第3話 出会い2
私は小さい頃からきつい顔をしているとよく言われてきた。親からはせめて優しそうに見えるように髪の毛を伸ばしなさいとも言われた。
その上、私は性格的に言いたいことを遠回しに言うことが苦手で、まっすぐに相手にぶつけてしまうところがある。
私の言った言葉が、相手を傷つけてしまう。怒らせてしまう。怯ませてしまう。悪くすると泣かせてしまう。だから、私は友達を作ることがずっと苦手だった。
運動は得意で勉強もそこそこ出来たからいじめられることはなかったが、きつい顔や性格のせいでいつも学級委員などめんどうな役目を押し付けられてしまう。
面倒な役目を押し付けるくせに、私と友達になってくれる子は少なかった。親友と呼べる子は一人もいなかった。
学校の授業でたまに誰でもいいからペアになりなさい、と言われることがある。
そんなとき人数が奇数だったら私は必ず余ってしまう。みんなが私とペアになることを恐れるようにさっとペアを作ってしまう。小学校5年生までずっとそうだから、もう自分でも半分諦めている。
5年生になって陸上教室に入会したのは陸上競技が一人でできるからって言うこともあるけど、陸上競技を通してなら人と普通に付き合えるんじゃないかと思ったからだ。
足の速さには自信があった。学校では男子を含めて今まで駆けっこで負けたことはなかった。
家の近くにある陸上競技施設で陸上教室をやっていることは前から知っていた。みんなお揃いのユニフォームを着て、学校ではやらないような専門的っぽい練習をしている姿はとてもカッコよくて憧れていた。私もあんな風に仲間と楽しそうに練習できたら。
入会初日。5年生はみんな真新しい同じユニフォームを着ているが、まだお互いに知合いの子は少なくて、みんなよそよそしい。
私は誰かに話しかけることもできず、集合場所のサブトラックの端っこの方でおどおどしていた。
まだ指導者の人は来ていない。
入っていいものかどうかも分からず、私は珍しさに惹かれて何気なくトラックに足を踏み入れた。これが全天候型のトラックってものか。
私はその感触を確かめたくて軽く走り出した。ウレタン・サーフェイスのトラックは運動靴を履いた足をしっかりグリップしてくれ、踏み込んだ感触もいい。
きっといつもより早く走れる。はやく全速力で走ってみたい。
ふと顔を上げると同じようにトラックを流している女の子がいることに気が付いた。
身長は私と同じくらいかな。ショートカットの髪。手足が長くて飛び跳ねるみたいに走るところは小鹿を連想させる。
この子は速い。直観的にそう思った。たぶん私とは正反対の子だろう。こんな子と友達になりたいなと思った。
その日は十分なストレッチの後、軽くジョギングしてから100mのタイムの計測をしただけで解散。
誰かとペアになれ、とか言われなくて助かったけど、あの子に話しかけるチャンスもないまま終わってしまった。でもあの子の名前は分かった。篠田仁美。
私は家が近いから自転車でここまで来ている。
あの子は電車組らしい。駅に向かう方向に行くみたいだ。私は駐輪場へ向かう。私も電車だったら駅とかで話しかけることができたかもしれないのに。やっぱり友達になるの無理なのかな。
自転車に乗って再びサブトラックまで戻ってきたとき、あの子はまだグラウンドの中にいて、トラックの外の芝生に座って本を読んでいた。
あの子、お昼食べないのかな。ああ、午後から中学生の練習があるんだ。
私は大急ぎでコンビニへお昼を買いに行った。二人分。
コンビニの袋を持って、私は再びサブトラックに戻った。
あの子が座っているところまで歩いて行く。
思い切って声をかける。
あの子はびっくりして顔を上げる。本当に本に没頭していたらしい。驚いた顔がかわいらしい。素直な子なんだろうな。私の名前を覚えてくれていたことがうれしかった。
並んでお昼を食べ、中学生の練習を見ながら色んな話をした。
彼女と別れて家に向かって自転車のペダルを踏みながら、もう友達が出来たうれしさをかみしめる。仁美って名前のかわいらしい女の子。
もし練習でペアになれって言われたら私と組んでくれるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます