吉

七話  局外中立撤廃・ガルトネル兄弟

八話  宮古湾海戦

九話  新政府軍乙部に上陸

十話  五月十日 決戦前夜

十一話 チャラ男脱出計画断念

十三章 土方歳三戦死・榎本五稜郭降伏


    あとがき




前書き 新撰組鬼の副長土方歳三はチャラ男が大嫌いだっ!!


新撰組鬼の副長土方歳三が新撰組隊士島田魁によく言っていた。

「魁ちゃん、俺の人生で殺してしまいたいと思った奴が二人いたんだ。一人は

清川八郎、もう一人は伊藤甲子太郎。この二人とは初対面で「鳥肌が立ってケツの穴あたりがもぞもぞして仕方なかったよ。殺すって決めたんだ。魁ちゃんあいつらのような野郎はそうは居ねぇな。ところがつい此間出てきやがった鳥肌が立って血の穴がもぞもぞしやがった、あいつら二人の比じゃなかった。嫌だねーそいつを殺すことになんだろうな。

「副長、止めて下さいよ。ところで誰なんですか。」

こんな話をしながら旧幕府軍は仙台を出港して蝦夷の鷲ノ木に上陸した。

箱館五稜郭を無血開城し松前城も落城させた。

そのころから「チャラ男」と土方があだ名をつけた跳んでもねえ男が土方の目に入り始めた。

チャラ男のどうしようもない馬鹿さ加減はどんどんエスカレートしていく。

チャラ男本人だけは自分のことを天才だと思っていやがる。

土方歳三が戦死し、五稜郭は降伏する。

チャラ男が足を引っ張りつつけての敗北。

土方歳三が何故其男を「チャラ男」と呼ぶようになったのか。

チャラ男はどのような人生を送ったのか。

この小説はどんな資料にも載っていない歴史を土方歳三と中島三郎助が

「チャラ男}の言動・思考・行動等で推理していく。

皆さんはすでに「チャラ男」がだれか分かりましたか❔


どうぞ楽しんでください。


鬼龍院右仲


主な登場人物

土方派 土方歳三  三十四才

    中島三郎助 四十八才

    春日左衛門 二十四才

    野村利三郎 二十五才

    伊庭八郎  二十六才


榎本派 榎本武揚  三十三才

    松平太郎  三十才

    永井玄播  五十三才

    大鳥圭介  三十六才

    荒井郁之助 三十三才




一章 仙台脱出・蝦夷地鷲ノ木へ

仙台藩が降伏した。旗巻峠の戦いで負けた仙台藩は主戦派に変わって恭順が藩政を引き継いだ。

榎本と土方は激昂した。

「土方さん、仙台藩はもう駄目ですよ。旗巻峠の戦いで負けて以来主戦派がおとなしくなっちゃいました。もう少し頑張ってくれると思っていたんだけどがっかりです。土方さん、こうなったら蝦夷地に行っちゃいませんか。そうだっ、蝦夷地に行きましょうよ。」

「榎本、お前さぁ蝦夷に行ってどうすんだ。旧幕臣を蝦夷開拓使にするとかロシアの侵略を防ぐための警備隊を造るとか言ってるけど本気で言ってんのかぁ。」

「何言ってるんですか方便ですよ、方便。土方さん徳川家は減俸されて静岡に引っ越しするじゃないですか。そうなると多くの徳川家臣が路頭に迷ってしまうでしょう。それに武士は商人にはなれませんよ。頭悪いですから。彼らに出来る事は戦しかないでしょう。後は諸外国からの侵略に備えて警備隊を造ればいいじゃないですか。一石二鳥でしょう、新政府軍も100%理解してくれるでしょう。土方さん、私って天才でしょう。」

「榎本、お前本気でそんなことが可能だと思ってんのか。薩長がそんなこと「榎本君、蝦夷地は榎本君に任せますから好きに使っていいよ」なんて言うと思ってんのか。今のお前は浦島太郎と同じなんだ。オランダに留学している間に薩長がやってきたことを知らねぇからそんな素っ頓狂なことが言えるんだ。薩長を甘く見ねえほうがいい。」

