第14話 SNS拡散

 2年生の全中大会では前評判どうり、真矢が12秒を切る11秒台のタイムをたたき出して100mを制した。私は100mハードルで13秒台後半のタイムで3位になった。

 真矢は1年生のときからジュニア陸上界ではそのスピードで注目されていたことはもちろんだけど、一般にも美少女としてSNS上で話題になっていたらしい。真矢が出場した大会の100m走の動画はあちこちでアップされていたが、真矢自信の画像もアップされており、そこには陸上選手に対するものとは異質の好奇心があってのことだと思われるものもあった。

 だから私達が中学最後の全中大会で100mと100mハードルでそれぞれ優勝したとき、ゴールで抱き合って喜んでいた画像が、曰く有りげなコメントが付いて拡散されたことは、それまでの真矢の話題性から考えると、ある意味当然の流れだったのかもしれない、と今ならわかる。


『オカベンがオンナの子と抱き合ってる!めっちゃ萌える!!』

『相手の子、名前なんだっけ』

『篠田仁美ちゃん。シノピンって呼ぼう』

『シノピンもかわいい!オレ好み』

『オカベンとシノピンって違う学校なのになんでこんなに仲良しなんだろう』

『オカベンとシノピンは小学生のときからのレズ友らしい』

『京都で同じ陸上教室に通ってたんですよ』

『合宿のときなんかにレズってたのかな?』

『おお、萌える!』


 でもその時の私はスマホなんて持っていなかったこともあって、SNSの怖さなんて全然知らなくて、世間の視線にもまったく無防備だった。

 競技場で二人でお弁当を食べているところや、並んで座って喋っているところ、そして関係者しか入れないはずの選手控室や通路で手を繋いでいる画像まで次々とアップされて拡散された。

 でもそもそも陸上界という狭い世界のことでもあり、私達は特に日常生活に支障はなく過ごしていた。

 まあ学校の一部の生徒の間ではちょっと話題にはなったらしい。

「篠田ってレズなん?」とか聞いてくる奴は確かにいたけど、私は当時から女の子に結構もててたから、あんまり違和感のない冗談口くらいにしか感じていなかったこともある。真矢はどうだったのか分からないけど、特に真矢からそのようなことを聞いたことがない。

 中学3年生の全中大会のあとに出場したU16ジュニア陸上競技大会でも成績を残した私達には、陸上の強豪校からのスカウトも結構あった。陸上を通じた明るい未来がずっと続いていくことに、その頃の私達はまったく疑いを持っていなかった。

 ましてや二人のプライベートなことが世間で取り沙汰されるなんて思いもよらないことだった。

 悪いことなんて何もしていない。誰にも迷惑なんてかけてない。そう自分に言い聞かせて、こんな悪意が世間にあることを、その時私達はまだ甘く見ていたのだった。

 仁美が1年生だった時の全中の帰り道で進堂先輩から忠告されていたようなことが現実にあることを、まだ本当には実感していなかった。

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