探偵ナイトスクープ

「探偵さん。僕は今失意のどん底にいます。というのも、四月から思いを寄せていた同期に恋人が出来てしまったのです。夏なのに、家でバックナンバーのヒロインを口ずさむ毎日です。同期の恋人は端正な顔立ちで、学生時代はアメフト部。二十四歳にして立派なビール腹、学生時代は麻雀に明け暮れていた僕では、どう足掻いても彼女を奪うことは出来ないでしょう。


 そこで、探偵さんお願いです。同期の恋人とリングの上で戦わせて欲しいのです。こんな事が全くの無意味である事は、依頼者の僕が一番よく分かっています。ただ精神的に落ち込んだ時には、肉体的な徒労を以って解決するのが最適であることは、ヘミングウェイの小説が示す通りです。それに同期の恋人と僕は体型は全く異なれど、共に172cm70kgと同じライト級であり、拳を交えるには絶好の条件です。太宰は「人は恋と革命のために生まれて来た」と言いました。四ヶ月に渡る実らぬ恋に終止符を打ち、社会人になっても意識せざるを得ないスクールカーストへの革命を起こす為、是非ともお力添えを願いたいです。


p.s. 僕は格闘技の経験が無く、殴り合いの喧嘩もここ十五年はしていません。ボコボコにされそうになったら助けてください。」




関西では知らない人は居ない探偵さん達がいる。視聴者の依頼を探偵に扮した芸人達が解決するという超人気番組があるのだ。僕はアメフト男に一矢報いるため、その番組宛に文をしたためたのだ。我ながらいい依頼文だ。大衆ウケを目的に文章を書くのは気が乗らなかったが、背に腹は代えられぬ。実際聞いていたのはELLEGARDENの『Marry Me』であったし、アメフト男との対決で遅れを取るつもりも毛頭無かったが、採用されるためにはこの文章が正しい。採用される事が重要なのだ。採用されさえすればRage Against The Machineの『Take The Power Buck』で入場し、試合は寝技に持ち込んで豊富な格闘技の知識を活かして締め上げてやる。いや、ドン・フライ対高山のような真っ向勝負を演じようか。どんな試合内容になるにしても負けるわけにはいかない。依頼文を書く前のナイーブな気持ちは消え失せ、僕の目はしっかりと来たる戦いを見据えていた。

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