精神vs肉体
文字通り膝を交える関係になった僕らはより密接に関わるようになった。労働により疎外されていたこともあり、互いに互いを強く求めあっていた。僕らは毎晩のように一時間以上電話で語り合った。話の内容は芸能ネタや、マミちゃんとエスカレーター男の恋愛の進捗等他愛の無いものばかりであったが、僕には他愛の無い幸せこそが足りていなかったのであり、ようやく共学出身者に対する劣等感から開放されたのであった。無論電話だけでなく逢瀬も重ねた。僕の家にマミちゃんを招いた際、コップに飲み物を入れた瞬間底から油が浮き出て来て、僕の家の不衛生さにマミちゃんが発狂するハプニングもあったが、順調に互いの家で『プリズンブレイク』を見進めていった。また僕のあまりに悲惨な食生活を心配したマミちゃんが時々お弁当を作ってくれたり、叱責され落ち込んだマミちゃんが職場から泣きながら電話を掛けて来たりと、月並みな言葉で言えば彼女にとっても僕は友達以上恋人未満の存在になれていたと思う。
マミちゃんとの恋愛は順調に進んでいるかに思われたが、それは僕だけでは無いようであった。連休の度にマミちゃんは関西に帰省し、エスカレーターとも逢瀬を重ねているようであった。連休が明ける度マミちゃんは僕にエスカレーターとの思い出を楽しそうに話した。コップを持つときの前腕の張りが、アメフト部で鍛え上げた肉体を引き立たせ、とてもセクシーであったことや、一度デートをして解散したものの、もう一度会いたくなって深夜に再集合し花火をした事など、並みの男が聞いたら卒倒しそうな内容ばかりであったが、僕は平然とした顔で彼女の話を聴き、的確な助言を施した。あまり二元論的な考え方は好きではないが、マミちゃんを巡るこの戦いは精神と肉体の戦いでもあった。部活動で鍛えた非凡な肉体と、内部進学で甘やかされた凡庸であろう精神を持つアメフトエスカレーター男。怠惰な生活により甘やかされた凡庸な肉体と、男子校という極限の環境下で虚学だけをひたすらに詰め込んだ非凡な精神を持つ僕。マミちゃんの主観だけが判定基準の恋愛という舞台で、この両雄がぶつかり合っているのである。精神代表の僕としては弱気を見せる訳にはいかなかった。
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