「土方さん大丈夫ですよ。ちゃんと手は打っているんです。」

「榎本、あのさぁ俺達が蝦夷に行ったら薩長は蝦夷に上陸して俺達が降伏するまで兵隊を送り続けて来るんだ。お前の言うようになる訳がねぇだろう。」

「分かりませんよ土方さん。兎に角、蝦夷に行きましょう。」


榎本は本気だ、本気で薩長が榎本の考えに同調して許可してくれると思っている。

あの男、何を考えているのかわかんねぇ素っ頓狂な野郎だ。

出会ったばかりだから仕方がないが、俺はあいつとうまくやっていく自信がねぇ。

「土方さん、土方さん、あの店に寄っていきませんか、おなかもすいてきたしもう少し土方さんと話しがしたいです。さっ、行きましょう。」


榎本はさっさと店に入って行って勝手に注文し始めた。

「土方さん、早く、早く。座って下さい。注文はしておきました。土方さん何か食べたいものあったら注文して下さいね。」

「榎本、俺が聞いていた榎本は徹底抗戦を主張し将軍にさえも直訴する勇ましい漢と聞いていた、だがここに居るお前はただの剽軽者だ。お前って男はどれが本当なんだ?」

「今ここに居るのが本当の榎本なんですよ。留学から帰ってみたら徳川家が大変なことになってるじゃないですか、話には来て居ていましたが聞くと見るでは大違い、私は留学帰りのエリートですから当然、徳川家を守る立場であり徹底抗戦の首謀者を装ったんですよ。周りの家老達は「榎本、天晴れっ!」の大喝采でしたが等の慶喜さんは「もう、やめた」でしょう話になりませんよね。土方さんどう思います?

だから大喝采を浴びたあのかっこいい榎本を装う必要があったんですよ。分かります❔土方さん、土方さん。」

「お前はチャラ男なのか?」

「土方さんは、はっきり言う人なんですね。私オランダではChara Manて言われていました。」

「Chara Man?」

「チャラ男のことですよ。土方さん、このことは誰にも言っちゃだめですからね。」

「榎本、俺が言わなくてもすぐ本性が出てくんだろうょ。」

「土方さん、蝦夷に行ってから新政府との戦ですが勝てると思っていますか?」

「お前はどう思っているんだ。」

「土方さん、勝つに決まってますよ。負けるわけがありません。」

「榎本、本気で言ってるのかっ?」

「土方さん、我軍には最新鋭艦開陽があるんですよ。負ける訳ないじゃないですか。」

「だが、品川沖から脱走した時、美香保丸と咸臨丸を失ったじゃねぇか。船は最新鋭艦でも操縦する人間は二流なんじゃねぇのか。」

「土方さん、勘弁して下さいよ、あの時は急に脱出しなければならなかったんです。暴風雨だからとか言ってられなかったんですよ。分かって下さいよぅ。我軍の海軍は最高です。私がトップにいるのですから、土方さん安心して下さい。」

「チャラ男、分かった、分かった。俺は帰るわ、ご馳走さん。」

「土方さん、Chara Manて言わないで下さいっ!」

チャラ男はどうも信用おけねぇな、清川八郎や伊藤甲子太郎と同じ匂いがする。榎本のチャラケは演技なのか本当のチャラケ野郎なのか、そのうち分かる。


朝、榎本の使いの者が土方を訪ねて来た。

「土方先生、榎本殿が港まで来て頂きたいとおっしゃっています。ご同行お願いいたします。」

港の集会所に行くと既に何人かの侍がいた。

「土方さん、呼び出して申し訳ありません。ちょっと軍議みたいなものをしたいので。皆さん、席についてください。私と松平君と永井さんと大鳥君と荒井君はこちらに座って下さい。土方さんと中島さんと春日君と星君はそっちに座って下さい。

皆さん、今仙台にいる同士で軍の中心になるのが皆さんです。

よろしくお願いします。私が皆さんを招集するのはどうかと思いましたが誰かがやらなきゃならないでしょう。だから私がやった次第です。箱館に付いたら入札で各役職を決めようと思っているんですよね。取り合えず自己紹介から始めましょうよ。じゃぁ、私から。

榎本武揚です。六年間オランダに留学していました。帰国後は海軍副総裁をしてたんですよ。だから軍艦を手配できたんです。すごくないですか。すごいと言ってください。」

「松平太郎です。陸軍奉行並でした。周りの人からは「和魂」なんて言われています。人望はあるんですよ。よろしく。」

「永井玄葉と申します。外国奉行・軍艦奉行・京都町奉行・大目付をやらされていましたよ。結構頭は切れるんです。よろしく。」

「大鳥圭介です。歩兵奉行をやってました。何度となく新政府軍と戦ってきましたがかなり手ごわいですよ。苦戦を強いられました。よろしく。」

「荒井郁之助です。榎本さんの下で働いています。軍艦操練には自信があるんですよ。大船に乗ったつもりでいて下さい。よろしくです。」

こいつら全員チャラ男じゃねえか。なんだこの自信は?ふざけた野郎たちだぜ。

「土方さん、自己紹介よろしくお願いします。」

「土方歳三、新撰組副長。」

「中島三郎助、浦賀奉行所与力。」

「春日左衛門、彰義隊頭並。」

「野村利三郎です。新撰組隊士です。なぜ自分がここに居るのか解せませんがよろしく。」

「星恂太郎、仙台藩額兵隊隊長。」

「土方さん初め皆さんの挨拶素っ気ないですね。皆さん顔が怖いですよ。」

「榎本、余計なことは言わんでいい、話を進めてくれ。」

「土方さん、すいません。それじゃあ出港から鷲ノ木上陸及び箱館五稜郭進軍までの軍議を開きます。」

「荒井君、お願いします。」

「仙台出港は十月十二日とします。途中、宮古湾に寄港し燃料・食料等の補充をし、蝦夷鷲ノ木上陸は二十日と考えております。」

「荒井君ありがとうね。皆さん質問はありませんか。」

「榎本、美香保丸に武器弾薬を満載していたっていうじゃねえか。美香保丸は沈没、咸臨丸は清水で薩長に拿捕されたんだろう。大丈夫なのか。それと軍資金はどのくらいあるんだ。」

「土方さん、心配ないんですって。武器弾薬等は箱館に付いたらアメリカ・フランスから調達するし、軍資金にしても箱館の豪商達から集めるつもりですよ。」

「榎本、軍資金はどのくらいあるんだ。」

「土方さん正直に言うんですけど、ほとんどありません。兵隊たちに払う給料も出せるかどうかといったところです。」

「榎本、お前ふざけているのかっ!」

「土方さん何言ってるんですか。私は大まじめですよ。聞かれたから正直に言っただけですよ。」

「土方君、軍資金は現地調達でいいじゃありませんか。」

「大鳥っ、お前は馬鹿かっ、黙っていろ。」

「土方君、呼び捨てはないんじゃないの。せめて「君」「さん」くらいつけてもらわないと、示しがつかんですよ。ねぇ、皆さんそう思いませんか。」

「榎本、大鳥、箱館市中の人を苦しめるようなことはやっちゃいけねぇ。」

「土方さん、もう後戻りできないんですよ。分かっているんですか。」

「まぁまぁ揉めないで下さい。大鳥君、次に鷲ノ木上陸後の作戦を発表して下さい。」

「鷲ノ木上陸は今月二十日とします。二十一日には二手に分かれて箱館五稜郭に向かいます。その前に箱館府知事宛に書簡を届けます。それは人見君と本多君にお願いするつもりです。一手はは私が指揮をして大沼・峠下・七重村・桔梗から五稜郭に入るコース。もう一つは土方君に指揮してもらい、砂原・鹿部・川汲。湯川から五稜郭に入るコースです。五稜郭到着を二十五日とします。以上です。」

「皆さーん、質問ないですかぁ。」

「土方さん、そして皆さん、詳細は宮古湾で軍議を開きそこで結論を出しましょう。では解散とします。お疲れさまでした。」


土方達は部屋を出て行った。

残った榎本達は部屋に留まっている。


「榎本さん、土方の態度どう思います?傍若無人すぎやしませんかぁ。松平さんどう思います。」

「彼は武士ではないんでしょう。百姓の出と聞いています。我々徳川の直臣と違うんじゃないのかな。大鳥さん気にしないことですよ。永井殿はどう思います。」

「私が京都町奉行をしていた時、新撰組のことはよく聞いていたよ。新撰組が機能しているのは土方歳三がいるからだともっぱらの評判だった。「新撰組鬼の副長」と言われていたよ。油断できない男だと思う。」

「永井さん、土方さんてそんなにすごい人なんですか?。どおりで眼力が凄いですよね。剣の腕前はどうなんです?」

「榎本さん、凄いってもんじゃないですよ。あの人には適いませんよ。でも剣の時代は終わって銃の時代です。」

「大鳥君、貴方は土方さんと一緒に戦ったことあったんでしたっけ。」

「会津で何度か一緒でした。悔しいですけど戦は天才的でした。」


榎本達はどうでもいいことをだらだらと話している。この五人は何もなくても集まってはしょうもない話をするのが好きなようだ。


十月十二日、榎本軍は蝦夷地を目指して出港した。途中、宮古湾に立寄って燃料・食料等を調達する為だ。土方は船酔いが苦手だった。

「魁ちゃん、船は気持ちがいいな。滑るように進んでいく。風も気持ちいいぞ。」

「副長、今日のような天気は珍しいとのことです。ひょっとすると品川を脱出した時のように大荒れになるかもしれませんよ。」

「魁ちゃんっ!間違ってもそんな恐ろしいこと言うな。お前のせいで気持ち悪くなってきた。あっ、そうだ。中島殿と春日君を呼んできてくれないか。」


魁ちゃんは、中島三郎助と春日左衛門を探しに行った。


「土方さん、どうされた。」

「中島殿、あっ春日君こっちこっち。暇だから話をしようではないか。」

「土方さん、榎本さんてどんな人なんですか。大鳥さんの事は知っているつもりですが。」

「俺もよく分からねぇんだ。最近、ちょっと話をした程度なんだよ。」

「土方さん、春日君、私は榎本君のことはよく知っている。榎本という男は非常にチャラ男なんですよ。留学に行く前の榎本君は周りの同僚先輩からからかわれていたんですよ。ある意味「太鼓持ち」みたいに振る舞っていたんです。それが榎本の処世術だったんです。もしかすると生まれつきなのかもしれないな?!。榎本君は頭が良すぎたんですよ。そして夢想家だった。留学から帰って来た彼は「私は天才なんだよね。」なんて平気で言うようになっていた。+将軍慶喜公に対しても臆することなく持論をぶつけていたようです。榎本は二度とチャラ男なんて言わせないと言う凄味が身に着いたんでしょう。周りの者は誰もチャラ男とは言わなくなりました。」

「中島殿、この間、榎本のことを「お前ちゃらちゃらしているからチャラ男と呼んでやるよ。」と言ったら、それからの榎本は完璧、絵にかいたようなチャラ男になったんだよ。」


土方は思い出して腹を抱えて笑っている。

「中島殿、春日君、でもあいつの言っていることはおかしいんだよ。榎本は薩長と戦をする為に蝦夷に行くんじゃねぇと言う。旧幕臣に蝦夷地を開拓させたい、諸外国の侵略を防ぎたいと嘆願書まで出しているのに蝦夷に着いたら俺達は箱館五稜郭を攻める。その次は松前城を堕とすってことは薩長に真正面から喧嘩売ってるってことじゃねえのか。榎本の言ってることとやろうとしていることは違うじゃねぇか。」

「土方さん、榎本という男は自分の事が大好きなんですよ。厄介な男ですよ。今度榎本に合ったらどう考えているのか聞いてみたらいいんじゃないですか。」

「わかった、そうしよう。」


船は順調に宮古湾に入り停泊した。土方は頗る機嫌がいい。ルンルン気分で榎本の所に行った。中島三郎助と春日左衛門、野村利三郎が後をついて行った。

「榎本、居るのかぁ。何だみんな揃っているのか、あんたらはいつも一緒なんだな。気色悪いわ!」

「土方さん、今呼びに行こうと思っていた所だったんですよ。」

「榎本、お前さんの言っていることとやろうとしていることなあんだけどおかしくねぇか。」

「土方君、榎本さんのどこがおかしいと言うのだ。」

「大鳥、マジで言ってんのか。大鳥お前何しに蝦夷に行くんだぃ。」

「土方君、馬鹿にするなっ!」

榎本さんが言われる開拓と防備背関することを新政府にわかってもらう為ではないか。ねぇ、松平君。」

「土方さん、素っ頓狂な質問しないでいただきたい。あなたは何のためにこの船に乗ったんですか?」

「決まってんじゃねぇか、薩長と決戦するためだよ、なぁ、中島殿。」

「土方さんのおっしゃる通りです。徳川家からの大恩に報いる為に浦賀から来たんですよ。薩長が嘆願書見て「はい、わかりました。どうぞ、どうぞ。」などと言うと思っていですか。馬鹿馬鹿しい。」

