女社長ミキさんとBMW編

ファルス!

 僕が記念すべき成長の第一歩目として選んだ相手は、女社長で三十二歳のミキさんである。マッチした相手の中から、僕の恋愛偏差値を引き上げてくれそうな女性を厳選した結果ミキさんになっただけで、決して女社長という肩書に惹かれた訳では無い。そしてまた年上とは相変わらず進歩していないでは無いかと読者諸賢に怒られそうではあるが、ミキさんは痴女では無い。ミキさんは初めてセックスでは無く、読書会を申し込んできた女性だったのだ。僕が課題図書を選定しようとすると、ミキさんは、明日会いたいから一冊本を読む時間は無い。お互いのお勧めの本を持ち寄って紹介しようと提案してきた。それもそれで面白いと思った僕は、ソローの『森の生活』を持って行くことにした。社長がソローの思想に触れたらどうなるのか楽しみである。


 読書会の開場に指定されたのはホテルのラウンジだった。流石は女社長である。ホテルの中に入ると豪華絢爛な照明器具が、これでもかという程に磨き上げられた床に反射し、上下から僕を照らしていた。僕は本の中からでもソローが怒りだすのではないかとびくびくしながら、奥のラウンジに向けて歩を進めた。ミキさんはラウンジの前に立って僕を待っていた。ジムで鍛えているのであろうか。ハイヒールからは細いながらもしっかりと筋肉のついた足が伸び、膝下丈の黄緑色のスカートに隠れていった。健康的な細さの上半身、小さく整った顔、ミキさんは誰がどう見ても美人であった。しかし、最も僕の目に留まったのは、彼女のボリューミーなボブヘアーだ。モデルのような細い体と、横に大きく広がったボブヘアーが合わさり、彼女のシルエットはファルス(Φ)そのものであった。良い素質を持っているのに勿体ない。


「お待たせしました。勃ちです。」


「よろしくね。その名前はいいと思うけど、ホテルのラウンジの前で名乗る名前じゃないかな。」


Φは僕を嗜めるとそのままラウンジに入って行った。返事はぶっきらぼうであったが、庶民の僕が独りではラウンジに入りづらいであろうという配慮から入り口で僕を待ってくれていたのであれば、とんだツンデレである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る