あんっ

「もうほんまにおもんないよ。折角休日も二人で遊んでて楽しい相手見つけたのにさ。出雲行っちゃうなんて。マコトおらんくなったら何を息抜きに仕事したらええん。出雲なんか行かんとってえや。」


「俺も行きたくないよ。こんなに思い出詰まった倉敷離れるなんて。ハルカとももっと遊びたかったし、ハルカとならもっと仕事もしたかったよ。」


「もう仕事もどうすればいいんよ。マコトが一番一緒にやりやすかったのに。あぁほんまに明日から行きたく無い。」


「すぐ慣れるって。でもほんまにハルカとの二年弱、お陰様で色々学ぶ事もあったし、何よりほんまに楽しかったわ。だから最後は笑顔でハグして別れよ。」


ハルカちゃんの涙に心動かされ、僕は助手席の彼女を肘置き越しに抱き寄せた。彼女の体は花弁のように軽く、ほとんど手ごたえを感じないまま、彼女は僕の元に引き寄せられた。彼女の背中に腕を回すと、手に伝わる骨の感触から彼女の華奢さがより鮮明に伝わって来る。彼女は卒業式を迎えた少女のように僕の鎖骨辺りに目を押し付けて泣いている。数秒で終わっても良いと思って申し込んだハグであったが、泣きじゃくる彼女をすぐに手放す事は躊躇われた。ほんのりとシャンプーの匂いが香る髪の毛、僕を抱き寄せる細い腕、耳元で囁かれる「出雲なんか行かんとってえや」の言葉、全身にハルカちゃんを感じる。愛しさに任せて彼女を再び強く抱きしめ直すと


「あんっ」


と彼女から艶やかな声が漏れた。強く抱きしめ直したことで彼女の胸が僕の体に密着し、心臓の鼓動が共鳴する。ハルカちゃんの胸には小さいながらも確かに小高く軟らかな半球があり、僕の体に生まれて初めての甘美な衝撃を与えてくれるのであった。彼女の吐息とおっぱいが僕の愛欲を呼び起こした。純粋に彼女を欲していた先ほどまでの気持ちと、突如呼び起こされた愛欲が混ざり合い大きな奔流となって僕を突き動かす。気付けば僕は彼女のトップスの裾から手を入れ、彼女の背中を直に抱き寄せていた。


「もう。触ってるところおかしいで。」


「ごめん。ハルカほんまに可愛過ぎて我慢出来んくなってもうた。」


「最後だけやで。こんなことするの。」


彼女の地肌は無数の目に見えぬ程細い糸で紡がれた絹の如くキメが細かく、僕が触れた背中の中で一番滑らかな触り心地をしているのであった。僕の両手は決して広くは無い彼女の背中をくまなく撫でまわし、愛撫した。


「チューしていい?」


「チューはあかん。あんっ。」


断られそうになったので再び彼女を強く抱き寄せ、艶やかな声を出させて返答を有耶無耶にする。雰囲気は完璧なのだが唇までが遠い。一度彼女を引き離し、顔を近づける。彼女は顎を引き、直ぐには接吻しないという意思表示をして来た。僕は彼女の額に自分の額を合わせ、手を握る。


「俺ハルカのこと好きやで。」


「私もマコトのこと好きやで。」


好意を伝え合うもそれが交際を意味しないことは互いに分かっていた。唇を近づける僕と唇だけは死守するハルカちゃん。戦いが膠着する度に僕は彼女を強く抱きしめ直し、彼女の喜悦の声を楽しむのであった。

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