「馬鹿馬鹿しいとは何ですかっ!、話にならん。」

「永井さん、そう熱くならないでくださいよ。中島殿も中島殿ですよ。榎本さんの言われることに一分の隙もないじゃないですか。」

「大鳥、お前は馬鹿かっ!だからお前は戦が下手なんだょ、バーカ。」

「土方君っ、今は戦が下手とか関係ないじゃないかっ、腹が立つっ。」

「どうもすみませんでした、常負将軍様。」

「土方さん、その辺にしてくださいよ。」

「榎本、元はと言えばお前さんが悪いんだ、本気で薩長はOKすると思ってんのか?。」

「土方さん、薩長はそんなに頑固頭じゃありませんよ。私の伝えたいことを理解してくれますよ。」

「榎本さんの言うとおりですよ、土方さんっ。」

「あんたら、本当に馬鹿だっ、おい榎本もし薩長がNOと言って戦になったらどうするんだっ。」

「土方さん、それこそ馬鹿なこと言わないでくださいよ。我軍には最新鋭艦開陽があるんですよ。それに幕府が購入することになっているアメリカのストーン・ウォール号も購入する運びになっています。薩長は津軽海峡を渡って上陸しなければなりません。制海権は我が方が握っているんです。分かっていただけましたね。ひ・じ・か・た・さん。」

「榎本、やっぱりおめぇは頭でっかちのチャラ男だ。」

「土方さん、みんなの前では言わないと約束したじゃないですかぁ。嫌だなぁ。」

「おい、榎本・大鳥・松平・永井・荒井よく考えてみるんだな。明日また来るよ。」


「榎本さん、土方がいたら我々の計画やばいんじゃないの。いっそのこと土方に抜けてもらったらどうでしょう。」

「大鳥君、私も同じことを考えましたよ。でもね、土方は戦闘員にめちゃくちゃ人気があるでしょう、土方を外したらクーデターが起こっちゃいますよ。私にいい考えがあります。」

「榎本さん、いい考えって何ですの。」

「松平君、五稜郭に入ったら、そして松前城を堕としたら「入札」を実行します。当然、私が総裁、松平君は副総裁、大鳥君は陸軍奉行、永井さんは箱館奉行、荒井君は海軍奉行です。」

「榎本さん、土方はどうするんですか。」

「大鳥君、土方さんは陸軍奉行並にしましょうよ。」

「榎本さん否だなぁ、私の下になるなんて考えただけでも憂鬱になっちゃいますよ。」

「大鳥君、陸軍奉行にしてあげるんだからそれくらい我慢しなさいよ。」

「永井さん、「常負将軍」って大勢の前で言われるんですよ、勘弁してほしいなぁ。」

「しかし大鳥君、貴方戦で勝ったことあったっけ。」

「もう、いいですよっ。」

「皆さん、さっき言った役職にしたらさすがの土方さんでも好き勝手は出来なくなります。我々の計画は完璧なのですよ。天才榎本が練りに練った計画なんですからね。皆さん場所を変えて酒宴としましょうょ。」


旧幕府軍は宮古湾を出港した。朝は晴天だったが昼頃から雲息が怪しくなってきた。


「あー、気持ち悪い、なんでこんな日に出向するんだ、榎本達の嫌がらせじゃねぇのか、あー気持ち悪、おーい、だれか塩水持って来てくれねぇか、馬鹿野郎、海水くんで来てどうすんだ、このお単小茄子がっ。」

「土方さん、今、艦長が知らせに来てくれたんですが、これから大時化になるんだって。」

「最悪だー、最悪で気持ち悪い。魁ちゃん、何とかしろよ。」

「副長、顔真っ青ですよ。」

「船室で横になってるぞ。あーっ気持ちわりぃ。」


土方は、鷲の木に着くまで船室から出てこなかった。暴風雨で艦隊はバラバラになっていた。十月二十日、やっとの思いで鷲ノ木に着いた。

土方は半分死んでいた。


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