インチキ野郎!
ラウンジの中は高そうなスーツを着てビジネスの話をする者や、クリエーターのプロトタイプのようななりでMac bookを弄る者など、誰も彼もが自信満々といった様子のインチキ野郎で溢れていた。大宮殿は建てたが入る貴人を作るのを忘れた、である。こんな所からは一刻も早く抜け出したかったが、僕には目の前の美女に『森の生活』を紹介するという一世一代の大仕事があるのだ。こんな奴らに負けて逃げ出す訳にはいかない。Φは自己紹介も早々に早速書評を発表するよう促して来た。Φは時間が無いらしく今日の目的を早く達成したいらしかった。Φの効率至上主義の態度には腹が立ったが、僕もΦの素性には別に興味が無かったし、早くΦの価値観をアップデートさせたかったので、書評に入ることにした。僕はソローの並外れた行動力や思考の深さと、池の深さを測って喜んだり、何かと理由を付けて慈善活動をしない人間臭さを対比して説明した。ソローの人間臭さは僕らに通ずるものがある。僕らも信念と冒険心さえあれば、ソローのように思想を言葉にすることはできずとも、物質社会から抜け出し、真の労働と思考を以って豊かさを探求する暮らしができるのではないか。
「ふーん。面白そうな本だね。説明も分かりやすかったし、ネットに書評でも上げてお金稼げばいいのに。」
Φは僕の説明を聞き終わると、大して面白そうな顔もせずに言った。
「お金を稼ぐために読んでる訳じゃないんで、それは大丈夫です。」
僕は多少苛立ち交じりに答えた。こんな美人を相手に苛立つとは自分でも驚きであった。
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